電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第339回

守勢に陥るパナソニック


攻め手を欠く事業戦略の危うさ

2020/2/28

 パナソニックは2019年11月、赤字続きで課題事業に位置づけていた半導体事業を20年6月に台湾の半導体メーカー、ヌヴォトンに売却するとともに、液晶の生産を21年に終息して撤退することを明らかにした。また、20年2月初頭に発表した19年度第3四半期決算では、同じく収益化が問題になっていた北米のテスラ向け車載用円筒形電池事業が黒字転換したことを公表した。

 これらの成果は、16~18年度の前中期経営計画における利益低迷を受けた収益改善策が効果を発揮していることを裏付けるものと言える。ただ、筆者としては、これらの収益性を重視した施策、言うなれば「守り」の動きが活発な一方で、「攻め」に相当する取り組みが乏しいことに懸念を抱かざるを得ない。前中計期間における車載事業の挫折が、パナソニックを守勢に陥らせているように感じられるのだ。

成長事業だった車載事業の「挫折」

 前中計期間における車載事業の「挫折」については取り上げたことがあるが(19年8月23日付の本コラム)、もう一度簡潔に振り返っておこう。パナソニックの車載事業はインフォテインメントを中心とした車載機器と、円筒形・角形の2種をラインアップする車載電池事業に大別できる。前中計では「高成長事業」に位置づけ、全社の業績を牽引する役割が期待されていた。


 車載機器事業は17年度までは安定して業績を拡大してきたものの、18年度後半に自動車市場の悪化に加えて、欧州事業における開発資産の減損問題が浮上。売り上げ、利益ともに大きく悪化した。開発資産の減損は、欧州の一部案件においてマネジメント不足によりコストが肥大し、計画していた収益を確保できなくなったもの。収益押し下げの影響は、19年度をピークに継続する見通しだ。

 一方の車載電池は、販売こそ順調に拡大したものの収益性の低迷が続いた。特に米テスラを顧客とする円筒形は、北米の「ギガファクトリー」で生産立ち上げが難航し、赤字操業が続いた。19年後半にようやくテスラの「モデル3」の生産拡大に電池の供給能力増加が追い付くかたちで黒字化のめどが立ち、同年度末に向け黒字の定着と収益向上を図る予定だ。ハイブリッド車(HV)などに搭載されている角形電池も販売こそ拡大したものの、中国大連工場や姫路工場の生産ライン立ち上げ費用の増加や、顧客ごとにカスタムで開発して量産するという製品の特性に起因する収益性の悪さなどで、利益が伸び悩んだ。

 これらの状況を受けて、パナソニックは車載機器や電池、電子部品、プリント基板材料などを扱っていた社内カンパニー、オートモーティブ&インダストリアルシステムズ(AIS)社を、オートモーティブ(AM)社とインダストリアルソリューションズ(IS)社に分割した。車載事業を専門的に扱うカンパニーにして経営管理体制を強化し、立て直しを図る考えだ。

収益性を最優先の車載機器

 新たに発足したAM社は、どのような事業戦略を描いているだろうか。18年度の車載事業(機器・電池の合計)の売上高は約1兆9000億円と12年度の約1兆円から2倍近くに拡大したものの、車載機器、電池ともに収益悪化に陥ったのは前述したとおりだ。車載機器事業は、販売拡大を急ぐあまり適性受注量を超過したうえ、急速な拡大に組織の対応力が追い付かなかったと総括する。これにより開発ロスや遅延が発生し、受注段階で期待していた収益が確保できない案件が増えることにつながった。

 そのため、受注や件名管理の最適化など管理体制を強化するとともに、開発段階での顧客要望の見極めによって開発効率の向上、収益確保を図るとしている。注力製品としてはIVI(in-Vehicle Infotainment)やHUD(ヘッドアップディスプレー)といった次世代コックピット商材、センシングデバイスなどのADAS関連を挙げている。

 ただ、成長領域の強化こそ掲げているものの、当面の目標は経営体質の強化と収益力向上というディフェンシブなものだ。19年11月のIRミーティングで公表した事業戦略資料には「注力領域への絞り込み」「ニッチトップ」という文言が目立ち、高収益化を謳うものの、売り上げ規模の拡大に向けた意欲には乏しいと感じる。開発管理不全で収益低下を招いた欧州事業も日本主導のマネジメントで立て直すとしているが、自動車市場において重要な欧州市場へのアプローチ低下という印象は否めない。

