電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第636回

国内唯一のメモリーメーカーとして孤軍奮闘するキオクシアが果敢に攻めている!


第9世代の次世代NANDフラッシュメモリー量産開始を決定

2025/8/8

 東芝のNANDフラッシュメモリー事業が分社化する形で設立されたキオクシアは、ここにきて一大飛躍の時を迎えている。2023年度に大幅に落ち込んだ売り上げは24年度になんと前年度比58.5%増となり、勢いがつき始めたのだ。

 キオクシアの売上高推移は19年度に9872億円、20年度に1兆1785億円、そして21年度に1兆5265億円を記録し、これが過去のピークとなっていた。ところが、22年度には1兆2821億円、23年度には1兆766億円と急落。株式市場ではまったくもって人気がなかった。

キオクシアの24年度業績は大幅回復
キオクシアの24年度業績は大幅回復
 それでも、24年末には何とか株式上場を果たしたのである。24年度の業績については、まさにサプライズであった。売上高は前年度比58.5%増の1兆7065億円、営業利益は4530億円で純利益は2660億円であった。23年度は2446億円の赤字であったが、24年度は大きく回復し、売上高と純利益は過去最高になったのである。

 そのキオクシアがここにきて、一気に攻めるという作戦に転じている。25年度内に第9世代と言われる次世代メモリーを量産することを決めたのだ。四日市工場で生産することになり、すでにサンプル出荷を開始している。スマホなどに採用されるものであり、22年に生産開始した第6世代品と比べれば、データの書き込み性能が61%、読み出し性能が12%高い。電力効率も3割前後改善したという優れものなのである。

 そしてまた、今後はデータセンター向けのSSDを強化する方向であり、とりわけAIサーバー向けの3次元フラッシュメモリーを強化する考えだ。この関連で言えば、キオクシア岩手の第2棟の立ち上げ、つまりは装置導入が早まるとの情報も出始めた。

 加えて、横浜テクノロジーキャンパスに建設した技術開発新棟と新たに設置する新子安テクノロジーフロントも新材料、新プロセス、新デバイスなどの幅広い先端研究を支える拠点として大きな役割を果たしている。キオクシアはこの間、設備投資を抑えに抑えてきたが、こうした状況下で一気の投資拡大も狙う構えなのである。

 財務的な裏づけについても、様々な作戦を展開している。政策投資銀行が保有する3303億円分の優先株の取得が完了した。そして、取得した全株式を消却した。これで、総額計22億ドルのドル建て社債を発行し、調達した資金を自社株買いに当てたのである。財務負担を抑えて、思い切った製品戦略を進める体制もできたのだ。

 DRAMという汎用メモリーを持たない我が国にあって、キオクシアはメモリー専業の貴重なメーカーなのである。ぜひとも、ウエスタンデジタルとの共闘により、NANDフラッシュの世界トップを目指してもらいたい、と筆者は切に思っている。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索