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第406回

日本ファインセラミックス(株) 代表取締役社長 田中宏氏


SiN、原料から一貫生産
車載PM向け 21年本格参入

2020/12/25

日本ファインセラミックス(株) 代表取締役社長 田中宏氏
 日揮ホールディングスの子会社で高機能セラミックスなどを事業展開する日本ファインセラミックス(株)(仙台市泉区明通3-10、Tel.022-378-7825)は、窒化ケイ素セ ラミックス(SiN)製絶縁放熱基板の量産化に乗り出す。金属シリコン粉末からの反応焼結法により、窒化ケイ素焼結体を得る方法で白板を製造することで安定生産を確立した。2021年から、車載向けパワー半導体モジュールをターゲットに本格参入する。日本ファインセラミックス(株)の田中宏社長に事業展開を聞いた。

―― 主力事業および足元の景況感を教えて下さい。
 田中 当社はSiCやSiNなどの「エンジニアリングセラミックス事業」、光通信デバイス向けのサブマウント基板や高周波用薄膜集積回路基板などの「エレクトロニクセラミックス事業」、主にFPD製造装置向けの機構部品などに使用される「MMC(金属セラミックス複合材料)事業」に加えて、セラミックスなどの「受託加工を手がける事業」の4つの事業から構成されている。コロナ禍や米中貿易摩擦の影響もあって見通しにくいが、足元は徐々に回復に向かっている。業績は前年同期比でほぼ横ばいか微増を見込んでいる。
 当社は1984年から当時ブームとなった「ニューセラミックス」「ファインセラミックス」といった機能部材の研究開発を主体とした第三セクターの新会社として発足した。その後、日揮100%の子会社となった。薄膜事業や受託加工事業、さらにはMMC事業を買収してセラミックス事業を磨いてきている。現在では一般産業機器分野から光通信分野、半導体製造装置分野など幅広い分野へ拡大している。

―― SiN基板市場に参入した経緯は。
 田中 2009年から産業技術総合研究所と窒化ケイ素原料を出発原料としない新しい製造方法である金属シリコンの反応焼結法を用いた製造方法の開発・確立を目指して取り組んできた。既存のSiNの熱伝導率を大幅に上回る理論値(200W/mK)に近い177W/mKの作製に成功し、高熱伝導化が可能であることを実証した。このほど一貫生産のめどが立ち、量産工場(宮城県富谷市)を立ち上げた。

―― 貴社のSiN基板の特徴を教えて下さい。
 田中 出発原料に高純度の金属シリコンを用いることで、熱伝導率の向上に適したSiN基板製造が可能になった。まずは、量産レベルで安定して製造できる熱伝導率90W/mKクラスで、厚み0.32mmクラスのサンプル製品を車載用パワーモジュール(PM)向けに本格出荷している。近く厚み0.25mmクラスのサンプル品も市場に投入する。今後は、現状の1.5倍程度まで熱伝導率を引き上げた製品を開発していく。

―― 原料粉末を内製化していると聞いていますが。
 田中 原料粉末の内製化ということではなく、金属シリコン粉末を用いた反応焼結法のため、窒化ケイ素原料を使用しないということだ。これは産業技術総合研究所と共同で開発した。半導体の材料でもある高純度シリコン粉末の成形体を1400℃付近で窒化させたあと、高温・高圧の窒素中で緻密化を行う「反応焼結法」を活用して開発した。この手法では、(1)原料粉末として不純物酸素の少ないシリコン粉末を使用できること、(2)反応焼結後には比較的高い相対密度の窒化体が得られ、その後のポスト焼結による緻密化が容易であること、(3)シリコン粉末と窒素との反応によるSiNへの転換とその後の緻密化を、一連の工程で空気に触れさせずに行うことができるため、粉末の酸化を抑えて、SiN粒子内部の不純物を大きく低減させることができる、といったメリットがある。製法も既存のものよりもシンプルで、高品質かつ高熱伝導率の基板開発につながった。

―― 今後の事業計画は。
 田中 現在、国内外の顧客複数社に出荷を開始している。すでに量産認定をいただいているところもあり、量産工場の建設に踏み切った。同工場ではシリコン粉末の加工からの成形体製造部門も併設している。早ければ21年初めにも白板の量産出荷を開始したい。軌道に乗れば23年ごろには現在の約10倍の売上高を目指す。総額25億円を投じて完成した工場で段階的に生産能力を引き上げる。本社工場にも試作開発ラインがあるが、BCPの観点からも当面は現在の場所で生産しつつ、中期的には新工場にラインを集約化する計画だ。


(聞き手・副編集長 野村和広)
(本紙2020年12月24日号5面 掲載)

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