電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第324回

ついにグローバリゼーションの終焉が始まった


~一国主義/保護主義の台頭が物語る「自分だけが大切」という考え方~

2019/3/1

 「その膝に 枕しつつも 我がこころ 思ひしはみな我のことなり」

 折にふれ思い起こすのはこの和歌である。天才歌人といわれ、早逝した石川啄木の歌である。女房または愛人の女性の膝枕で寝ているというのに、こんなエゴまる出しの歌を作っていたのだ。

 『一握の砂』を初めて読んだときの感想は「何と女々しい男であることか」というものであった。釧路新聞社に勤めながら、多くの友人たちから金を借り、「はたらけど はたらけど我がくらし 楽にならざり じっと手を見る」と歌ったこの男は、借りた金で酒を飲み女遊びをするというだらしなさであった。しかして秀逸であったのは、フツーの人が心に思っていることを、てらいもなくきらいもなくストレートに口を出すということであったのだ。

 さようまことに、この世はエゴイズムの固まりで成り立っている。よくいえば、夏目漱石の自立する個人主義ということになろうが、要するにおためごかしに「あなたのことが心配」「会社のためにがんばる」「仲間とともに生きていく」と言ってはいるものの、最終的には私利私欲で動くというのが人間の悲しい性なのである。

 啄木の歌を口ずさみながら、トランプのいう「アメリカファースト」に代表される一国主義、保護主義が一気に台頭してきた世界の世相について考えてみた。トランプは何と我がままなヤツだろう、と思えてならなかったが、よく考えれば、どこの国でもまず自分の国の利得を考えるというのは当たり前のことなのだ。そして、時を同じくしてEUを作ることを提唱したイギリスがEUを脱退し、自国の中に閉じこもろうとしている。中国は今、米中貿易戦争の影響でこれまでの爆裂成長が止まってしまったが、こちらもともと「チャイナ」のことだけしか考えていないのだ。

 米国がグローバリゼーションを高らかに掲げたが、中国は米国が主導するそのやり方には乗ろうとせず、ほとんどのインフラを自国内で立ち上げ運用している。アマゾンも、グーグルも使わず、チャイナバージョンのバイドゥ、アリババをフル活用し、スマホもサムスンはほぼ全く使わず、最近ではアップルにも目をそむけ出し、ファーウェイ、オッポ、シャオミで十分という姿勢を貫いている(ただし、そのほとんどが米国ハイテク技術の物まね、つまりコピーであることが問題ではあるが)。

 米国が「アメリカファースト」を貫こうとしている背景には、シェールガス/オイルの大量採取の成功があり、45年ぶりに世界最大の産油国にのし上がったことがある。これでロシア、中近東に何の気配りもすることなく、自前のエネルギーで生きていける状況になったのだ。またシェールガス/オイル由来のエチレン生産も一気に進めており、世界最大の素材大国になる道も出てきた。そしてまた、モノづくり回帰、米国への企業誘致についても強烈、いや強引にやろうとしている。

 象徴的であったのは、EMS最大手のホンハイがスマホの不調が続くことから中国新工場、米国新工場を凍結させていたが、トランプがテリー・ゴウに一発電話を入れ「ナシがつかねえぞ。今すぐ着工しろ」といったところ、中国は捨ておいて米国新工場のただちの着工を表明したことだ。世界No.1の国アメリカは中国叩きを続ける一方で、ひたすら自国内優先を打ち出し、これが世界全体の保護主義ウェーブに拍車をかけているのだ。

一国主義でも成長を維持できるか(写真は17年のセミコン・チャイナ)
一国主義でも成長を維持できるか
(写真は17年のセミコン・チャイナ)
 こうして始まったグローバリゼーションの終焉は、今後のローカリゼーションの進行を促していくのだ。こうした状況下で我が国日本の今後の舵取りは実に難しいものがある。ただ、これだけはいえる。徳川家康が作った江戸時代300年は空前絶後の平和をもたらし、鎖国して海外と縁を切ってしまったのだから、保護主義の成功例で世界に先行していたのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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