商業施設新聞
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No.726

コト消費に通じる最先端の演劇体験


新井谷千恵子

2019/10/8

 以前、上海に行った。当時は舞台女優をしており、貧乏生活に耐えながら、やっとのことで行った上海だった。目的はただ1つ、『Sleep No More 不眠之夜』という演劇を観に行くことだ。少し説明させていただくと、この演劇は「Punchdrunk」というイギリスの劇団が興行しているもので、アジアでは唯一上海だけで公演しているのだ。

 内容はシェイクスピアの『マクベス』に沿ったものだが、普通の舞台と違って、観客が俳優たちとともに色々なことを体験できる。観客は仮面を着けて自分の好きな俳優たちの後ろをついて回り、ひとつの建物を右往左往上に下に、ともに回遊する。自由に俳優についていけるので、誰についていくかによってストーリーも変わってくる。しかもセリフがほぼないので、その場で一緒に体験することで話を理解していくことになる。これぞまさしく、最先端の体験型の演劇といえよう。

Sleep No Moreが始まる前に併設するBarで一息
Sleep No Moreが始まる前に
併設するBarで一息
 演劇というのは、日本でも一応文化的な催しとして浸透しているだろう。しかし、演劇は映画よりも敷居が高く、狭いコミュニティでやっているイメージが強い。実際に演劇を見に来る人は知り合いや関係者が多く、映画館のようにフラッと足を運ぶ人は少ないと思う。なぜなのか周りの観劇にほとんど行ったことのない人たちに聞いてみると、「一生懸命演じている人を見ると恥ずかしくなって冷めてくる」「長いし難しいしよくわからない」「ハリウッド映画より下手な気がする」「考え方が偏ってそう」などなど、悲しいかな、結構辛辣な意見が出てきた。

 さて、昨今は、モノ消費からコト消費に移り変わっていると言われている。お金を出して必要な機能の備わった物を買うだけではなく、付加価値のあることの重要度が増してきているのだ。その影響からか、最近では商業施設でも体験型店舗が増えてきている。併設する施設で、買った商品を実際に試すことができたり、運動ができたり、物を作ることができたり、何かを買うだけではない付加価値のある体験に重きを置いているのだ。

 9月27日にオープンした「コレド室町テラス」では、台湾の「誠品生活日本橋」を中心に、商品自体も魅力的なものが多いが、一番の目玉はガラス工房や料理実演の体験型イベントであろう。見たことのない商品を手に取って触って実感するだけでなく、日常生活から少しだけ離れた体験ができるというのは、昨今のコト消費時代においてはとても魅力的なのだ。

 このコト消費の流れは、もしかしたら商業施設というカテゴリーだけでなく、演劇にもいえることなのかもしれない。普通に座ってみるだけではなく、Sleep No Moreのように、具体的な体験の伴うパフォーマンスは、今まで忌避してきた人たちも足を運びたくなるかもしれぬ、そう思うと今後の発展が楽しみでならない。
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