積極性失う電池

テスラ向けで黒字化の道筋が見えた円筒形電池
テスラ向けで黒字化の道筋が見えた円筒形電池
 車載電池事業では、テスラと協業してギガファクトリーへの投資を決めた際のような積極果敢さが影を潜めている。円筒形電池はギガファクトリーの急速立ち上げに伴う生産ロスの増加から、テスラのモデル3の販売が好調に拡大したにもかかわらず赤字のままという苦しい状況が続いた。それが19年度第3四半期にようやく黒字を達成し、19年度末には年産32GWhのフル稼働に到達できる見通しとなった。黒字化が定着し、売り上げ、収益ともに拡大が見込めるフェーズだ。

 ところが、パナソニックはギガファクトリーの立ち上げで苦労した反動か、テスラをパートナーとしたさらなる円筒形電池の拡大に向けた意欲を失ってしまったようだ。テスラは中国上海にEV工場を建設し、韓国LGや中国最大の車載電池メーカー、CATLから電池を調達する方針と報じられている。一方で、パナソニックは中国で円筒形電池を生産する計画はないと明言している。

 19年度第3四半期決算説明会において、梅田博和CFOは報道関係者からのLGやCATLが競争相手として台頭してくることに危機感はないのかという質問に対し、「(テスラが20年に投入予定の)モデルYにも当社の電池は採用されると想定している。既存車種向けも増加しつつあり、効率を向上することで黒字を定着させる」と述べて、テスラのメーンパートナーである立場には揺るぎがないことを強調した。

 しかし、将来的にテスラが中国事業のさらなる拡大に動いた場合、現地で電池を生産しないパナソニックの立場が低下する恐れはぬぐえない。円筒形電池はテスラ以外への採用が広がっておらず、依然として「テスラ頼み」の状況が続く。ギガファクトリーのオペレーションでテスラに振り回されたことに懲りたパナソニックが、中国で投資をしてまでも関係を維持し続けることに否定的なのは理解できる。だが、将来的にテスラ向けシェアが低下した場合の代替策はあるのだろうか。ギガファクトリーの一本鎗では、円筒形電池事業の将来は先細りを余儀なくされるだろう。

 一方の角形電池は、トヨタ自動車(株)との合弁化が決まっており、20年4月1日付で新会社として事業活動を開始する予定だ。両社の車載電池の生産、開発機能や人員を統合することに加え、全固体電池など次世代電池の研究開発も行う。トヨタ自動車だけでない幅広い自動車メーカーに電池を販売し、車載電池市場で優位性を確保するという意欲的な目標を掲げている。

 だが、この角形電池でも、パナソニックの意気込みはトーンダウンしている。梅田CFOは先の決算説明会で角形電池の事業方針について「新会社は(51%を出資する)トヨタがマジョリティ―を持つため、詳細な事業方針についてはコメントしない」と述べ、新会社の業績への寄与についても「パナソニックは合弁会社の持分の利益やロイヤルティーなどを得る」と言及するにとどまった。確かに合弁会社の主導権はトヨタにあるのだが、これまで車載事業を構成する柱の1つとして推進してきた事業であるだけに、率直に言えば「冷めた」態度と感じる。

 円筒形・角形両電池において、前中計期間に打ち出してきた積極性はすっかり感じられなくなってしまった。収益悪化に苦しんだパナソニックは、トヨタ、あるいはテスラというパートナーに依存して安定した利益を確保できれば良いという方針に転じた、そんな印象を持つのだ。

「強い商品が残っている」と言うが?

 AM社と分離した、IS社の事業戦略はどうだろうか。IS社はリレーやスイッチ、コネクター、FA用のモーターやセンサー、産業用電池や蓄電モジュール、プリント基板材料や半導体封止材などの電子材料、汎用電池など、非常に広範な製品群を擁する。ほかに半導体、液晶パネルがあるが、冒頭に述べたとおり撤退が決まっている。

 IS社の事業方針は車載・産業市場へのシフトと集中、強いデバイスをさらに強くすることによる売り上げ、利益成長だ。デバイス製品としてはトップシェアを持つ車載インダクター、フィルムコンデンサー、プリント基板材料を、システム製品としては電動車用電源モジュール、通信インフラ用バックアップ電源モジュール、FA用サーボモーターなどを主要商品と例に挙げている。従来の強みをさらに推し進める戦略で、成長市場である車載CASE、情報通信インフラ、工場省人化の3分野にフォーカスし、30年度には売上高2兆円規模、業界トップグループのデバイス企業を目指すとの目標を掲げている。

