電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第223回

一家に1台ロボットがいる世界


求められるのはストーリー構成力

2017/11/10

 一家に1台ロボットがいる世界――、そういったものはまだまだ先のように思われていたが、案外すぐにやってくるのかもしれない。家庭用としては、ルンバをはじめとした掃除ロボットがすでに一定の市場を形成しているが、個人的に注目しているのが、コミュニケーション型の家庭用ロボットだ。

 現在、設立間もないスタートアップ企業から大手企業まで、国内外で特徴のある家庭用コミュニケーションロボットの開発が進んでいる(表参照)。そしてその多くが2017年から18年にかけて発売ならびに製品発表を予定している。そのなかで注目度の高い企業の取り組みをいくつか紹介したい。


■ASUS
家庭用ロボットの開発が国内外で進んでいる
(写真はASUSのゼンボ)
 台湾の総合ITエレクトロニクスメーカーで、家庭用ロボット「Zenbo(ゼンボ)」を展開。高さ62cmの自律移動型ロボットで、顔の部分がタッチディスプレーとなっており、画面が表情の代わりとなるほか、様々な情報を表示する。顔認識・音声認識・音声合成・学習・インターネット接続などの機能を有しており、見る、話す、聞く、学ぶ、表現するといったことが可能だ。

 3月末より本格的な予約販売を開始。現状は台湾での出荷のみ対応しているが、中国、米国、日本での展開も計画に挙がっているようで、なかでも中国については早ければ18年ごろから展開する可能性がある。

■JIBO(ジーボ)
 マサチューセッツ工科大学のメンバーが中心となり設立されたスタートアップで、社名と同じ「ジーボ」という据え置き型のコミュニケーションロボットの開発を進めている。円筒形の筐体に半球を取り付けたような外観を持ち、高さが約28cmで、「見る・学ぶ・対話する・聞く」といった機能が搭載されている。9月から出資者向けの出荷(現状は英語版のみ)を開始した。

■ブルー・フロッグ・ロボティクス
 フランス・パリにあるロボットスタートアップで、コミュニケーションロボット「BUDDY(バディ)」の開発を推進。17年のクリスマス商戦で製品の市場投入を予定している。バディは、高さ560mm、幅350mm、重さ5kgのロボットで、顔の部分が8インチサイズのディスプレーになっており、感情も表現可能。ホームセキュリティー、電化製品の操作、電話機能、メールの読み上げ、音楽再生、子供や高齢者の見守りといった幅広い機能を有し、スケジュール管理や写真撮影、料理レシピの提案なども行える。

■GROOVE X
 ソフトバンクロボティクスの人型ロボット「Pepper」の開発リーダーであった林要氏が立ち上げたスタートアップ企業。人と潜在的な部分でつながり「人のパフォーマンスを上げるロボット」の開発を進めており、18年末までに製品発表を行い、19年の出荷開始を目指している。開発品は言語コミュニケーションでなく、ノンバーバル(非言語)によるサブコンシャス(潜在意識、無意識)へのコミュニケーション、つまりは心の潜在的な部分で利用者とつながり、ロボットが利用者の自己実現を達成するためのサポートを行う。

ロボットとの「ストーリー」が重要に

 では、これらの製品をはじめ、表にあるような家庭用コミュニケーションロボットが今後大きな市場を形成するのか――もしそう聞かれたら「現状のままでは厳しい」と答えるだろう。というのも、現時点でコミュニケーションロボットが実現できる機能は「天気予報を教えてくれる」「ニュースを読み上げてくれる」「音楽を再生してくれる」というものが多いからだ。こういった機能はすべてスマートフォンがあれば事足りてしまう。音声でコミュニケーションを取りながらという点を見ても、アマゾンエコーやグーグルホームといったAIスピーカーで十分だ。

 では、コミュニケーションロボットが普及にしていくためにはどうしたらいいか。その答えとして多く聞くのが「ストーリーをいかに描くかが重要になる」というものだ。例えば以下のようなものが考えられる。

ストーリー(1)
 単身赴任のお父さんが仕事を終えて誰もいない家に帰る。残業をこなしたため時計の時刻は23時を回っている。疲れもピーク。本当なら5歳になった娘の声を聞きたいが、もう寝ているだろう。そんなときロボットから「おかえり」という声が。しかもその声は娘と同じで、幼稚園で起こった出来事などを父親に話してくれる。

ストーリー(2)
 最近、残業が続いている20代のOL。疲れて家に帰ってきても誰もいない。そのときロボットが「どうしたの?」と聞いてきた。しかも彼女が好きな俳優の声だ。ロボットに今日あったことを伝えると「大変だったね」と返してくれる。ロボットは愚痴をこぼしても何時間でも聞いてくれる。もちろん陰口を言われる心配もなく、ストレスが自然と緩和されていく。

 これらはあくまで一例であるが、こういったロボットとの「ストーリー」を生み出し、それを現実のものにしていくことで、自分の家庭にロボットが欲しいという人は確実に増えるだろう。そして実現するための技術もできつつある。その1つが(株)エーアイ(東京都文京区)の展開する「AITalk CustomVoice」。芸能人や声優、自分の声などを収録し、音声合成用のオリジナル日本語音声辞書を作成するサービスで、テキストを入力するだけで簡単にリアルな本人の声で喋らせることが可能となる技術だ。

 音声合成では、東芝デジタルソリューションズ(株)がコミュニケーションAIサービス「リカイアス(RECAIUS)」のなかで、事前に録音した話者に「似た声」で音声合成できる技術をすでに実装している。30分程度の録音サンプルから1時間ほどの処理で話者の音声特徴を学習でき、似た声で任意のテキストを音声化できる技術だ。

問われるのは「文系」「理系」の総合力

 スマートフォン市場が成熟期を迎えつつあるなか、エレクトロニクス業界では新しいヒット商品が待ち望まれており、そのなかで家庭用ロボットに対する期待値は高い。その期待を現実のものに変えていくためには、コミュニケーション能力の向上、音質の進化、コストなどももちろん重要だが、それ以上にロボットがいる生活のストーリーを描ける「文系の能力」と、そのストーリーを実現するために必要な技術を実装する「理系の能力」を融合する総合的なアプローチが必要になるだろう。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島哲志

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