商業施設新聞
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No.732

ECサイトが台頭したからと嘆く前に


北田 啓貴

2019/11/19

 2019年の小売り業界、特にファッション業界を振り返ると、オンワードホールディングスの約600店閉鎖やファストファッション「FOREVER21」の日本撤退など、業界の低迷が顕著だった年と言えるだろう。低迷の背景は、ECサイトの台頭によるリアル店舗の売り上げ減少だと一般的に言われている。確かにその側面は大きく、リアル店舗にはサイズチェックのために赴き、買うのはECサイトでという事例もよく聞く。しかし、こうした消費者の行動を見越し、在庫を持たず、試着や採寸などのサービス、決済機能に特化した店舗も登場するなど、ECサイト全盛の時代に対応しようとしている。

 一方、それでもファッション業界には盛り上がりの兆しが見えない。なぜかと筆者も考えてみたのだが、そこで思ったのは「買い物目的以外で行ってみたいリアル店舗がない」ということだった。確かに、大手のファッションブランドやファストファッションの店舗は駅前、郊外のSCにもある。しかし、その差は店舗面積の大きさによる商品ラインアップの差やアイテム数の違いなどであり、その店舗ならではの“魅力”というものがあまり感じられないような気がしている。そのため、筆者はこれからのリアル店舗に必要なのは、売り上げと利便性を優先した画一的な店舗と、店舗自体が独創的で「わざわざこの店に行って商品を買いたい」と思わせるような魅力ある旗艦店だと思う。

「コロンビア京都店」の外観
「コロンビア京都店」の外観
 そう考えたきっかけを与えてくれたのは、9月に京都市にオープンしたコロンビアスポーツウェアジャパンの「コロンビア京都店」だった。

 この店舗は、コロンビアのブランド誕生80周年記念の一環として取り組んだ新店で、築100年の古民家をリノベーションしている。外観だけではなく、内観にも玄関や床の間の地板を再利用したレジカウンターや中庭、琵琶湖の漁船の舟板を使用したフィッシング用のジャケットを展示するなど細部にまでこだわり、古民家の世界観を形成している。筆者にとって、この店舗は古民家の再生の事例ということだけでなく、「同じ商品でもわざわざこの店舗で買いたい」と思わせる魅力的な店舗であった。

船板を使用したフィッシングベストの展示
船板を使用したフィッシングベストの展示
 決して古民家でなくてもよいが、このようにリアル店舗が盛り上がる方法には、そこにわざわざ行きたいと思わせるブランディングも必要であると考えている。ECサイトの台頭で売れないと嘆くよりも、リアル店舗の可能性をまだまだ探ってみるべきではなかろうか。
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