電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第675回

ソーラーカー実現の道険し


次世代PVが普及のカギを握る

2026/10/16

 自動車のルーフなどに太陽電池(PV)パネルを搭載したソーラーカーは、化石燃料に依存せず、温室効果ガスの排出もないことから、次世代のモビリティとして普及が期待されている。ただ、本格的な普及には多くの課題があり、なかでも、最大の課題となるのが製造コストである。設置スペースが限られる乗用車においては、十分な走行距離を確保するには、III-V族化合物のような超高効率PVが理想的だが、こうした超高効率PVは製造コストも高価で、民生用としては導入が難しい。

 一方、ペロブスカイト太陽電池(PSC)やカルコパイライト(CIGSなど)のような次世代PVを用いたタンデム型では30%超の変換効率が可能なことから、これを活用したソーラーカーはコストと実用性を両立できる可能性がある。

PV電力は輸送分野の脱炭素に貢献

 PVパネルを搭載した車両は、輸送分野の脱炭素化に貢献すると期待されており、TNO、Fraunhofer ISE、Sono Motos、Lightyearなどが主導する欧州の研究プロジェクト「SolarMoves」の調査によると、PVパネルを搭載した車両は、中央ヨーロッパでは年間エネルギー需要の最大55%、南ヨーロッパでは最大80%をPV電力でまかなうことができるとしている。またシミュレーションでは、2024~30年の間に販売する、すべての新車にPVを搭載した場合、30年には欧州の電力網からの電力需要が15.6TWh減少する可能性があると試算している。これは約2200基の陸上風力発電の年間出力に相当するという。

 そして、車載用PVは特に物流分野での利点が大きい。配送用のトラックやトレーラーはルーフのスペースが広いため、PVの設置容量が増えるからだ。また、冷却や空調、補助ユニットに多くのエネルギーを消費することから、この一部をPV電力でまかなえれば、化石燃料の消費を減らすことができる。

輸送分野ではPV活用の余地が大きい
輸送分野ではPV活用の余地が大きい
 ちなみに、電動トラックでは、車載PVにより1日あたりの走行距離が最大15%延びる。また、ルーフにPVを搭載したトラックトレーラーは、夏季には1日あたり最大55kWhの発電が可能で、車体の側面にPVパネルを追加して設置できれば、発電量は90~110kWhまで増え、PV電力のみで冷却や油圧システムを駆動できるとしている。

欧州の新興がソーラーカーの開発断念

 車載PVは物流分野では有望だが、自家用車ではハードルがかなり高そうだ。16年に創業した欧州のスタートアップ企業も相次ぎ計画の見直しに迫られている。Sono Motors(ドイツ)はPVモジュールを車体全面に張り付けたEV「Sion」の開発に取り組んできたが、23年に同プログラムを終了し、PV搭載EVの自社生産を断念した。24年3月には、ドイツ・ミュンヘンの地方裁判所において、破産およびリストラ計画が承認された。

 Sionプログラムは終了したが、車載用PVの技術開発および用途開発は継続し、バスやトラックなどの商業車、さらにはサードパーティーのOEM車など、BtoB向けのPVソリューションの提供に舵を切った。そして、25年8月には、ブランド名を「Sono Solar」に刷新し、運営およびコミュニケーションを統一することで、両向けPVソリューションの提供を目指してきたが、その後、事業継続に必要な資金を確保できなかったことから、26年7月末で事業活動を終了し、倒産手続きを進めることになった。今後は車載用PVシステムおよびIPを含むすべてのコアテクノロジーポートフォリオの売却に注力するとしている。

 Lightyear(オランダ)は21年にプロトタイプの「Lightyear One」を発表し、走行試験では、時速約85km、85.6Wh/hの電力消費量で710km(441マイル)以上の航続距離が可能なことを示した。また、車載用PVを自社で製造する拠点として、オランダ・リンブルフ州フェンラユにある旧Inalfa Roof Systemsの建物を確保した。22年7月には、世界初の量産モデルとなる「Lightyear 0」を発表し、22年末から生産を開始したが、23年3月に同モデルの生産を停止し、次世代モデルとなる「Lightyear 2」の開発および生産に経営資源を集中することを決めたが、その後、この計画も頓挫した。

 現在は、車載用PVシステムを自動車メーカーに供給することに注力しており、26年1月には、日産自動車と協業し、開発した車載用PVシステムを搭載したデモ車両を共同開発したことを発表した。デモ車両ではボンネット、ルーフ、テールゲートに総面積3.8m²のPVパネルを配置し、太陽エネルギーで最大23kmの走行が可能なことを示した。

小型モビリティではPVが有望

 一方で、PVパネルを搭載した小型モビリティの開発が活発化している。Aptera Motors(米国)が開発中のEV「Aptera」は前輪が2輪、後輪が1輪の三輪車で、車体の上部に2.4m²のPVパネルを配置している。PV出力は700Wで、PV電力のみで1日最大40マイル(64km)の走行が可能という。日照条件が良い場合は、年間の航続距離が1万1000マイル(1万7700km)以上、日照が少ない地域でも8000マイル(1万2800km)以上の走行が可能となっている。

