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第256回

中韓勢からシェア奪還、ニッポンは全固体LiBに期待をかける!


トヨタ・日産・ホンダ・パナソニックらの技術力集結

2018/7/6

 6月15日、ホテル椿山荘東京の宴会場に数多くの企業・大学・研究機関の関係者が集まった。その総勢は200人以上とみられる。このほど始動した国際研究開発法人 新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO、川崎市幸区)の研究開発事業「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」に関する説明会だ。

説明会フォトセッションの様子。企業・大学・研究機関の出席者が登壇
説明会フォトセッションの様子。
企業・大学・研究機関の出席者が登壇
 中国・韓国メーカーがますますプレゼンスを増すリチウムイオン電池(LiB)市場において、起死回生の有力技術となる全固体LiBを実用化するのが狙いだ。世界的に需要が拡大する電気自動車(EV)をはじめとする車載用をターゲットに、産官学が総力を結集して「オールジャパン体制」で技術を確立していく。

LiBは日本発の技術

 1980年代に旭化成工業の吉野彰氏がLiBのプロトタイプを開発して以来、90年代にソニー・エナジー・テック、エイ・ティーバッテリー(旭化成・東芝の合弁企業)、三洋電機などが商品化するなど、LiBは世界に先駆けて日本が開発した、日本発の蓄電池技術だ。当初は携帯機器用が中心だったが、2006年以降はEV用もスタート。こうしたなか、中国・韓国メーカーが本格参入し、市場競争が激化した。

 それでも、00年代は日本メーカーが世界市場シェアでダントツのトップだった。他方、徐々に韓国のサムスンSDIやLGケミカルが生産能力を拡張し、日本メーカーに肉薄。16年にはパナソニック、サムスンSDI、LGケミカルで3強を形成するに至った。

 一方、車載用に限れば16年にはパナソニック、LGケミカル、中国BYDが3強だったが、中国CATLが急成長し、一気にトップに躍り出た模様。中国最大手のBYD、世界最大手のパナソニックを抜いたかたちだ。

 CATLが躍進した背景には、世界最大の需要国である中国国内のEV需要拡大、中国政府の手厚い補助金交付制度、それに上海汽車、東風汽車といった中国有力自動車メーカーとの資本提携が挙げられる。今後も同社は事業規模を拡大していくもようで、その勢いは止まらない。5月には横浜に日本法人を設立し、日本市場攻略の足掛かりも築いた。

 LiB材料分野でも中国勢が躍進している。4大主要材料のうち、正極材、負極材、電解液の3つは中国勢がトップだ。具体的には、正極材が湖南杉杉新材料、負極材が貝特瑞新能源材料(BTR)、電解液が広州天賜高新材料。かろうじてセパレーターのみは旭化成がトップを堅持している。

 現状、LiBは増産投資フェーズに移っている。投資規模も増加傾向にあり、近い将来、生き残るのは資本力のある一部メーカーとなる可能性が高い。これは半導体、液晶ディスプレー、太陽電池と同じ構図だ。いずれもかつては日本が強力なプレゼンスを確保していた技術だが、現在は中国・韓国・台湾メーカーが圧倒的に強い。

 「品質で勝負する」という考え方もあるが、海外勢のキャッチアップは早い。例えば、太陽電池セルでは中国メーカーの技術力が向上し、一部では日本製よりも品質が高いという評価となっている。中国製太陽電池セルは粗悪品と揶揄された時期もあったが、すでに過去の話だ。

エネルギー密度は現行LiBの3倍

 こうしたなか、日本メーカーが期待をかけるのが全固体LiBだ。全固体LiBは、既存の可燃性の電解液(液体電解質)を不燃性の固体材料にして、正極材と負極材を含めた部材すべてを固体とするものだ。液漏れリスクがなく劣化が少ないため、安全性、耐久性に優れ、かつ長寿命化が期待できる。また、セパレーターおよびセルのパッケージ化が不要となり、バッテリーモジュール全体の高エネルギー密度化、コンパクト化および低コスト化が可能だ。

 最も重要となるエネルギー密度、出力においても既存のLiBを上回る。今回の研究開発事業では、終了する22年度までに電池パックの体積エネルギー密度で現行比3倍の600Wh/L、同コストで同1/3の1万円/kWh、EV急速充電時間で同1/10を目指している。

 これだけの性能を実現できる要因の1つが「リチウム単独伝導」だ。具体的には、従来のLiBがリチウム以外のイオンも動いているのに対し、全固体LiBではリチウムのみを通すことから高出力化に寄与する。同じリチウムイオン導電率であっても輸率が高いというわけだ。


