電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第3回

不揮発性メモリーが変えるコンピューターの世界


~しかして日本半導体の有効特許は大幅減だ~

2013/1/18

 インテル社のプロセッサーがiCore7以後、大きな進化がないように見える。クロックの周波数のアップもそう多くは期待できなくなった。iCoreシリーズも、プロセッサーを改良した、というより、並列に幾つものプロセッサーを並べただけ、とも捉えられる。では、プロセッサーの進化はなくなったのであろうか? 一部には、その様に捉えている人達がいる。

 小生は4年程前に、マイコンについてのある特許を申請しようと弁理士と打ち合わせを始めた際にこう言われた。「今頃、コンピューターの特許ですか!」。もうコンピューターに進化がないと信じているのであろうか? もし、そうなら大きな間違いと言いたい。

 さて、筆者が知る一番古いメモリーは何であろうか? メモリーとして有名なのは、コア・メモリーである。1ビットがリング状の磁性体の1個で構成されるメモリーで、リングの中の磁気の向きで記憶していた。

 10cm角程度の大きさで、256ビットのメモリーで、これで何万円という価格がついていた。高価なものであり、簡単に使えるものではなかった。これを1枚持っていたが、それだけで自慢できたものであった。このコア・メモリーの製造と品質では日本が断トツの1位であった。磁気については、電磁気学で大学でつまずくエンジニアの卵が多く、実社会でもよく理解しているエンジニアは少ないにも関わらず、米国の偵察用ジェット機のレーダー波を吸収する塗装剤が日本製であるように、製品での優位は保たれている。

 この後、磁気バブル・メモリー、半導体メモリー(RAM、DRAM)と今のメモリーに近いメモリーが世の中に出てくるが、コア・メモリーは今でいう不揮発性のメモリーで、電源を切っても内容は変化しなかった。

 さて、この時代、その直後のコンピューターはどういうコンピューターだったのか? 実際に小生が手を触れた最初のコンピューターは当時、ミニコンと呼ばれていたコンピューターで、CPUは1枚の基板であった。50cm位の角型の基板にTTLがずらっと並んでいて、16ビットのCPUを構成していた。この時使われていたTTLは、74XXという高速ロジック回路の初代といえる、世界的にヒットした製品であった。日本では、大卒の初任給が3万円程度の時代に、7400は1個100円以上した。高価な物で、ハンダ付けするのが怖かった。このミニコンに先のコア・メモリーが使われていた。

 ところで何故、この古い話をしているのかというと、最近の半導体の話題に不揮発性メモリー、フラッシュやEEPROMといったROM系ではなく、RAMが登場してきているからである。質の悪いセラミック・キャパシタの性質を利用したFeRAM、磁気材料を使ったMRAM、抵抗体の異方性を使ったR-RAMと新技術の競争が起きている。どの方式が価格、性能、耐久性といった難関を通過して生き残るかは神のみぞ知る、であるが、半導体ビジネスの大きな変化の元になることに間違いはないであろう。

 もしマイコンのメモリーが過去のミニコンと同じく半導体のRAMと不揮発性RAMで構成されていたら、どこの不揮発性RAMの番地のどこをRAMとして使い、どこをROMとして使うかが自由になる。周辺回路やレジスタのアドレスは固定でも、昔のミニコンと同じく、1つのメモリー(RAM)空間をソフトウエアが何に使うのかを決めて使う時代が目の前に来ている。プログラム・コードの大きさとワークエリアの大きさにより最適の配置をどう決定するかといった、メモリーが高価で常に不足していた過去の時代の知識が、組み込み系では見直されることになろうと考えている。これは、組み込み用のマイコンではRAMもROMも潤沢にはなく、不足しているメモリーのやり繰りは昔のミニコンと同じだからである。

 ミニコンの時代に流行った、プログラムが自分のコードを書き換えながら働くという手段も、今はRAMに転送して行うことで一部には可能であるが、この不揮発性RAMベースのマイコンが普及すれば当たり前の技術となるか? C言語といったコンパイラの対応次第か?

 幸い、今や手でブートローダーを入れる必要はなく、オート・ローダーが小さいマスクROMに入り、I2CやSPIからソフトをロードしてくれる。いったんロードされれば、次回のリセット・スタートですぐにアプリが動作を始め、電源を切ってもRAMの内容はそのまま残っているので、流行の「節電」は電源その物をオフにすることに変化するであろう。

 フラッシュと違い、書き込み時間はSRAMには及ばないものの、RAMとして使える速度のメモリーであるから、書き込み時間も人間から見れば一瞬のことでしかなく、デバッグもリアルタイムにソフトもパラメーターも書き換えながら行う方法が出てくるであろう。

 そして、より大容量の物が可能となれば、パソコンのメモリーを置き換えて、休止状態と電源オフに差がなくなる。休止状態に入るにも、HDDへの書き出しはないので、一瞬で電源オフが可能となる。このように半導体とともに進化を続けるコンピューター、マイコンであるのに、特許の出願数が少ないという。

 米国のある調査機関によると、世界の国別の電子機器、半導体の有効な特許の数は米国、韓国と中国が増えているのに、わが日本は減っている、それも大幅に、とのことである。これこそ本当に日本の電子工業界の危機になる。新たな技術の進化を「温故知新」、古きを訪ねて新しきを知るに替え、進化をこなし、対応する有効特許の件数でも負けないようにしようではないか。
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