電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第647回

太陽電池の変換効率はまだまだ上がる


波長変換で未利用の光を活用

2026/4/3

 太陽電池(PV)の変換効率を改善する方法として、波長変換技術が注目されている。最近では、有機材料や金(Au)クラスターを利用することで、近赤外光をPVが吸収できる可視光に変換できることが報告されている。

 現在主流の結晶シリコン(Si)PVは、大面積セルでも変換効率が27%を超えているが、これ以上の大幅な向上は難しい。ただ、近赤外などの未利用の光を吸収して光電変換できれば、理論限界効率を突破することも夢ではない。

PVの変換効率はすでに飽和

 太陽光には様々な波長の光が含まれるが、PVはそのすべてを吸収して光電変換できるわけではない。PVが吸収できる太陽光エネルギーはその材料のバンドギャップ(Eg)で決まる。

 例えば、結晶Si(Eg=1.1eV)では、400~1100nmの波長の光を吸収できるが、それよりも長い波長の光は透過し、発電には利用できない。また、次世代PVとして期待されているペロブスカイト太陽電池(PSC)は組成によりEgが異なるが、一般的なMAPbI3のEgは1.55eVで、吸収波長領域は400~800nmになる。

 このように、光の透過損失や熱損失、さらには再結合損失、反射損失など、様々な損失があることで、PVの変換効率の上限は30%前後にとどまる。これは理論限界効率(Shockley-Queisser Limit)と呼ばれる。

 ちなみに、結晶SiベースのPVセルはTOPCon(Tunnel Oxide Passivated Contact)やHJT(Hetero Junction)、さらには、HJTとBC(Back Contact)を組み合わせたHBCで高い変換効率を実現しており、25年には、LONGi(中国)がHJTとBCを融合したHIBC(Hybrid Interdigitated-Back-Contact)セルで27.81%の変換効率を達成した。単接合型の結晶Siでは世界最高効率になる。

タンデム型で30%超を実現

 PVセルの変換効率はすでに理論限界効率に迫っており、これ以上の大幅な向上は難しいが、2つの発電層を重ねたタンデム型では30%以上の変換効率が狙える。タンデム型では、トップセルが400~800nmの光、ボトムセルが1100nmまでの光を吸収する。Egの異なる発電層を組み合わせることで、幅広い太陽光スペクトルを効率よく吸収できる。

 そして、タンデム型のトップセルは短波長~可視光の吸収係数が高く、透明性の高い材料が必須となるが、今のところ、可視光の変換効率が高く、Egのチューニングが可能で製造コストも安価なPSCが最も有望とされる。

 一方、ボトムセルは結晶Si、CIGS、PSCなど選択肢は多いが、PSCと結晶Siの組み合わせが最も変換効率が高い。PSC/Siタンデムの理論限界効率は43%とされており、世界中で開発が加速している。25年には、LONGiが2端子構造のタンデムセルで34.85%を達成し、世界最高効率を更新した。

 Trina Solar(中国)も14年からPSC/Siタンデムの開発に取り組んでおり、25年にはタンデムモジュール(モジュール面積3.1m²)で最大出力808Wを達成した。工業サイズのPVモジュールで、世界で初めて800Wの壁を突破した。

PSC/Siタンデムモジュール(Trina Solar)
PSC/Siタンデムモジュール(Trina Solar)
 さらに、26年3月に東京ビッグサイトで開催された「PV EXPO 2026」の会場では、同サイズの2端子構造のPSC/Siタンデムモジュールで、出力が886W(モジュール変換効率28.5%)まで向上したことを示した。タンデム型モジュールは10MWのパイロットラインで生産しており、早ければ、27~28年の本格量産を目指している。

 Fraunhofer ISE(ドイツ)は、Ⅲ-Ⅴ族化合物と結晶Siを組み合わせたタンデム型を開発しており、セルで36.1%、モジュール(218cm²)で31.3%の変換効率を実現しているが、ボトムセルにGe(ゲルマニウム)を用いたⅢ-Ⅴ族化合物/Geの3接合モジュール(833cm²)で34.2%の世界最高効率を達成した。