 車載・産業分野にシフトするという方針は従来からの路線を踏襲したものであり、強い製品をより強くして売り上げ、利益成長を目指すのも合理的な方向性に見える。では、そこに穴はないのだろうか。

 IS社は19年12月に報道関係者と坂本真治IS社社長との懇談会を開催し、今後の事業戦略に関する質問に応じた。そこで記者から「半導体と液晶事業からの撤退を決めて、残る製品に弱点はないのか」と問われた坂本氏は「選択と集中を進めてきて強い商品が残っている。弱点はないと思っていただきたい」と胸を張った。ただ、筆者はこの説明がIS社の今後の安定成長を約束したものであるとは到底思えなかった。半導体と液晶の撤退までに至る経緯が頭をよぎったからだ。

選択と集中の果てに追い込まれた半導体、液晶事業

 半導体と液晶事業は前中計の策定段階で「課題事業」に位置づけられ、19年度黒字化を目標に掲げていた。が、黒字化とは程遠い状況が続いており、このタイミングで撤退が決断されたことに驚きはない。筆者も、撤退そのものは妥当であると考えている。ただし、そこまでの流れを振り返ることには意義があると思う。

 パナソニックの半導体事業は、1957年にオランダのフィリップスと合弁で生産を開始したのに遡る。2000年代にはデジタル家電向けのシステムLSIプラットフォーム「UniPhier(ユニフィエ)」を展開し、携帯電話や薄型テレビなどの躍進を支えた。ところが、09年のリーマンショックや11年の地上デジタル放送シフトの完了、スマホの躍進などでデジタル家電がエレクトロニクス製品の主役の座を失うと、パナソニックの半導体事業も低迷する。

 14年には生産拠点のうち前工程を担当する北陸の3工場(新井・魚津・砺波)をイスラエルのタワージャズと合弁化するとともに、東南アジアの後工程拠点をシンガポールのOSATであるUTACに譲渡し、残る拠点も整理を進めた。続く15年には従来の主力であったシステムLSIを富士通(株)と合弁化し、(株)ソシオネクストとして切り出した。19年にはローム(株)へディスクリートの一部事業を譲渡するとともに、残る事業を20年6月1日付で台湾のヌヴォトン・テクノロジーに売却することを決めた。

 一方の液晶事業は、05年に日立グループと(株)東芝との共同出資会社「(株)IPSアルファテクノロジ」に参画したことが始まりである。08年には東芝から保有株式を取得し、10年に姫路工場を稼働、さらに日立グループの保有株式も取得して100%子会社化した。ところが薄型テレビ市場の低迷により、その後の液晶事業は退潮に追い込まれる。12年には茂原工場を同年設立された(株)ジャパンディスプレイ(JDI)に売却し、13年には海外の組立拠点を閉鎖した。16年には姫路工場の生産能力を半減させてテレビ用から撤退し、産業用に注力していた。しかし収益改善にはつながらず、21年をめどに生産を終息して撤退することとなった。

半導体事業再生のカギとして期待されていたBMIC
半導体事業再生のカギとして期待されていたBMIC
 半導体はシステムLSIに代わり、イメージセンサーやバッテリーマネジメントIC(BMIC)など、液晶はテレビ用から医療用などに軸足を移して生き残りを図っていたが、どちらも収益を支える存在とはならなかった。姫路工場の液晶製造ラインは8.5G(2.2×2.5m)と大型で、「テレビよりボリュームの小さい産業用の生産で採算ラインに乗せるのは無理だったのだろう」との業界関係者の声もある。

 両事業に新たな成長エンジンを生み出そうとする動きがなかったわけではない。半導体事業では次世代不揮発性メモリーの1つであるReRAMやGaNパワーデバイス、有機薄膜イメージセンサーなどの開発を進め、GaNデバイスが宇宙用に採用されるなどの成果も出てきていた。一方、ディスプレーでは有機ELパネルの開発を進め、一時はソニー(株)との共同開発も模索していたが、結局15年に設立された(株)JOLEDに両社のリソースは統合され、パナソニックとしての有機ELパネル開発は終息した。

