ニッポン半導体の国家戦略カンパニーともいうべきラピダスは、ついに2nmプロセスの試作に成功する、という快挙を成し遂げた。ほんの1年くらい前には、「40nm以下を作れないニッポン半導体が2nmプロセスなど作れるわけがない」という一部のオピニオンがあったわけだが、これを黙らせる出来事であったといって良いだろう。
そしてまた、「日の丸半導体のラピダスは、何を作るのだ」という一部の心ない意見もあったが、これをも封じ込めたことになる。はっきり言っておくが、ラピダスが日の丸半導体と言われるのはまったくもって誤っている。前工程についても、後工程についてもすべては米IBMの技術を導入しているのだ。言うところのGAAという画期的な立体構造のトランジスタでナノシート構造を採用している。
さらに言えば、半導体製造プロセスやEUV露光などの最先端技術については、ベルギーのimecの全面協力を仰いでいる。つまりは、ラピダスというカンパニーは日米欧の連合軍で立ち上げるわけであり、このことが分かっておられない輩も多いのだ。
ラピダスの第1期の建物は4階建て、延べ床面積15万9000m²という大型スケールであり、巨大な設備投資が予定されている。工事を請け負った鹿島建設はまさに韋駄天の速さで立ち上げたわけであり、これに驚く関係者はかなりいると聞いている。
EUV露光装置については、2024年末に装置を搬入し、わずか3カ月でこの稼働を成功させたのは世界にも類例がないという。そして、7月10日には2nm半導体の試作成功に必要な動作が確認された。25年度中にはチップ設計に必要なPDKをクライアントに提供し、そうした顧客が自社製品の設計を始めるための環境を整えるという手はずになっている。
かなり前のことであるが、筆者はラピダスの東会長、小池社長、折井専務など最高幹部に連続してインタビューを行ったことがある。その折に聞いたことは、「ラピダスは必ず立ち上がる。何と言われようとやってみせる」という強い意志と立ち上げについての自信であった。
先端半導体の受託生産が台湾TSMCに集中するのは多くの顧客にとってリスクがあり、TSMCに次いで2nm世代の量産化を目指すラピダスの存在は、こうしたリスクを軽減するうえで「意義がある」と政府は強調する。
しかしながら、7月20日の参議院選挙において自民党は大敗し、公明党も後退し、与党はまさにボロボロになっている。これまで、「半導体による国づくり」を強力にアピールしてきた石破茂首相についても、「一刻も早く辞めるべきだ」との声が野党だけではなく、与党の中でもいっぱい上がっているのである。これをきっかけにラピダスの支援をこのまま続けていくことができるのか、という議論になる可能性も出てきた。
しかし、ニッポン半導体復活のためにも、半導体による経済効果を日本列島全体に波及させるためにも、ラピダスの巨大投資は何としても実行されなければならない、と筆者は強く強調したいのである。
ちなみに、ラピダスに出資する政府はこの参議院選挙の前にラピダスの黄金株保有というとんでもない事を決定した。つまりは、重要事項について拒否権を持つ黄金株を発行すれば、外資による買収など経済安全保障上のリスクに備えられるわけである。8月中旬にも施行される見通しだ。つまりは、石破政権が仮に倒れるようなことがあっても、この黄金株がモノを言うのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。