長波長の光も発電に利用

 もっとも、従来の単接合型でも、近赤外など未利用の光を吸収できれば、さらなる効率向上が期待できる。長波長(低エネルギー)の光を短波長(高エネルギー)の光に変換する技術はフォトン・アップコンバージョン(UC)と呼ばれる。エネルギーが大きい短波長の光を利用することで、太陽光エネルギーの利用効率が高まる。

 UCの材料としては希土類イオンを含むナノ粒子が有望だが、希土類材料は光を吸収する能力が低い。そこで、早稲田大学と桐蔭横浜大学の研究グループは、近赤外光を強く吸収する有機色素を組み合わせた希土類系UCナノ粒子を開発し、PSCで近赤外光のエネルギーを可視光吸収に相当する高電圧出力へと変換することに成功した。

 近赤外光を強く吸収する有機色素のインドシアニングリーン(ICG)を、希土類イオンを含むナノ粒子の表面に固定した結果、弱い近赤外光でも希土類イオンから可視光が放出された。
 さらに、このナノ粒子の表面をペロブスカイト(CsPbBr3)で覆うという界面処理を新たに導入することで、粒子表面でのエネルギー損失を抑制し、約1.2Vの解放電圧(Voc)と16%超の変換効率を達成した。

 一方、芝浦工業大学、早稲田大学、東京科学大学の研究グループは、単一の有機結晶で、紫外光や近赤外光を可視光に変換できる新しい有機結晶材料を開発した。

 1,2,5-チアジアゾールを導入したピラジン誘導体を合成し、光応答特性を調査した結果、紫外光(365nm)照射では分子間相互作用に由来する赤色発光(613nm)を示し、近赤外光(1050nm)の照射では、結晶の非中心対称構造に起因する第2高調波発生が起こり、近赤外光が可視光である緑色光(525nm)に変換できたという。

 立教大学と東京大学の研究グループは、42個の金原子からなる異方的な形状を持つ金クラスター超原子(Au量子ニードル)を増感剤として用いることで、808nm励起で21.4%、936nm励起でも15.0%という高いUC変換効率を達成した。なお、21.4%の波長変換は世界最高効率になるという。

 Au量子ニードルは、高い近赤外光吸収能力、可視域での高い透明性、高効率な励起エネルギーの伝達などの特徴があるが、原子レベルで制御された針状構造をさらに伸長させることで、1000nm超の波長域まで光吸収を拡大することも可能としている。

紫外光を利用するという選択も

 京都大学発スタートアップ企業のOPTMASSは、局在プラズモン共鳴(LSPR)を示す半導体ナノ粒子(硫化銅ナノ粒子など)を利用することで、赤外線自体を発電に利用する透明PV(発電ガラス)を開発している。1100nmの波長域で変換効率4%を実現し、長波長限界(2000~2500nm)領域の太陽光のエネルギー変換も世界で初めて実証している。この発電ガラスをあべのハルカス(大阪市)に設置した場合、1MWの発電容量が可能と試算している。

 京都大学は上方変換材料と呼ばれる材料に着目している。上方変換ナノ粒子をハイドロジェル中に分散させた接着剤を作成し、薄膜Siと結晶Siのウエハーを接合した多接合素子を試作したところ、入射光がより吸収されやすい波長帯に変換されたことで、レーザー照射下では電流が約2割、発電効率が約3割向上したという。

 波長変換機能を備えた界面材料は簡易なプロセスで高性能な接合形成と光機能の両立が可能なことから、多接合型PVでは光吸収の最大化と発電層間の電流整合により、発電性能の向上が期待できる。

 可視光をエネルギーの高い紫外光に変換する研究も進んでいる。東京科学大学は可視光(青色光)を空気中で安定かつ高効率に紫外光に変換する新たな固体膜を開発した。

 増感分子(CBDAC)と発光分子(PPO)の混合粉末を融解し、温度勾配を保ちつつ一定速度で温度降下することでCBDACが微量ドープされたPPO多結晶膜(200μm)を作成した。これに空気中で青色レーザー光(440nm)を照射したところ、短波長シフトしたUC光(発光フォトンの6割が紫外域)が得られた。光触媒や人工光合成に応用できるという。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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