電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第125回

続・FOWLPの衝撃


2015年最重要テーマの総決算

2015/12/11

 本紙『電子デバイス産業新聞』で2015年10月1日号から計7回にわたって、半導体業界に新たな構造変化をもたらす新技術「FOWLP(Fan Out Wafer Level Package)」に焦点を当てた連載「FOWLPの衝撃」を掲載した。従来のサブストレートを用いた半導体パッケージから、基板レスのFOWLPに移行することで、用いられる材料や装置も大きく変わってくるほか、上流のウエハープロセスを手がけるファンドリー業界にも影響を与えるため、あえて「衝撃」という少しスキャンダラスな表現を用いることになった。

 その後、多くの読者の方から反響が寄せられ、改めてFOWLPが業界における大きな関心事であることを痛感した。個人的にも、このFOWLPを年間通じた大きなテーマに据えていることもあり、今回は本紙連載開始後にFOWLP分野で起こったことなどを中心に、総決算というかたちで業界動向を改めて俯瞰してみる。――名づけて、「続・FOWLPの衝撃」。

Infineon「eWLB」が原点

 FOWLPは、チップサイズと再配線領域のサイズが同じであるファンイン型のWLPと異なり、チップサイズに比べて再配線領域が大きい。これにより、従来のファンイン型WLPでは難しいとされていた多ピンパッケージにも対応することができるため、スマートフォン用アプリケーションプロセッサー(AP)などのハイエンドロジックへの採用にも道が開かれ始めている。FOWLPを用いることで低背化を図れ、シリコンと樹脂基板の熱膨張係数の違いによる反りの問題を解消でき、今後は基板レスによる低コスト化も実現できる(現在は基板コスト対再配線コストというコスト対立がまだまだ議論されている段階)。

 もともとは独Infineon Technologiesが自社の携帯電話用ベースバンドプロセッサーに独自のFOWLP技術「eWLB(embedded Wafer Level BGA )」を採用したのが、業界では先駆け的な存在とされている。しかし、チップを一度個片化したのち、支持基板に高精度にボンディングしていく技術が求められるなど、歩留まり面で苦慮したとされており、その後大きな広がりを見せることはなかった。
 しかし、14年後半ごろから業界内では、再びFOWLPが注目を集める状況となっている。そのきっかけとなっているのが、やはりTSMCのInFO(Integrated Fan Out)であろう。米Appleが16年モデルのiPhoneのAPにInFOを採用するとの見方が出てきたことで、より一層クローズアップされることになっている。

確度を高める「2つの出来事」

 最大の関心事である「Appleが本当に16年モデルに採用するのか?」という点については、従来に比べてその確度が高まってきていると見られる。理由はいくつかある。まず1つがTSMCの製造装置の発注状況だ。


TSMCはInFOの事業化によって主力のウエハープロセスからのターンキーを狙う
TSMCはInFOの事業化によって
主力のウエハープロセスからのターンキーを狙う
 TSMCをはじめとする台湾企業は、台湾証券取引所に製造設備の発注に関する資料を提出しており、InFOの量産構築に向けた動きを把握できる。具体的には、11月に入り装置発注を加速させており、SPTSやアピックヤマダ、ズース・マイクロテック、ウルトラテック、ディスコなどのFOWLP関連装置メーカーの名が並んでいる(表参照)。リソグラフィー装置を手がけるウルトラテックも10月14日付で「台湾顧客からFOWLP向けに大型の受注を獲得した」とプレスリリースを公表、InFO立ち上げを裏付けるものとなっている。
 TSMCは現在、桃園市にある龍潭工場(Advanced Backend Fab 3)でInFOの量産ラインを整備している。同工場では最大で月産2000万個のInFO量産が可能とされており、現在は「(フルキャパシティーに対して)3分の1程度の装置発注が行われた」(材料メーカー)もようだ。

 そして、InFO採用を裏付けるもののもう1つが、パッケージ基板大手のイビデンの今後の事業見通しだ。同社はApple向けにFCCSP向けパッケージ基板を供給しており、FCCSP売り上げの約6~7割がApple向けと見られている。
 同社はこれまで一貫して、16年以降もFCCSPを用いたパッケージが踏襲されるとしていたが、15年度上期決算説明会において初めて、FOWLPの上市によるリスクに触れた。具体的なコメントは避けているものの、「(FOWLPが)来る、来ないの両方を想定しているが、16年度計画は来る前提で作っている」(竹中裕紀社長)と言及。来期は利益的にも貢献度の高かったApple向けのFCCSP基板事業が大きく縮小する可能性を指摘した。

 同社はFCCSP基板事業の縮小をモジュール基板事業の拡大で穴埋めしていく考えだ。スマートフォンを中心に今後も搭載する部品のモジュール化が進展すると見られており、薄板かつファインピッチなモジュール基板を投入することで、新たな事業の育成に取り組む。すでに国内の青柳事業場をモジュール基板が生産可能なラインに改修しているほか、ビルドアップ基板(マザーボード用途)を生産する海外のマレーシア工場も、第2期棟についてはモジュール基板の生産を主軸に据える方針転換を進めている。

課題はサプライチェーンの整備

 こうした「状況証拠」の積み重ねによって、iPhoneでのInFO採用は大きく前進したものと見られる。議論の焦点は全面的な採用なのか、それとも一部機種に絞った採用なのか、といった「規模感」に移行しつつある。

 結論からいうと、まずはやはり一部機種に絞った採用になるのでないだろうか。年間2億台を超える生産ボリュームであるiPhoneの中核部品の構造を一気に変えることは、大きなリスクを伴う。16年も今年同様に「iPhone 7」と「iPhone 7 Plus」の2機種を出すと見られ、このうち1機種にInFOを採用、もう1機種は継続してFCCSPを使う可能性が高そうだ。ただ、将来的にはInFOに全面移行すると見られ、AppleのAPは完全な基板レスタイプの半導体パッケージに変化を遂げることになる。

 ただし、将来的な全面移行を見据えて、避けて通れないのがサプライチェーンの整備だ。Appleは常々、複数企業からの調達を前提としたマルチソース化を徹底。FOWLPの生産についても、サプライヤーに対してこれを強く求めていると予想される。しかし、現状でInFOの生産は龍潭工場に限定されており、シングルソースの状態にとどまっている。

 サプライチェーンの整備に向け、TSMCは龍潭工場以外でのInFOラインの整備も検討しているようだが、本当の意味での抜本策は他社へのライセンスだろう。InfineonがeWLBの量産化を進めようとした際にも、台湾ASEやシンガポールStatsChip PACに同技術をライセンスしており、今回も同じようなことが起こると想定される。
 具体的なライセンス供与先として浮上しているのが、ASE、SPILの台湾系OSAT。また、AmkorもSLIM(Silicon Less Integrated Module)といったInFOに近い技術を開発しており、TSMCとAmkorによるクロスライセンスも考慮しておく必要がありそうだ。ちなみに、Amkorによれば、SLIMの生産は16年後半から現在建設中の韓国の最新鋭拠点「K5」で予定しているという。

 AppleとTSMCによるFOWLPへの移行により、大きく動き始めた半導体パッケージ業界。今後はAppleだけでなく、他のスマホメーカーやAPメーカーもこうした動きに追従することは十分に予想され、材料・装置業界に大きなインパクトを与えることは間違いない。16年も引き続き、FOWLP採用を巡る各社の動きに注目していく必要がありそうだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉雅巳

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