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第275回

群馬大学 モビリティ社会実装研究センター 副センター長 小木津武樹氏


完全自動運転の社会実装を研究
20年に本格商用化目指す

2018/6/1

群馬大学 モビリティ社会実装研究センター 副センター長 小木津武樹氏
 群馬大学の研究・産学連携推進機構「次世代モビリティ社会実装研究センター」(CRANTS、群馬県桐生市天神町)は、自動運転車両を採用した社会システムの研究・実証・普及に向けた研究に取り組んでいる。なかでも特徴的なのが、完全自動運転車両をシステムのベースとして考えていること。ドライバーレスの完全自動運転車両は、従来の自動車とは全く異なるMaaS(Mobility as a Service)としての応用、社会的な広がりを持つことになると期待されており、開発の動向が注目を集めている。CRANTS副センター長の小木津武樹氏にセンターの概要、現在の取り組み、今後の展望などについて伺った。

―― CRANTSの概要について。
 小木津 当センターは2016年12月に設立されて以降、様々な活動を開始。18年4月には群馬大学・荒牧キャンパス内(前橋市)に総合研究棟を新設し、企業連携の開発として活用していく。
 桐生市での実証実験については16年10月からスタートしている。同市では、それ以前にもEVバスの共同開発などを行ってきた経緯があり、新たな車両開発を行ううえで行政や住民の理解を得やすい環境がある。今後、完全自動運転車両を用いた実証実験を行っていくなかで、桐生市は先端の地域の1つになると期待している。

―― 総合研究棟の概要・役割について。
 小木津 新設した総合研究棟は、企業と連携した共同開発の中心拠点となる。すでに、あいおいニッセイ同和損害保険(株)や(株)NTTデータ、新明和工業(株)、東洋電装(株)、三井住友銀行など8社と共同開発がスタートしており、現在も様々な提案をいただいているところだ。
 我々の共同開発・実証実験では、自動運転車両を使って技術やサービスの強みを活かせる周辺企業をターゲットとしている。
 完全自動運転車両を社会実装する場合、そこには新たなサービスやシステムのニーズが必ず生まれるが、現在はそこが未整備の状況。例えば、バスの運転手は、定刻になったとしても、高齢者がバス停に近づいてくれば乗車を待ってあげるという「あたたかいサービス」を行っている。無人で動く車両でも、このようなサービスをいかに実現していくのかは、これからの課題となる。
 我々は「よろず相談所」として、幅広い応用分野の企業からの技術相談や共同での基礎研究、実装開発を行うことで、このような開発に取り組んでいる。

―― 充実した施設・設備をお持ちですね。
 小木津 当センターでは物流や観光、医療福祉など、自動運転技術の応用が期待される幅広い分野の企業との連携を可能とする「よろず相談所」を自負している。そのため、公的研究機関としては世界最大規模の自動運転車両を保有(乗用車や物流トラック、路線バスなど計17台)している。また、総合研究棟には約6200m²の専用試験路を設置。信号や標識などは可動式であるため、実験の目的に合わせて道路環境をつくることが可能だ。

―― 20年に完全自動運転の商用化を掲げています。
 小木津 我々は、地域限定の自動運転を開発することで、20年をめどに完全自動運転の商用化・社会実装を目指している。
 桐生市での自動運転車の公道実証はすでに3000km以上を走行するなどデータを蓄積している。それと並行して、18年度は前橋市ならびに日本中央バスと連携し、中央前橋~前橋の間で路線バスを用いて、通常運行の中に自動運転の路線バス(ドライバーは乗車)を組み入れて実証試験を実施。さらに19年度はこれをドライバーレス化していく。そして、20年には「群馬発の完全自動運転」をご覧いただけると期待している。

―― なぜ、これほど短期間に完全自動運転の社会実装が可能となるのですか。
 小木津 当センターでは地域を限定していることがまず1つ。さらに、AI(人工知能)は用いず、既存のセンシングシステム(カメラ、GPS・GNSS、LiDAR、IMU)の組み合わせで安全性を確保していく。
 ここで重要となるのが道路側との連携だ。地域を限定すれば、死角となる場所にセンサーを設置するなど「賢いインフラ」として整備できる。車両とインフラの両面で安全性を高めることで、地域の方々に受け入れてもらうことができる。

(聞き手・清水聡記者)
(本紙2018年5月31日号2面 掲載)

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