リチウムイオン電池(LiB)の主力アプリケーションは何といっても電気自動車(EV)をはじめとする電動車向けで、LiB市場全体の実に9割を占める。一方で、EV需要の鈍化に伴い電動車向けが伸び悩むなか、急速に拡大しているのがBESS(バッテリーエネルギー貯蔵システム)向けだ。LiBメーカー各社はBESS向けへのシフトを強化しており、BESS向けの四半期売上高が電動車向けのそれを上回るケースも少なくなくなってきた。
BESSは、主に再生可能エネルギーと連動したバックアップ電源、ピークカット、ピークシフト、蓄電池事業や、データセンター向けのUPS電源など、様々な分野で採用されている。本稿ではBESSを系統電力に直接接続して電力市場取引を行う、蓄電所事業(再エネ併設型含む)について取り上げる。
経産省補助金採択額は過去最高
蓄電所事業は、安く買って(充電)、高く売る(放電)ことの差分で収益を確保する「卸電力市場」(JEPX)、周波数変動に対する一次調整力を提供する「需給調整市場」、将来に必要な供給力を確保するための供給力を取引する「容量市場」などがある。また、容量市場は「メーンオークション」と「長期脱炭素電源オークション」の2つがあり、後者は特に脱炭素化を目的に制度化されたもの。
参入メーカーは電力会社、石油・エネルギー会社、不動産会社、商社、通信会社、スタートアップなど様々だ。また、蓄電所を構成する蓄電池、バッテリー・コントロール・システム、パワーコンディショナー(PCS)、UPS電源、分電盤、消火設備などを開発・製造する、数々のメーカーが製品を供給している。蓄電所向けの土地を提供する不動産業も参入しており、最近では蓄電池を設置したうえで販売するケースも増えている。
さらに、蓄電所事業の運用(アグリゲーション)を手がけるアグリゲーターは事業を左右するうえで極めて重要な存在となっている。
こうした蓄電所に対して国や地方自治体は手厚い補助金制度を用意している。特に経済産業省の「再生可能エネルギー導入拡大・系統用蓄電池等電力貯蔵システム導入支援事業費補助金」は有力だ。系統用蓄電池や併設型蓄電池などの導入費用を補助するもので、補助率は3分の1~3分の2。25年12月に発表された25年度採択結果は、採択総額約363億円、採択件数37件となり、いずれも過去最高となった。なお、過去の採択総額は22年度が128億円、23年度が173億円、24年度が346億円だった。
矢野経済研究所によると、24年度における国内蓄電所事業市場は主に需給調整市場が牽引し、450億円に達した。その後、25年度に750億円、30年度に4240億円と成長していく予測となっている。なお、この金額は電力取引市場での売電に伴う事業者の収入(金額)をベースに算出したもの。
国内各地に立地、RFB案件も
蓄電所事業の参入企業は三菱地所、伊藤忠商事、東京センチュリー、JERA、東京電力ホールディングス、関西電力、中部電力、ENEOSホールディングス、出光興産、三菱商事、三井物産、NTTアノードエナジー、KDDIなど多岐にわたる。
東京センチュリーは、千里蓄電所(大阪府吹田市、出力11.0MW・容量23.0MWh)、岩手北上蓄電所(岩手県北上市、1.9MW・8.1MWh)を運用中。また、27年度より北海道芽室町蓄電所(20.0MW・78.9MWh)、28年度より長崎市蓄電所(長崎市、15.6MW・64.4MWh)の運用をそれぞれ開始する予定だ。千里蓄電所が大阪ガスおよび伊藤忠商事、北海道芽室町蓄電所がJFEエンジニアリングとの共同出資で、岩手北上蓄電所と長崎市蓄電所は東京センチュリー単独出資となる。
三菱地所らが手がける福岡県筑前町蓄電所(イメージ)
三菱地所は福岡県筑前町蓄電所(福岡県朝倉郡筑前町、67MW・230MWh)、上長都蓄電所(北海道千歳市、25MW・50MWh)を建設中。前者は先述の経産省の補助金が適用された大型案件。事業主体は福岡県筑前町蓄電所合同会社で、三菱地所、伊藤忠商事、東京センチュリーらが出資。28年1月から運用を開始する計画だ。一方、後者は三菱HCキャピタルエナジーが主導する案件。出資比率は同社65%、三菱地所20%、サムスン物産10%、大阪ガス5%となっている。27年1月から運用を開始する予定だ。
NTTグループのエネルギー部門、NTTアノードエナジーは27年度末までに23カ所、合計300MWhを超える蓄電所の展開を進めている。これまでの設置実績としては、田川蓄電所(福岡県香春町、1.4MW・4.2MWh、九州電力・三菱商事との共同事業)、福岡若松蓄電所(北九州市、2.0MW・8.2MWh)、青森三沢蓄電所(青森県三沢市、1.9MW・8.2MWh)などが挙げられる。
また、建設中の案件として北海道苫小牧蓄電所(北海道苫小牧市、18.2MW/76.7MWh、28年度運転開始)がある。
同社は蓄電所事業の構築~保守・運用までを一気通貫で支援する「蓄電所構築・運用おまかせサービス」を展開している。28年度までに10カ所以上・売上50億円以上を目指すとしている。
同サービスは、従来は蓄電所事業構築で不可欠だった蓄電池、PCS、EPC事業者、保守事業者、アグリゲーターなどとの連携を不要とすることでシステムの組み合わせ評価不足による工程のやり直しや、蓄電池の劣化を考慮しない運用による性能低下、トラブル発生時のベンダー間調整といった課題を解決する。また、全国24時間365日の監視・駆付け体制による迅速なトラブル対応や、独自の「エネルギー流通プラットフォーム」の運用により、高精度な市場価格予測や複数の電力取引市場に対応する。
LiBではなくレドックスフロー電池(RFB)を用いた案件も増えている。例えば、新出光が11月から運用を開始する「長洲蓄電所」(熊本県長洲町、1.9MW・8.0MWh)は、住友電気工業製のRFBを採用している(施工・保守は新出光ファシリティーズ)。
電力取引の運用においてカギとなるアグリゲーターにおいては東芝、日鉄エンジニアリング、電源開発、エナリス、デジタルグリッド、E-Flow、RE100電力、Second Foundation Japanを含む、数々の企業が参入している。うち、日鉄エンジニアリングは同社の25年以上にわたる電力実需給運用ノウハウや、独自AIプラットフォームを活用したアグリゲーションサービスを提供している。主にFIP(Feed-in Premium)制度移行後の再エネ併設型蓄電池を対象に展開しており、同社がアグリゲーターとなり電力卸市場、需給調整市場、容量市場といった電力市場向けに充放電計画・発電計画を最適化し、顧客が保有するリソースの収益を最大化する。また独自AIプラットフォームの活用により、発電・需要・劣化予想、価格予測、気象予報、燃料・為替動向などをベースに、最適計画・制御や市場取引・需給管理を一体的に実施する。さらに、EPCの知見を活かし、蓄電池サプライヤーや電力同調制御を担う外部ベンダーとの連携なども行う。
これまでのサービス実績は、TAS熊本三角ソーラーファーム(熊本県宇城市、2.0MW・2.2MWh)、青柳ソーラーファーム(福岡県古賀市、1.8MW・2.6MWh)など多数。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東 哲也