電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第354回

厳しい局面に立つ車載半導体


4~6月期は大幅なマイナス成長必至

2020/6/12

 国内の大手調査会社によると、2018年の車載用半導体の世界市場は前年比6.0%増の310億9000万ドル、19年は同1.0%増の314億1000万ドルとなった。19年は、ADASやEV向けが牽引するセンサーやパワー半導体、メモリーが堅調に推移したものの、新車販売台数のマイナスによりMCUとアナログICの成長が鈍化し、前年からほぼ横ばいにとどまった。

 市況としては踊り場にある車載半導体市場だが、ADASの先にある自動運転や電動化に向けた技術開発投資は、各社で積極的に進められている。30年には自動車販売台数のうち約10%をレベル3以上の自動運転車が占めるとみられ、車載コンピューティングを含めたシステムの高度化がさらに加速していくことになる。

 例えば、アウディの「A8」では、ADASを高度化するセントラルドライバーアシスタンスコントローラー「zFAS」を搭載しているが、これはモービルアイの「EyeQ3」、アルテラのFPGA「Cyclon V SoC」、NVIDIAのSoC「Tegra K1」、インフィニオンのマイコン「AURIX」を組み合わせたものである。搭載されている半導体の総額は約1500ドル。「今後こうした組み合わせのプラットフォームの採用が拡大していく可能が高い」とアナリストは語る。従来のコンベンションな車に搭載されている半導体の総額は220ドル程度だが、EVでは400ドル、レベル3の自動運転車では800~1000ドルにまで跳ね上がると予測されている。


 今後の車載用半導体の世界市場は、25年に437億7000万ドル、30年には586億1000万ドルへの拡大が予測される。30年に向けて市場をリードするのは、ADAS/AD(自動運転)、EV(次世代車)、コネクテッドカーの3分野。なかでも、車載用のセンサー、パワー半導体、メモリーの成長が期待される。車載用センサーでは、運転支援向けのカメラ用CMOSイメージセンサー、レーダー用送受信チップの数量が拡大する見通し。また、パワー半導体についても、26年ごろからSiCを使用したパワー半導体の搭載が本格的に進展する見通し。

新型コロナが自動車産業を直撃

自動車生産イメージ(トヨタ TMMIの生産ライン)
自動車生産イメージ(トヨタ TMMIの生産ライン)
 周知のとおり、1月下旬に中国から始まった新型コロナウイルスの感染拡大は、様々な産業分野に大きな打撃を与えているが、自動車産業も例外ではない。20年1~3月期における自動車の主要地域における生産台数を見ると、中国では前年同期比47%減の300万台、欧州ならびにアフリカでは同19%減の470万台、北米では同10%減の380万台。世界合計では同23%減の1730万台と、2桁の大幅な減少となっている。

 なお、自動車メーカー各社が新型コロナの影響により市況の見通しが不透明であることから、20年度の業績見通しの公表を控えるなか、トヨタでは業界の指針になるとの判断からあえて見通しを公表。前提となる自動車の販売台数は前年度比22%減の700万台を見込む。4月単月では、販売台数が前年同月比46.3%減の42万3302台、生産台数が同50.8%減の37万9093台となり、前年からほぼ半減の苦しい状況。4月までの累計販売台数は同19.8%減の244万8291台、累計生産台数は同23.0%減の235万8761台。

 同社では、「販売台数が4~6月期で前年同期比6割、7~9月期で8割、10~12月期で9割まで回復。その後前年並みを確保することを前提とした通期の販売台数見通しだ」としており、今後の動向を注視していく必要がある。

車載半導体各社の1~3月業績はまだら模様


 20年1~3月期における主な車載半導体メーカーの売上高を見ると、NXP Semiconductors(オートモーティブ事業)が前年同期比4%減、Infineon Technologies(ATV事業)が同3%減、ルネサス エレクトロニクス(自動車向け事業)が同13%増、STMicroelectronics(Automotive&Discrete Group)が同17%減。各社でばらつきはあるものの、車の生産台数の落ち込みほどは売上高が減少していない。これは、車載半導体から完成車のまでの間に何層かのサプライチェーンがあり、各段階で在庫の確保が行われたことによるもので、車載半導体メーカーのところまで調整が入るのにタイムラグがあることが要因である。

■NXP Semiconductors

 車載半導体のリーディングサプライヤーである同社は、全社売上高の約50%をオートモーティブ事業が占める。車載向け製品としては、アナログからRF、DSP、MPU、アプリケーションプロセッサー、マイコンなどを幅広く手がけ、世界1位、2位を争う製品をラインアップしている。1~3月期の売上高は、前年同期比4.1%減の9億9400万ドルと、2四半期連続のプラス成長(前年同期比ベース)から一転、マイナスとなった。北米や欧州では、新型コロナの影響により、自動車メーカーやティア1の生産拠点が全面的または部分的に閉鎖を余儀なくされたことが要因。4~6月期のオートモーティブ事業の売上高については、前年同期比で30%程度の減少を見込む。

