毎年のことだが、今年もいつの間にかもう終わってしまう。2025年は個人的に色々と変化の年だったのだが、それは置いておいて、(株)アダストリア改め(株)アンドエスティHDこそ激動の年だったのではないかと思いを馳せる。同社はグローバルワークやニコアンドなどのアパレルブランド、スタディオクリップやラコレなど雑貨が強いブランドも展開しているマルチカンパニー。自社EC「and ST」が武器で、自社ブランドを集結させたOMO型店舗「and ST STORE」を全国に拡大中だ。同社は25年、リアル・デジタルの両面で、ビジネスモデル変革や新たな取り組みなど複数の改革を実施した。
4月24日、同社のOMO型旗艦店となる「and ST TOKYO」が東京・原宿にオープンした。JR原宿駅の目の前のWITH HARAJUKUの1階に位置し、内側への視認性が高いガラス張りのファサードを備えた路面店のような構えとなっている。開店時に取材したのだが、店内にポップアップ用スペースが大胆に確保されていることが印象的だった。
同店はメディアストアとしてパートナー企業の情報を発信する機能を持ち、業種・業態・カテゴリーの枠を超えたコラボを実施するBtoBの側面も備え、ファッション業界全体の可能性を開拓していく。ときどき訪れて同店を覗いてみると、新たなコラボコンテンツやコーディネートが展開されており、毎回新たな発見があり面白い。同店の年間集客数は100万人を目標としているが、半期時点で55万人を突破しており、好調のようだ。
9月1日には、アダストリアからアンドエスティHDへと名称変更し、持株会社体制へと移行。(株)アンドエスティがプラットフォーマーの中心となり、マルチカンパニーとしてグループ運営を強化した。ちなみに、これによりアダストリア事業は、アンドエスティ傘下に設立した新アダストリア社によって引き継がれた。
10月15日には、同HDの今後の戦略などを発表するビジョンカンファレンスが開催された。その目玉は、同社が展開するプラットフォームand STに、ライバル企業ともいえる(株)ジュンや(株)ユナイテッドアローズなどの一部アパレルストアがオープンするというもの。ECのオープン化により、服を売るだけではない、ライフスタイルの提案という新たな価値を創出した。「競争より共創」を掲げ、社長自らが出向き各社へ営業。今回参画した企業の1つである(株)ICLは、「価格勝負ではなく価値を届ける新たな基軸として、お客様とブランドを繋ぎ続けていただきたい」と期待を寄せた。
さらに、新たなユーザーサービスとして、10月27日にはデジタルバンク「みんなの銀行」の「and ST支店」を開設。12月1日には、自社クレジットカード「and ST CARD」の発行・利用開始をスタートした。and STグループ店舗でのショッピングで、より大きなポイント付与などの恩恵が受けられる。まさにライフスタイルに根差す新たな輪が創られようとしている。
今年のアンドエスティHDの取り組みを見ていると、ファッション業界が新たなステップへと一歩踏み出しつつあることを感じる。一企業での顧客の囲い込みという従前のやり方から逸脱し、複数企業で手を取り合って成長を遂げていくスタイルへの転換だ。今後の同社の新たなアプローチや、他社への波及効果を含めた業界全体の変化も見届けていきたい。26年も楽しみだ。