電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第37回

「挑戦と変革」でトクヤマは100周年ビジョン打ち出す


~売上3580億円、営業利益率7%目指しマレーシア軸に国際化~

2013/4/5

 山口県周南は、わが国でも有数の石油化学コンビナートの集積で知られている。総合化学大手の東ソーの拠点であり、信越ポリマー、昭和電工、日本ポリウレタン、日新製鋼、三井化学、日本ゼオン、帝人、トクヤマなどの工場が林立し、いまもなおその勢いを保っている。もちろん石油の大量供給の役を担うのは出光興産だ。京葉コンビナートや四日市コンビナート、水島コンビナートなどがひところの勢いを失っているというのに、周南はいまだ元気印なのだ。

 トクヤマは1918年(大正7年)に日本曹達工業として創業し、1936年からは徳山曹達と社名を変更、1994年から現社名となった。JR徳山駅前に広がる191万m²の敷地に徳山工場(無機)61万m²、南陽工場(セメント)28万m²、東工場(有機・電材)102万m²の3工場があり、徳山工場と東工場の間は1kmの海底トンネルでつながれている。

 自家発電設備は実に552MWを持ち、国内工場別能力では実に8番目を誇り、新日鉄住金大分より大きい。筆者は高所恐怖症であるが、それを押し隠してその発電所の一番高い場所に登ってみたが、足の震えが止まらなかった。それを気取られまいとやたら明るい声を出して、「やあー、この眺めは壮観ですなー」と無理に笑っていたのだ。筆者に随行していたトクヤマのSi製造部長は、はるか下のほうを見下ろしてこうつぶやいた。

 「戦艦大和はここで最後の燃料を積み込み、沖縄に向かったのです。あえなく沈んでしまいましたが、大和のことを覚えている人は広島や周南には多いのです。また、JRの駅に最も近いコンビナートはなんといってもこの周南でしょう」

トクヤマのポリシリコン/SE-gプラント
トクヤマのポリシリコン/SE-gプラント
 さて、トクヤマは07年度のピークで3047億円を売り上げたが、2012年度は半導体市況や太陽電池の低迷のあおりを受けて、売り上げは約2600億円まで後退を余儀なくされている。売り上げ構成は苛性ソーダ、塩ビをベースとする化成品が26.9%、多結晶シリコン、乾式シリカ、窒化アルミニウム、ICケミカルを柱とする特殊品が25%、それにセメント21.6%、機能部材13.8%、その他12.7%となっている(これは2011年度連結売り上げ2823億円の内訳)。従業員数は5500人、グループ会社数は84社を数える。徳山製造所が国内全体の90%の生産を担い、ファインケミカルを扱う鹿島工場が10%程度だ。

 よく知られているように、トクヤマは半導体や太陽電池向け多結晶シリコンにおいては、国内でダントツの70%シェアを握り、半導体向けではヘムロック、ワッカーを加えた世界3強の一角も占めているのだ。そのトクヤマがいよいよグローバル展開に向けて周南に次ぐ主力工場として期待しているのがマレーシア工場だ。6月には6200tの多結晶シリコン製造ラインが動き出す予定であり、これが1期分。当初は太陽電池向け生産を考えたが、現在の市況をかんがみ半導体向けにシフトしている。第2期については太陽電池で行こうと考えているようだ。

 マレーシアは、富士電機もパワー半導体の主力工場をシフトしているが、アジアのほぼど真ん中にあり、地政学的にはすばらしく発展するところといわれている。大国のインド、中国に近く、かつタイ、インドネシア、シンガポール、ベトナムなどの東南アジアの中心エリアにも位置している。もちろん日本との連絡もよく、太平洋を隔ててアメリカ大陸も見据えることができる。

 「マレーシアにかける期待は大きい。多結晶シリコン価格が下落した現下、コスト競争力で優位に立つマレーシア工場は、トクヤマの業績回復の鍵を握る工場であり、なんとしても工場の垂直立ち上げを実現させなければならない」

 こう力強く語るのは、トクヤマを陣頭指揮で引っ張る幸後和壽社長である。幸後氏は福岡県行橋で生まれ、父親は国鉄職員であったという。門司高校を出て東京工業大学工学部に進み、化学工学を専攻する。トクヤマに入社するが、いきなり製造技術課に配属され、現場からの企業人人生が始まった。

 幸後社長は創立100年の節目である2018年に向けて「挑戦と変革」をキーワードに掲げている。人財の活力と化学の創造力で未来を拓く、社会と共鳴するものづくり企業になろう、と全社員に呼びかけるのだ。
 先ごろ発表したローリング3ヵ年計画では、2018年に売上高3580億円、営業利益率7%を目標として掲げた。戦略的成長事業としては、トクヤママレーシアの発展をベースにやはり得意とする多結晶シリコンに磨きをかけていく。また、パワーデバイスやLEDの放熱基板となる窒化アルミニウムの強化も図っていく。将来を見据えて、医薬品原薬中間体などのファインケミカル事業なども伸ばしていく考えだ。

 「今後の成長軌道を考えれば、ただひたすら今の事業内容の延長線を追っていっても仕方がない。どこかで保有する知的財産を横展開する必要がある。メディカルやエネルギーの世界に強く踏み込む必然性は高い。また、ケミカルで培った分析技術は、評価システムや装置にも使える。異業種参入も充分にありうるのだ」(幸後社長)

 ちなみに、トクヤマは長寿企業であるがゆえに、OBも数多い。先ごろ幸後社長が出席したOB会に100歳の方が顔を見せたが、「トクヤマはすばらしい会社だ」と絶賛していたという。長寿企業で先端性維持、という企業に特有な現象はトクヤマにももちろんあるのだ。つまりは、ギスギスした管理で締めつけるという社風ではなく、タイムカードも一切置いていない。徳山という場所に多くの思い入れがある社員が多く、「心のふるさとは徳山」と答える社員が一杯いるというのだ。

 最近顕著なことは、徳山エリアにおける個人株主が非常に増えてきたことだという。約100年間にわたって地域の貢献に寄与してきたトクヤマに株式保有で報いたい、という住民の声が反映されたかたちだといってよいだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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