 現在、自動車OEMやティア1では生産再開が順次進められているが、生産レベルがどの程度なのか明らかではない。再開されてすぐに車載半導体需要が回復するというわけでもない。同社では今後数カ月かけて徐々に回復していくとの見方を示している。

■Infineon Technologies

 20年4月、Cypress Semiconductorの買収を完了した。買収額は90億ユーロ。これにより、Cypressから、新たなマイコンの製品ポートフォリオ、コネクティビティーコンポーネント、ソフトウエアエコシステム、ハイパフォーマンスメモリーなどが加わる。これらは、Infineonが誇るパワー半導体、車載用マイコン、センサーおよびセキュリティーソリューションを高度に補完。両社の技術を組み合わせることで、ADAS、自動運転、IoT、5Gモバイルインフラなどの高成長を続ける分野へ高度なソリューションを提供すること可能となった。

 1~3月期におけるAutomotive(ATV)事業の売上高は、前年同期比3.3%減の8億4600万ユーロ。前年同期と比較するとマイナスだが、前四半期比では2.1%のプラス成長としており、コンフォートエレクトロニクス(快適性機能向け電子部品)およびマイコンの需要拡大が主な要因としている。

 一方で、20年下期については厳しい見通しを示している。CEOのラインハルト・プロス氏は、「新型コロナの感染拡大によって前例のない規模の影響が生じており、半導体産業にも非常に大きな衝撃が及んでいる。当社も大規模なグローバル経済低迷の影響を免れることはできない。しかし、Infineonは危機的状況への対処を経験から学んでおり、サプライチェーンあるいは製造関連などあらゆる困難にもかかわらず、この数週間、ほぼ通常どおりの業務を維持できている。一方で、コスト抑制策を早期の段階で導入したが、20年度下期の見通しは大きな下押しを余儀なくされる」とコメント。なかでも、Automotive(ATV)事業部の売上高については「急激な減少を見込んでいる」と警戒感を示した。

■ルネサスエレクトロニクス

 自動車向け事業の売上高は、同13.1%増の935億円と2桁成長を記録した。しかし、これは同社の予想を下回る結果。その要因の1つにマレーシアの後工程での生産制約が挙げられ、自動車でより多くの影響を受けた。そのほか、車載制御のMCUを中心に、想定よりも需要が弱含みで推移したことが影響している。

 新型コロナによる全社的な出荷では、中国の後工程2工場とマレーシアの後工程3工場が影響を受けた。しかし、実際に操業が停止した期間が短かったことと、在庫からの掃き出しがあり、実額としての影響は限定的であったもよう。

 一方で、足元の4~6月期の状況をみると、自動車向け事業は継続的に業績が下降しているが、自律走行のカー・コンピューティングのために設計された、車載用情報システム向けSoCファミリー「R-Car」などは下げ幅が非常に小さく、新しい世代の製品を投入していく計画。スケーラブルなR-Carシリーズ(R-Car H、R-Car M、R-Car E)と柔軟なソフトウエアプラットフォームは、プレミアムクラスからエントリーレベルまで、あらゆるクラスのニーズをカバーする。

■STMicroelectronics

 20年1~3月期におけるAutomotive & Discrete Group(ADG)事業の売上高は、前年同期比16.6%減の7億5300万ドルと2桁のマイナスだった。全社売上高は、イメージング関連ならびにアナログデバイス、マイコンが伸び、前年同期比で7.5%のプラス成長を堅持したが、車載製品とパワー・ディスクリートが低迷し、一部が相殺されるかたちとなった。社長兼CEOのジャン・マーク・シェリー氏はガイダンスで、「4~6月の見通しは、市場の需要低下、特に自動車分野における影響と各国政府の規制による事業運営ならびに物流に関する影響などを考慮している。一方で、全製造拠点は操業可能。いくつかの工場は生産能力を低減して稼働することになり、関連する余剰コストは現在約400ベーシス・ポイントと見積っている」とコメントしており、ADG事業はさらなる業績悪化が必至とみられる。

 一方同社は、最新の車載用32ビットマイコンを1~3月期に日本で初公開した。次世代自動車では、これまで単機能で構成されていたECUから、複数の機能を集積するドメイン・コントローラへとアーキテクチャーが変化しつつある。車内の高速なデータ通信や、OTAによるソフトウエア更新に対応する高度な車載マイコンが求められており、同社のStellarファミリーの新製品は、PCM(相変化メモリー)を内蔵したリアルタイム高性能処理の実現により、次世代の車載ニーズに対応する。28nmプロセスのFD-SOIテクノロジーを採用して製造された同製品は、複数のArm Cortex-R52を搭載したマルチコア構成(最大400MHz)。また、高速のリードライト制御が可能なPCMを最大40Mバイト内蔵することで、OTAによるソフトウエアの更新や高速な車内データ通信ニーズにも柔軟に対応することができる。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 清水聡

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