 25年6月には、PVシステムを完全に統合した量産モデルを発表し、これまでに5万件近い予約を獲得済み。26年3月には、カリフォルニア州カールスバッドにある検証用の組立ラインで最初の車両を作製し、同年5月までに5台の車両を作製した。さらに、同年6月には、作製した検証用車両の走行実験を南カリフォルニアで行い、搭載したPVパネルで1日あたり4.42kWhの発電量が得られ、1日最大44マイル走行できることを確認した。

 Squad Mobility(オランダ)はLightyear社の元従業員が立ち上げたスタートアップで、19年11月に、都市用のソーラーカー「SQUAD Solar City Car」を発表した。「SQUAD Solar City Car」は全長2m、全幅1.2m、全高1.6mで、乗員数は2~4人。最高速度は45km/h~70km/h、航続距離は100kmで、PV電力のみで1日あたり20kmの走行が可能という。24年7月には、23のEUパートナーが参画するプロジェクト「GIANTS」を通じて135万ユーロの資金を獲得した。また、26年2月には、インド・マハーラーシュトラ州プネーに生産拠点を設置することを発表しており、26年後半から生産を開始する予定だ。

 EVジェネシス(東京都渋谷区)は23年設立のスタートアップ企業で、オーダーメードのEV三輪車を開発・製造している。24年6月に開始した実証実験では、EV三輪車の屋根にCIGSモジュール(PXP製)を設置し、PV電力で1日に15~20kmの走行が可能なことを確認した。さらに、24年10月には、PSCを搭載したEV電配車を発表した。25年8月に販売を開始した次世代モビリティ「スリールオータ」は、日常の移動手段や災害時の電力支援車としても活躍する3輪の電動モビリティで、販売する限定モデルには、変換効率23%の高効率PVパネルを2枚設置しており、太陽光だけで30~40kmの走行を実現している。

大手自動車メーカーもPVの活用模索

 大手自動車メーカーもPVの活用を模索している。トヨタ自動車は05年からPV搭載車の開発を開始し、13年には出力840WのPVを搭載した実験車(プリウスPHV)を試作した。社内の走行試験の結果、平均発電量は2.1kWh/日で、1日あたり32km走行できることを確かめた。この実験車をベースに、17年2月には、180WのPVを搭載した第2世代のプリウスPHVを発表した。PV出力が増加したことで、PVで発電した電力でモーター走行が可能になった。22年に発表した「bZ4X」にも出力225WのPV(カネカ製)を搭載した。

 19年からは、NEDOおよびシャープと共同で、第3世代となるPV搭載車の実証実験に取り組んでいる。PVはシャープが開発したInGaP/GaAs/InGaAsの3接合型を採用した。モジュール面積は3m²(ルーフ、フード、ハッチ)で、出力は860Wとなっている。走行試験の結果、1日平均17km、年間6000km以上をPV電力で走行できることを確認している。そして、23年3月には、カネカのHBC(ヘテロ接合&バックコンタクト)を採用した新型プリウスPHEVを発表した。また、23年7月には、京都大学発のスタートアップ企業で、PSCの商業化に取り組むエネコートテクノロジーズと協業して、車載用PVの開発を開始した。

 日産自動車はシャープと共同で移動体へのPV搭載の可能性を検証するため、III-V族化合物PVモジュールを搭載したEV「e-NV200」を開発した。PVセルは約0.03mmの薄いフィルム状で、車体の曲面形状に沿って効率よく搭載できることから、約1150Wの定格出力を実現した。また、25年7月には、神奈川県が実施する次世代PVプロジェクトの実証実験に採択された。日産神奈川販売「R1東戸塚店」にフレキシブルCIGSを設置し、店内のディスプレーやスマートフォンの充電器、自動販売機などの電源に活用する。

Ao-Solar Extender(日産自動車)
Ao-Solar Extender(日産自動車)
 一方、「JAPAN MOBILITY SHOW 2025」では、軽EV「日産サクラ」のルーフに電動スライド式ソーラーシステム「Ao-Solar Extender」を搭載したコンセプトカーを発表した。「Ao-Solar Extender」は、日産が開発した電動スライド式のソーラーシステムで、走行中はルーフに搭載したメインのPVパネルが発電(最大出力300W)する。そして、停車時には収納されていた可動式のPVパネルが前方にスライドすることで発電面積が拡張し、出力が合計500Wになる。

 「Ao-Solar Extender」で発電した電力は自動でEVのバッテリーに充電される。これにより、年間最大で約3000km相当の走行に必要な電力をPVで賄うことができるという。スライド式ソーラーシステムは、発電性能の向上だけでなく、車内の温度上昇を抑制できるという利点もある。展開したPVパネルがフロントガラスに照射する太陽光を遮断することで駐停車時の車室内の温度上昇を抑え、エアコンの消費電力を抑制できるとしている。

 Mercedes-Benz(ドイツ)は、22年にPVパネルを搭載した新型EVの「VISION EQXX」を発表したが、25年10月には、新たなコンセプトカー「Vision Iconic」を発表した。同社が研究開発を進めるソーラーペイントを採用したのが大きな特徴で、車体の表面に直接、PVモジュールを塗布形成することで、車のデザインを損なうことなく、車両のあらゆる曲面を発電に利用できるとしている。理想の気象条件であれば、太陽エネルギーのみで、年間約1万2000kmの走行が可能という。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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