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第360回

(株)ジャパンディスプレイ 代表取締役社長兼CEO 菊岡稔氏


経営再建に向け確かな一歩
下期黒字化達成は順調に推移

2020/2/7

(株)ジャパンディスプレイ 代表取締役社長兼CEO 菊岡稔氏
 日の丸液晶メーカーとして発足し、高い技術力を持ちながら経営再建を余儀なくされたジャパンディスプレイ。ようやく独立系投資顧問のいちごトラストによる融資が決定し、モバイル事業では縦型蒸着式有機ELディスプレーの出荷も開始した。車載やセンサーなど、市場ポジションが高いノンモバイル製品も堅調だ。新技術として、期待の高いマイクロLEDを着々と開発しており、再建に向けて歩を進めている。今後の事業展開について代表取締役社長兼CEOの菊岡稔氏に伺った。

―― 2019年の10月は単月黒字化を達成しました。下期の黒字体質化に向けて事業の進捗は。
 菊岡 これまでに構造改革を実施して固定費を削減したことも奏功し、足元の事業状況は堅調に推移している。まだ課題は残るが、第3四半期(10~12月)は目標とする黒字体質化へ向けて順調に進んでいる。
 資金調達先が二転三転し、顧客や取引先など多方面にご心配をおかけした。このほど、いちごトラストから最大1008億円の出資も決まり、いち早く皆さんに安心していただけるよう、資金調達完了へ詳細を詰めている最中だ。

―― 独自の縦型蒸着方式の有機ELディスプレーの量産を19年11月から開始しました。
 菊岡 小型サイズながら、茂原工場で量産出荷を開始した。他社の有機ELディスプレーよりも低消費電力で市場評価も高いと聞いている。当社が長年培ったLTPS技術が差別化を牽引しており、他社には追随できないと自負している。この小型サイズは、当社の有機ELのいわば試金石だ。幸い顧客からは好感触を得ている。
 今後の展開の選択肢は色々あるものの、スマートフォン(スマホ)サイズをすぐ狙うのではなく、当面は自分たちの有機ELを進化させることに注力したい。設備も、後工程を少し拡張するだけでできる。技術を磨き上げながら、独自の有機ELを作り上げていくことに集中していく。
 一方で、スマホ市場への参入を狙うなら、トップメーカーへ挑む構えで着手しなければならない。茂原の現設備では小さいため大規模投資が必要になるが、これには多数の企業からお声がけいただいており、選択肢が増えている状況だ。具体的には未定だが、例えばロイヤルティービジネスや技術供与など、バランスシートを痛めないかたちでの量産化を想定している。

―― マイクロLEDは。
 菊岡 色々な方向性を考えているが、まだ模索中だ。当社のLTPS技術をマイクロLEDに活かして市場投入していきたい。そのためには、どのようなデバイスや形状が良いのかを注視して検討していかねばならないし、バックライトが無いディスプレーで、どういった制御がTFTで必要とされるかも、まだはっきりしない。もう少し市場や技術の進捗を見なければならない。進化させていく有機ELとの市場の趨勢を見極めていく必要もある。

―― モバイル事業の子会社化は、当初19年末だった検討期限を20年3月末まで延長しました。
 菊岡 子会社化は「モバイル事業のダウンサイドを抑制しつつアップサイドを享受する」という目的達成のための手段の1つ、という位置づけだ。モバイル市場は季節性も激しく、液晶と有機ELの今後の勢力図も、セットメーカーですら確かな指針を持てないなか、材料メーカーは市場の読みが難しく、みんな非常に腐心している。
 子会社化の検討の発表後も、顧客と投資家との話し合いのなかで様々な可能性が提案されており、状況が刻々と変化し選択肢が広がってきた。目的は一貫して変わらないが、手段としてはもう少し幅広く検討する必要があると判断した。
 例えば、生産拠点について、稼働を停止している白山工場の設備を顧客が買収する可能性が出てきたり、近々では顧客や競合他社が買収を検討する話が持ち上がるなど、目的達成への手段がより多面的に考えられる状況が出てきている。

―― さらなる生産体制のスリム化やリストラは。
 菊岡 現時点では考えていない。構造改革も終了し、すでに大きな人員整理も行った。今回、いちごトラストから資金調達して資本構造が正されると、バランスシートに悪影響を与えることなく、事業の筋肉質化や構造改善が進められるようになる。生産拠点については、これまでも実施してきた古いラインの統廃合といった、市場の変化に沿った最適化は随時進めていく。今後の適正化は、ほとんど償却を終えている資産が多いため、損益への影響は非常に小さくなる。

―― 市場トップシェアを持つ車載向けについて。
 菊岡 異形や曲面ディスプレー、コックピット内での大型化や、CIDとクラスターの一体化など、よりハイエンド向けに訴求していく。当社は長年、欧州を中心にティア1やカーメーカーと信頼関係を築いてきた。ティア1と協業してカーメーカーに提案し、特定サプライヤーとしてディスプレーを提供してきた実績もある。車載分野で単純な部品供給メーカーになるつもりはない。
 そのために、これまで以上に当社からアイデアを出し、もっとティア1やカーメーカーに寄り添うかたちで高付加価値品を提供していく。提案も製品も「当社でしかできない」ものに変えていく必要がある。
 また車載向けでは、(株)JOLEDの印刷式有機ELの展開が視野にある。JOLEDとは事業の協業関係を継続しており、特に車載分野は今後も技術や顧客開拓について協力していく。

―― センサーやVRなどのノンモバイル事業は。
 菊岡 VR向けは、得意の高精細化を追求して、より差別化を図っていく。最新の高精細パネルもすでに量産出荷を開始している。
 センサーは、ディスプレーと技術的にも近く、バックプレーン技術が活用できるため、大型設備投資が要らない製品だ。当社には様々な方式の高容量センサー技術があり、市場でのポジションも高い。現在、大画面の指紋センサーの引き合いが増えており、来期に向けて花咲く事業だ。非常に楽しみにしている。

―― 来期の抱負を。
 菊岡 私が当社に入社してから2年半ほどになるが、この間に事業部と一緒に顧客との話し合いを重ね、信頼関係を築いてきた。顧客からは、共同開発した技術資産が流出しないと確信できる、最も信用の高い企業だと言っていただいている。投資家からは、特にバックプレーンの技術力が高く、海外メーカーが真似できないものを日本から流出させるわけにはいかない、と言っていただいた。
 これらの信頼を堅持するためにも、顧客や取引先、従業員のみんなが安心して事業を進めていけるように、まずは安定的な基盤を確保していく。資金調達を順調に完了させ、債務超過を資産超過に戻し、黒字体質を確実なものにしていくことが、来期をかけて成し遂げていくことだ。

(聞き手・澤登美英子記者)
(本紙2020年2月6日号1面 掲載)

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