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第313回

車載で「再挑戦」するパナソニック


低収益から浮上なるか

2019/8/23

 パナソニックは2019年5月、19~21年度を期間とする新中期戦略を発表した。このなかで、インフォテインメントシステムをはじめとした車載機器で構成されるオートモーティブ事業と、円筒形・角形電池をラインアップする車載電池事業を再挑戦事業に位置づけた。これら2事業は前3カ年の中期計画において高成長事業と位置づけられ、全社の牽引役と期待された存在であった。それが再挑戦を余儀なくされているとはどういうことだろうか。

利益が伸び悩み、低収益に

 パナソニック全社の業績推移から見てみよう。前3カ年においては、16年度を底として17年度には売り上げ、営業利益ともに大きく成長を果たし、18年度も微増ながら増収増益を達成している。ただ、18年度後半から米中貿易摩擦の影響を受けたこともあり、当初計画していた売上高8兆3000億円、営業利益4250億円には及ばなかった。


 津賀一宏社長は、特に持続的成長の核となるはずだった車載事業の収益性悪化が全社の利益を押し下げたと総括する。車載事業は売り上げこそ安定的に成長したものの、オートモーティブ、車載電池ともに低収益に陥り、18年度の事業収益(営業利益からその他損益を抜いたもの)は17年度当初計画の約60%にとどまった。

開発資産減損に泣いたオートモーティブ

 オートモーティブ事業はインフォテインメントシステムや車載カメラ、ソナーなどが安定的に推移し、17年にスペインの車載システムメーカー、フィコサを連結子会社化した影響もあって、17年度までは好調に事業拡大を遂げていた。異変が生じたのは18年度で、第3四半期に欧州事業の一部案件で開発資産の減損を実施したことや、米中貿易摩擦に伴う自動車販売減によって大幅な減益に陥った。


 これは、欧州の現地事業部門において受注した開発案件のマネジメントが不十分で、工数増大などにより計画していた収益が見込めなくなったことによる。影響は19年度も継続する見通しで、開発案件の収益改善が急務となっている。

テスラに振り回される円筒形電池

 車載電池のうち、米テスラ向けに供給している円筒形電池は、主要顧客であり事業パートナーであるテスラの動向に振り回される事業となっている。パナソニックとテスラはネバダ州で円筒形電池工場「ギガファクトリー」を共同で建設し、17年に稼働した。ところがテスラの新型EV「モデル3」の生産立ち上げが難航したことから、パナソニックからの電池供給は当初計画を大きく下回った。

 18年度に入ってようやくモデル3の生産が軌道に乗り、電池の生産も拡大に向かったものの、今度は急激なEV生産の拡大に電池製造ラインの立ち上げが追い付かない状態が表面化。19年の春先にはテスラCEOのイーロン・マスク氏に「モデル3の生産販売が計画を下回ったのはパナソニックからの電池供給が滞ったため」と名指しで批判される事態となった。

 津賀社長は19年5月の新中期戦略説明会においてこの件に触れ、ギガファクトリーにおける急激な生産立ち上げが難航していることを認めた。そのうえで「テスラは単なるサプライヤーではなくパートナー。関係が深いからこそ何でも言える」と述べ、両社は依然として良好な関係にあることを強調した。ただ、円筒形電池事業におけるテスラの存在が絶対的であり、今さら関係を見直すことは容易ではないことを示唆する発言であるともいえる。テスラは中国でのEV現地生産に意欲的な一方、18年後半以降たびたび経営難に陥っていると報じられており、今後もパナソニックにとって悩ましい存在になることは間違いないだろう。


低収益が課題の角形電池

 一方の角形電池は18年3月に中国大連工場で生産を開始し、19年度には姫路工場でも生産ラインの稼働を予定している。販売も好調に増加しており、一見すると円筒形よりも安定した事業に感じられる。

 ところが、角形電池は非常に低収益な事業であり、販売の拡大に利益伸長が伴っていない状態が続いている。これは電池のコスト構造と、自動車メーカーの方針に関係がある。

 車載電池はコストの約70%を電池材料が占めるとされ、組立における利益は乏しい。加えて、車載の角形電池は顧客の自動車メーカーごと、車種ごとにカスタムで開発されており、量産フェーズにおいてもそれぞれの顧客用にラインを構築する必要がある。ただでさえ単価が安いところに多品種生産を余儀なくされ、開発や量産に伴う負担が大きく非常に採算性の悪いビジネスとなってしまっている。

体制見直しで収益改善を急ぐ

 これらの事態を受け、パナソニックは車載事業を再挑戦事業とし、体制見直しによる収益改善を図る。まず、これまでオートモーティブ&インダストリアルシステムズ(AIS)社として産業機器、電子部品、電子材料などと同じ社内カンパニーに属していた車載事業を、19年度からオートモーティブ社として分離した。車載機器、電池に特化した事業体制とすることで立て直しを急ぐ。AIS社では自動車用コンデンサーなども手がけており、「ティア1、ティア2双方の事業を持つ」ことを標榜していたが、実際は顧客の機密保持との関係もあり、シナジーはほぼなかった。車載機器、電池に特化した事業体制とすることで立て直しを急ぐ。

 オートモーティブ事業では欧州案件の再構築に乗り出し、19年度をピークに開発負担の抑制を進めていく。不採算な受注を増やした反省から、今後は日米を中心とした着実に収益が確保できる案件に注力する方針だ。

 また、円筒形電池はギガファクトリーにおける年産35GWh体制の構築を急ぎ、生産性の改善による収益向上を目指す。角形電池ではトヨタ自動車と生産開発を合弁化することを決めており、20年末までに合弁会社の設立を予定している。合弁により投資負担を抑制するとともに、生産調達の最適化やコスト力強化を図る。

再度の攻勢に転じられるか

 オートモーティブ社として再スタートを切った車載事業の19年度の業績は、売上高が前年度比4%増の1兆5770億円、営業損失が同29億円悪化の150億円を見込む。市況の悪化による車載機器の販売減や、開発負担の増加、電池増産に伴う固定費増などが影響して赤字となる。

 上述のとおり収益性改善に向けた施策は打たれているが、その先については未知数だ。車載機器は北米や日本、アジアなど強みのある地域、製品に注力して利益成長を優先に展開する方針だが、欧州市場を事実上放棄することになる。また、特定製品への絞り込みは大手ティア1が進めている自動運転や電動車のシステム化、ソリューション化と競合するうえで弱みにもなるだろう。

 車載電池は、円筒形のテスラへの依存の高さが懸念材料としてくすぶる。角形電池でパートナーシップを組むトヨタは中国CATLとも提携を決めており、パナソニックが唯一の協業相手ではない。パナソニックはトヨタとともに角形電池の標準化を進め、コストを抑制したい狙いがあると言われるが、CATLも自社仕様の電池による低コストを強みとするメーカーである。電池の標準化がパナソニックの思惑どおりに進むかは不透明だろう。

 19年度に収益改善に向けた道筋を構築できたとしても、その先の再成長への方向性は明確ではない。前3カ年の反省を踏まえつつ、これまで掲げていた「世界の自動車部品メーカートップ10」のような意欲的な目標と、それを達成するためのより具体的な施策の提示が車載事業の「再挑戦」には必要なのではないか。自動車の電動化、自動運転化の波に乗るべく国内外の自動車部品メーカーが積極的に攻勢をかけるなかで、守勢でいられる時間は長くない。

電子デバイス産業新聞 大阪支局 記者 中村剛

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