半導体用フォトマスクの大型化に向けた動きが強まっている。先端プロセス向けに高NA EUVリソグラフィー装置(開口数=0.55)の適用が今後見込まれるなか、生産性向上の一手として現在主流の6インチマスクから12インチマスクへの移行が現実味を帯びてきている。露光装置大手のASMLとTSMCなど大手半導体メーカーは、12インチ化に向けて共同イニシアチブを設立。マスク製造に係る装置・部材などサプライチェーン側の負担が今後大きな課題となりそうだ。
ASMLと主要顧客らが共同イニシアチブ設立
9月に入り、ASMLとその主要顧客であるTSMC、サムスン電子、インテルらが共同で発表を行った。そのなかで、フォトマスクの12インチ化に向けて共同イニシアチブを設立することを発表。TSMCとサムスンがこれに参加を表明した。
TSMCは従来、生産性の低さならびに装置導入コストの高さから、高NAの導入に消極的とされていたが、今後のさらなる微細化を見据えて、2030年からの適用を目指している。製造プロセスではA14は導入が見送られるものの、A10もしくはそれ以降の世代で本格導入を行う予定だ。
高NAの本格導入に向け、業界全体で取り組もうとしているのが、12インチマスクの適用だ。現在、インテルなどが量産に適用している高NAは、従来と同じ6インチマスクが用いられているが、この場合露光フィールドが従来の半分になってしまい、生産性が大きく低下する。現状では「つなぎあわせ露光(ステッチング)」でこれに対処しており、12インチマスクの導入によりフルフィールド露光の実現を目指す。TSMCはASMLと共同で、12インチ化に取り組み、31年までにパイロットラインを構築、33年までに量産ラインへの適用を図っていく。
サムスンは、28年までに業界初となるDRAM製造への高NA適用を目指している。DRAM分野では、SKハイニックスもすでに開発用に高NA露光機の導入を済ませており、従来にも増して高NAの量産適用に向けた機運が高まっている。
ASMLが手がける高NA EUVリソグラフィー装置の組立現場
インテルは最先端の18Aプロセスに高NA露光機をいち早く量産適用。同社によれば、これまでに高NAで処理されたウエハーは100万枚以上に達しているという。ASMLとの共同声明では、3年以上にわたりサプライヤー企業など業界内で大型マスクフォーマットに対する取り組みを主導してきたと強調。一方で、先ごろ開催されたリソグラフィーの国際会議「SPIE Photomask Technology + Extreme Ultraviolet Lithography」においては、ASMLとともにステッチング露光に関する発表も行っており、量産導入前のTSMCとサムスンと比べて、12インチに対する導入姿勢に温度差があるようにも見える。
サプライチェーンへの負担懸念
12インチ化に向けて、描画・検査などのマスク製造装置、ブランクスやペリクルなど部材サプライヤーの協力が不可欠だ。かねて12インチ化に関してはマスク業界でも議論の対象となってきたが、投資負担が重いなどの懸念もあり、やや消極的な姿勢もうかがえた。今回、ASMLと半導体メジャー企業が12インチ化を強力に押し出したことで、今後サプライヤー企業も迅速な対応を迫られることになりそうだ。
描画装置などは12インチ化に伴い、「ステージの変更などは求められるが、開発負担はそれほど大きくない」(フォトマスク業界関係者)と言われているが、最も懸念されているのが外販マスクメーカーと部材分野だ。周知のとおり、フォトマスク市場は半導体メーカーがフォトマスクを自ら生産する「内製」市場と、外部企業が半導体メーカー向けに供給する「外販」市場に二分されている。内製市場に関してはTSMCやサムスン、インテルなど資金力が豊富な半導体メーカーが主役であり、12インチ化に際しても投資負担が増えるものの、これを乗り越えられる体力がある。
一方で、外販市場はテクセンドフォトマスクや大日本印刷(DNP)、フォトロニクスなど専業メーカーで構成されている。外販市場にすぐさま12インチ対応のEUVマスクが求められることはないものの、いずれその時期が来る。その際の投資負担はこれまでとは全く異なるスケールであり、早くもマスク業界からは悲鳴にも似た声が聞こえ始めている。
また、HOYAやAGCなどを代表とするブランクス分野も12インチ対応によって、投資負担が一気に増す分野と考えられている。ブランクス製造に必要なスパッタリング装置などを12インチ対応に切り替える必要があり、外販メーカー同様に投資リスクが顕在化することになりそうだ。
電子デバイス産業新聞 編集長 稲葉雅巳