電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第7回

パチンコ玉の向こうにある人生


~ベンチャーのアクセル、エルイーテックが活躍~

2012/8/31

パチンコ屋のネオンは現代人のオアシスか?
パチンコ屋のネオンは現代人のオアシスか?
 本当に孤独になりたいときは、パチンコ屋に行くんだ、という人は意外に多い。筆者もまたそのひとりである。パチンコ玉が飛び跳ねる盤面を見つめながら、人生について考える。仕事について考える。芸術論や恋愛論について考える。実に至福のひと時なのだ。

  自分の内面を見つめるのであれば、鎌倉あたりのお寺にこもって枯山水の庭を見て、静かなときを過ごせばよい、と知人は忠告してくれるが、筆者の場合、そんなところでは落ち着かないのだ。横浜生まれの悪ガキであり、夏になれば湘南テディボーイとしてナンパが楽しい、と考えている筆者にはお寺の静かさは似合わない。だいたいが街というものは、パチンコとキャバレーとストリップがなければ成立しないと真剣に思っている。パチンコ屋のチンジャラという響きは、耳をつんざくようであるが、バッハの無伴奏チェロ組曲より美しい、とさえ思っている。

  それはさておき、パチンコという世界で頭角を現してきた半導体ベンチャー2社のことを考えたい。1社はアクセルというカンパニーであり、パチンコをはじめとするアミューズメント向けグラフィックスLSIでマーケットシェア50%を握る気鋭のベンチャーである。1996年2月に設立され、驚くなかれ、会社設立6年にしてJASDAQ上場を果たしている。国内のファブレス半導体ベンチャーが世界に比して伸び悩みが目立つ中で、アクセルの快挙は国内外にインパクトを与えた。

  売り上げは2010年3月期にピークの154億円を記録し、その後、2年間は低迷した。しかし、2013年3月期は125億円まで戻すとみられており、その後も上昇気運にある。メモリーモジュールをLSIとセット販売しており、ROE 10%の中期目標を掲げている。

  アクセルのファウンダーであり、現在も会長を務める佐々木譲氏にインタビューしたことがある。佐々木氏は東海大学で電子工学を学んでいたが、勉強に身が入らず、いまどきの言葉で言えば「人間はなぜ生きるのか」「ここはどこ、私は誰」というような自分探しで悩んでいた。そんな折、盲腸で入院し、入院先の病室で佐々木氏はその運命を大きく変える雑誌の記事に出会う。それは、トランジスタ技術に掲載されていた世界初のマイクロプロセッサー、インテルの4004の記事であった。

  「4004との出会いは、まさに衝撃的であった。うめき声を発してこんなものが世界にあるのか、とさえ思った。それからどうしてもマイコンをやりたいとの思いで、半導体業界にのめりこむことになる」(佐々木氏)

  ところで筆者はパチンコマニアではあるが、やはり大当たりの台を常に見つけたいと思っている。それゆえに、佐々木氏に大当たり台の半導体回路はどうなっているのか、としつこく質問したが、まったく教えてはくれなかった。よく考えれば当然のことであろう。それを聞こうとした自分のいやしさが悲しい。

  パチンコ向け半導体ベンチャーとして注目されるもう1社は、エルイーテックである。設立は1989年10月、資本金は3億円、2011年3月期売り上げは約80億円。パチンコやアミューズメント機器に対する外部からの改ざんを防止するセキュリティーシステムのパイオニアとしての実績を築いてきた。最近では、このアミューズメントチップの原理を生かして、新たに「止まらないマイコン」技術を実現する高レジリエンス技術「FUJIMI」を開発したが、これが何と組込み技術展の最優秀賞受賞の栄誉に輝いたのだ。

  同社の執行役員であり技術本部をまとめる辰野功氏は、半導体業界では歴戦の兵として知られる人だ。埼玉県久喜で生まれ、早稲田高校を経て電通大に進み、まずはシステムハウスで仕事をしていた。その後半導体商社のアムスクに移り、31歳でパチンコ業界に出会った。当時はフィバーの時代で、モトローラの68系がCPUとして多く使われた。マイコンが非常に不足している時代であり、売って売って売りまくり、最大手メーカーには一時期、数百万個も出荷したことを良く覚えている、という。

  エルイーテックのセキュリティーチップは業界全体でシェア70%を押さえている。ファブレスカンパニーであり、半導体の製造は国内外の大手半導体メーカーに外注している。

 「思えば様々なチップを手がけてきたが、このパチンコのセキュリティーチップを横展開し、CPUが暴走した場合でもリセットし、マイコンを回復させる画期的な技術を確立できた。この技術は、すでに富士通セミコンダクターでの採用が決まっている。今後も最先端の微細加工を使わなくても、すばらしいチップを作れることを実証していきたい」(辰野氏)

  ちなみに筆者の一番大好きなパチンコの機種はエヴァンゲリオンである。先ごろ、大当たりしてパチンコ台から流れるテーマ曲「残酷な天使のテーゼ」を涙ながらに絶叫していたら、店員さんにもう少し静かにしてください、とたしなめられてしまった。



泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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