商業施設新聞
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No.787

出張ランで知る


松本顕介

2020/12/22

 海外出張は、言わずもがな日帰りが無理であるからして宿泊となるので、スーツケースにはたいていランニングシューズを忍ばせておく。そして早朝走る。この早朝ランニング、建物や施設の位置関係や通り、そして住民の生活もうかがうことができ、いちはやく街を知るにはもってこいである。これまでに米国オレゴン州ポートランド市内、台北市内を走った。ホテルに帰りシャワーを浴び、朝食をとってその日の業務に備えるルーティンは海外出張ならではのことだ。

 翻って国内はというと、日帰りがほとんど。前泊してもいいケースもあったが、何故か日帰りを選択してきた。始発出発もいとわず、早朝出発・遅くに帰宅という強行軍を好んだ。枕が合わない、荷物が増えるのがイヤなど色々あるが、なぜだか日帰りを好んだ。だが取材してタッチアンドゴーで戻るため、案外街を見ていないことも少なくなかった。以前所属していた弊社半導体産業新聞(現・電子デバイス産業新聞)時代の名残があるのかも。工場取材で地方を訪れて、そのまま街に寄らずに空港へ……。今から考えると惜しいことをした。商業施設新聞編集部に着任して、それぞれの街にはそれぞれのカオがある。分かってはいるが、早く戻って原稿を書かねば、雑務を処理したいという、目の前の仕事のために素通りしてきた。
 それが働き方改革や、コロナ禍で「ワーケーション」や「ブレジャー」などが認知され、そんなにモーレツでなく、もう少し肩の力を抜こうという考えが市民権を得てきたフシすらある。

 そんな折、北九州市小倉に出張する機会が訪れた。今回も始発を狙う勢いだったが、東京から朝9時の現地入りはさすがに無理なので、前泊することに。そこで、ランニングシューズを忍ばせた。翌朝、小倉駅近くのホテルを暗いうちに出発すると、街は人がまばらな早朝独特の雰囲気を醸し出す。海の方に向かって走ると、釣り人の姿が見えてきた。するとJリーグ「ギラヴァンツ北九州」のホームスタジアム、「ミクニワールドスタジアム北九州」が現れた。朝日が照らしはじめている。以前、本紙でJリーグのスタジアム新設をまとめたときにも話題になっていた施設で、一度本物を見てみたいと思っていた。海沿いに立ち想像以上の迫力だ。また朝日を浴び始めている姿が美しい。

市内を流れる紫川
市内を流れる紫川
朝日を浴びた小倉城
朝日を浴びた小倉城
 そこから市内を流れる紫川まで走る。川のほとりに降りることができ、川面を見ながら走る。紫川にはそれぞれ橋に名前が付いているそうだ。川に面して店舗があり、カフェや物販店がある。あの緑の人魚のマークのカフェチェーンの店舗があると想像していたが、東岸にはタリーズコーヒーとモンベルが、西側にはあまり東京ではこういう立地でお目にかからないコメダ珈琲店も構えていた。へーと感心しながら行き過ぎると、その背後には小倉城が鎮座している。朝日をたたえ、どっしり構えている。そのそばを紫川が流れる。犬を散歩している人、ジョギングしている人、素敵な風景だ。

 20年前にNEC鶴岡工場に工場取材で訪れたことがあった。先日、鶴岡市に取材に行く機会があったが、NEC鶴岡工場はその後、ルネサスに代わり、今はソニーのカメラ用CMOSイメージセンサーと呼ばれる半導体製造工場に変貌していた。建物をそのまま利用しているため外観は変わらないが、ソニーはスマホ用のカメラ用半導体で断然トップシェアを誇っているのだそうで、この20年で半導体市場は激変している。では鶴岡の街はといえば、駅前のジャスコが撤退し、大型のイオンモールができたり、サイエンスパークが整備され、そこにスイデンテラスという多くの人を呼び込むホテルが開業したり、街も大きく変わっている。20年経った今だからこそ思う。20年前、街を歩けばなあと。そうすれば街の変化を肌で感じることができたのに。
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