 半導体、液晶事業の顛末を振り返って感じるのは、両事業ともにパナソニックのデバイス事業を構成する有望な存在だったにもかかわらず、巻き返しにつながるようなグループを挙げての取り組みが成されなかったことである。赤字脱却を至上目標として選択と集中を進めたこと自体が誤りだったとは言えないまでも、車載機器、デバイス、あるいはほかのカンパニーで手がける事業との連携で製品やサービスを生み出せていれば、「じり貧」に追い込まれずに済んだのではないか。

 家電メーカーとしての長年のライバルであるソニーがイメージセンサーへの継続的な投資によって今や世界トップメーカーに君臨し、ディスプレーパネルの競合であったシャープ(株)が台湾鴻海グループの傘下に入ってからも液晶を軸に事業を継続していることと照らし合わせた時、10年代のパナソニックがこれら事業で存在感を示すことができないまま終息に追い込まれていったことが惜しまれるのである。

「守り」に徹した先に展望はあるか

 さて、過去から現在に視点を戻し、今のパナソニックが打ち出している事業戦略を再考してみよう。本稿の前半で触れてきたとおり、前中計で成長事業に位置づけた車載事業は、「挫折」を経て収益性重視の事業として再出発するに至った。しかし、前中計で車載事業が成長事業とされ、多大なリソースが投じられたのは、そもそもそれ以前、津賀一宏社長が12年に就任してから15年度まで、プラズマパネル事業をはじめとした構造改革の実施で減収傾向が続いたからだった。前中計における車載事業は増収増益路線に転じるためのシンボルであり、そこにリソースを集中させようというメッセージは明白だった。

 ところが19年度に打ち出した新中計では、成長エンジンたる基幹事業が「空間ソリューション」「現場プロセス」「インダストリアルソリューション」の3本とされ、そこに各カンパニーのリソースを振り分けるという。成長戦略への方向性が希薄な一方、「21年度までに構造的赤字事業を撲滅し、低収益事業の方向性を決定する」と、収益改善に対してははっきりとした目標が設定されている。全体的な戦略として、「守り」を志向した中計であることは否めないだろう。

 収益体質を改善したのちに攻めに転じるのだ、という考え方はどうか。車載事業は「再挑戦事業」と名付けられていることもあり、パナソニックとしては現中計後の22年度以降を勝負と位置づけていると推定される。しかし、3年間を守りに費やして先の展望は開けるのだろうか。自動車市場では電動化、自動運転技術の進展で急速に業界地図に変化が起きており、新規プレーヤーの参入や既存プレーヤーの再編が進んでいる。パナソニックも電池や住宅事業でトヨタと組んでいるが、主導的に市場変革をもたらそうという意欲に乏しい。

IS社の坂本社長
IS社の坂本社長
 デバイスを担当するIS社は、前述のとおり30年度に業界トップグループのデバイス企業を目指すという目標を掲げる。先の懇談会で報道関係者から「業界トップグループのデバイス企業の具体的なベンチマーク」を問われた坂本社長は、「製品構成が違うので一概には言えないが、売上高1兆5000億円程度、営業利益率2桁の電子部品メーカーを想定している」と回答した。該当する大手電子部品メーカーは日本電産や村田製作所、TDKなどと考えられるが、いずれも電動自動車や自動運転などの新規領域に向けて積極果敢にM&A、設備投資、新製品投入を行っている。それらの想定ライバルと比較した際、現時点で強い製品に特化して高収益を目指していくというIS社の基本戦略はあまりに「守り」志向だ。

 ある段階で強い市場ポジションを持っていたとしても、守りに徹したまま攻めを欠けば競合にじりじりとシェアを崩され、いずれは競争力を失う。そして収益性を失った事業を切り離し、残る高シェア製品で守りを固める。その繰り返しの果てに持続不可能にまで追い込まれたのが半導体、液晶事業であった。巨額の投資をかけて取り組んだ車載事業が挫折し、パナソニックとしてさらなる攻めの投資を行うことが許されない情勢になっているのであれば、その内向きの姿勢はさらなる退潮を招くのではないか。攻めを欠いた新中計は、前中計の失敗よりもさらなるダメージをパナソニックにもたらすのではと危惧するのである。

電子デバイス産業新聞 大阪支局 記者 中村剛

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