商業施設新聞
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No.769

「不動産狂風」に揺れるムン政権


嚴 在漢

2020/8/18

ソウル市内は高層アパート建設が盛ん。価格は高騰している
ソウル市内は高層アパート建設が盛ん。
価格は高騰している
 韓国ソウルでは不動産価格が急騰し、文在寅(ムン・ジェイン)政権の基盤を揺るがしている。市民団体の経済正義実践市民連合によれば、ムン政権の3年間で、ソウル市内のマンション(韓国ではアパートと呼ぶ)価格は平均52%値上がりし、李明博・朴槿恵政権に比べて2倍強も暴騰したという。例えば、ソウル市内の100m²規模のアパートの価格は、江南区では約3億円を突破し、松坡区で2億円、江東区で1.8億円と天井知らずの勢いで上昇している。1億円であった自宅が3年間で2億円になるというイリュージョンのような事態は、韓国社会で不労所得を助長し、階層間の格差をさらに広げる結果になっている。「サラリーマンが12年間、一銭も消費せずに貯めてもソウル市内のアパートは買えない」という調査結果も出るほどだ。これによって一般のソウル市民は真面に働いても自宅を持てない虚脱感、地方の人々にとっては到底考えられないアパート価格に空虚さを感じざるを得ないという。国全体がある種の喪失感と怒りに充満している。

 こうした状況を受けて、与党とともに民主党院内代表は、最近の国会演説で「韓国の行政首都をソウルから世宗特別自治市(韓国中部)に移転すべきだ」と言い出した。首都圏の人口過密と不動産問題が解決できるという趣旨だ。韓国全土面積の11.8%にすぎない首都圏(ソウル+京畿道)に、人口の50%と経済の70%が集中している。

 こうしたことからムン政権は、「国土均衡発展」というスローガンを再び旗印に掲げている。つまり、大統領府と行政機関すべてを世宗市に遷都すれば、ソウルの一極集中は避けられるという論理だ。

 だが、現状のムン政権と与党は、どうも不動産問題を政治化したがる癖があるように思える。国民の経済に対する不満を逸らすための一種の政治工作であろう。本気で不動産価格を安定化させる覚悟があったならば、3年前にムン政権がスタートする際、より強力な政策を取れたはずだ。しかし、不動産問題を徹底的に取り締まった場合、低成長に入った韓国経済に大きな打撃になることを恐れた挙句、3年間で23回にも及ぶ現実離れした不動産政策を乱発し、昨今の「不動産狂風」を招いたのである。また、北朝鮮問題に埋没することによって、経済に対しては名ばかりの政策を繰り返してきたことは確かであろう。

 政治は社会の葛藤を調律する通路といわれているが、ムン政権は、通路はおろか障壁ばかりを作っているような気がする。

 韓国の民衆は、もはや1980年代のような理念と思想が重視されたころとは異なっている。つまり、政治的な理念よりは経済(パン)がはるかに大切なものになっている。経済的な不満が募れば募るほど、その鉾先はムン政権のほうに向かうだろう。
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