EVが長距離用途となる

 高性能化が実現されれば、EVの位置づけが変わってくる。現状、EVの航続距離は200~400kmが主流で、一般的には短・中距離用途だ。一方、エネルギー密度が現行比3倍になれば600km以上となり、長距離用途もカバーする。これは既存のガソリン車や燃料電池車(FCV)と肩を並べる。あるいはエネルギー密度3倍により、バッテリーモジュールを1/3以下にすることで車両の小型化も実現でき、EVデザインにおいても幅が広がる。

 さらに、充電時間の短縮も魅力的だ。現状、急速充電器による満充電で30分程度かかる。

高性能化、国際規格化まで視野

 同事業は13~17年度に実施した第1期に続くもので、代表機関の技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)をはじめ、企業23社(トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、パナソニック、ヤマハ発動機、旭化成、出光興産、クラレ等)、大学・研究機関14団体(産業技術総合研究所、理化学研究所、大阪産業技術研究所、物質・材料研究機構、日本自動車研究所、東京工業大学、京都大学、名古屋大学等)が参画。期間は18~22年度、事業総額は100億円(18年度予算約16億円)。

 実施体制はLIBTECに自動車・二輪車メーカー4社、蓄電池メーカー5社、材料メーカー14社のエンジニアが集結し、材料、プロセス、設計、評価の主要4チームで研究開発を推進。他方、大学・研究機関はサテライトで参画し、LIBTECと協同して検討を進める。エンジニア数は、LIBTEC約20人、企業約40人など総勢約100人。

 第1期では全固体LiBの標準電池モデルと同モデルを用いた評価技術を開発し、企業・大学などが全固体LiB用に開発した固体電解質や電極活物質などを受け入れて評価を実施。その評価結果をサンプル提供者にフィードバックする取り組みを行った。

 これに対し、2期では1期の成果を発展させて大型・高容量化した標準電池モデルと同モデルを用いた評価技術を開発する。また、1期の評価技術は材料の基本特性を把握するものだったが、2期ではEVへの搭載可否や量産プロセスへの適合性も含めて評価可能な技術として高度化する。さらに、実用化を見据えて材料開発・設計、製造技術、安全性・耐久性の試験評価法、国際規格化、資源リサイクルまで幅広く取り組む。全固体LiBのキーとなる固体電解質においては、第1世代で硫化物系、次世代で先進硫化物系または酸化物系を取り扱う。

 性能面では、20年までにセル体積エネルギー密度を450Wh/L、22年までに同800Wh/Lとする。電池パックは、先述のように体積エネルギー密度600Wh/L(現行比3倍)、コスト1万円/kWh(同1/3、EV急速充電時間で同1/10だ。

 また、特筆すべきは技術開発のみならず、国際規格化まで視野に入っている点だ。ISOやIECといった国際規格をいち早く制定する考えだ。そのため、同事業には国際規格の審査機関である日本自動車研究所が参画している。

全固体LiBで日本は先行

 全固体LiBの急先鋒はトヨタだ。同社は全固体電池開発の権威である東京工業大学の菅野良次教授らと共同研究を実施している。「東京モーターショー2017」では記者会見を開催し、20年代前半にも実用化すると発表したことは記憶に新しい。

 現在、東富士研究所(静岡県裾野市)を中心に200人体制で研究開発を進めている。また、特許出願数においては世界の2割を占めるという。同社以外では、日産、ホンダ、出光興産、三井化学、TDK、村田製作所、太陽誘電、その他数多くのメーカー、大学・研究機関が積極的に研究開発を進めている。

 同事業は、こうした各企業が保有する、表に出ていない有望技術やノウハウを結集し、全固体LiBの技術課題を基礎に立ち返ってアプローチすることで基盤技術を確立するのが狙い。しかも、製造技術や評価技術の確立のみならず国際規格化までカバーすることで一気に実用化段階まで進める。

課題は硫化水素ガス

 一方、全固体LiBの大きな課題として指摘されているのが硫化水素ガスの発生だ。固体電解質は硫化物系と酸化物系に大別できるが、硫化物系は、リチウムイオン導電率10-4 S/cm程度と優れたリチウム輸率を発揮できるものの、大気暴露により硫化水素ガスが発生するのが最大のデメリットだ。

 硫化水素ガスは微量であっても人が死にいたる可能性がある有毒物質。この対策として堅牢な封止加工が考えられているが、同時にコスト上昇につながることが懸念されている。これに対し、酸化物系は化学的安定性が高く、有害物質の発生はない。ただし、同10-2 S/cm程度しか達成できていないのがネックだ。

 なお、同事業では出光興産が参画しており、固体電解質に対する豊富な技術・ノウハウが共有される見込みだ。同社の固体電解質などに関する特許出願数は電池材料メーカーで最多となっている。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東哲也

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