電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第438回

2021年の半導体設備投資は超爆裂の30%増で過去最高


空前の15兆円を投入、第1四半期の装置販売は何と51%増

2021/6/25

 「これは何たることだ。日本半導体製造装置協会が発表した2021年第1四半期の世界半導体製造装置販売高は、前年同期比50%増の236億ドルとなっている。こんなに投入して大丈夫なのか。いつか一気に落ちるのではないのか。ああ。それを考えると夜も眠れないんです」

 筆者が親しくするアナリスト(かの有名なM氏ではない)が眼をひんむいて言った言葉である。しかし、今や世界的な半導体不足であり、作っても作っても足りない。とりわけ自動車向け半導体は生産計画を大きく狂わせるほどに足りない。これを考えれば、設備投資の拡大はそんなにサプライズなことではない。

 電子デバイス産業新聞によれば、半導体設備投資の拡大は今に始まったことではない。同紙によれば、2018年段階での投資は950億ドルに達し、なんと2017年水準に対し100億ドルも上乗せするほどの活況であった。そして、2019年は半導体生産にブレーキがかかった年であるからして、設備投資も急降下が予想されたが、微減の910億ドルを実行し、高水準が維持された。

 そして世界すべてがコロナ禍に見舞われた2020年、当初は半導体の生産も投資も下がるとの見通しであった。ところがどっこい、生産はテレワーク拡大、ゲームなどの巣ごもり需要拡大、そしてデータセンター投資などに支えられ、前年比5%増となり、すべての産業の中で、まさに半導体一人勝ちという展開になった。そしてまた、2020年の半導体設備投資も1029億ドル(約11兆3000億円)という過去最高水準を記録した。前年比13%増という伸び方をしたのだ。

 2020年の世界の半導体製造装置販売額を見れば、トータル7兆8320億円となっており、前年比19%増という活況であった。国別の内訳を見れば、1位中国=2兆592億円(前年比39%増)、2位台湾=1兆8865億円(同0.2%増)、3位韓国=1兆7688億円(同61%増)、4位=日本8338億円(同21%増)、5位=北米7183億円(同20%減)となっている。

 「中国製造2025」を掲げて、徹底的な半導体強化を図る中国は、やはりとんでもない投資を実行していた。そして、台湾はTSMCを中心に高水準を維持、韓国はサムスンをコアに投資を一気に上げてきた。

 かなりの数字の開きはあるものの、我が国日本も投資ランキングで第4位につけており、それなりの存在感を示している。ソニーが投資のリード役であり、キオクシアも一定水準を投資、そして三菱電機、富士電機、ローム、東芝などのパワーデバイス企業が頑張って投資水準を引き上げている。こうしたなかで、北米の投資が大幅に後退していることが目立つのである。

 それにしても、2007年当時にあって日本には世界最多の246の半導体ファブがあった。ところが、2022年段階での予想としては183まで減り、中国および米国に抜かれてしまうというのだ。中国は、2007年には94であった半導体ファブが、2022年は何と2.5倍増の235に膨れ上がるという。台湾は同じく57から135に拡大(4割増)、韓国は47から51に拡大すると見られている。ただ、韓国はファブの数は少ないが、いずれも巨大工場を建設しているため、生産能力でいえばすさまじい拡大を果たしていることになる。

 気になるのは、韓国サムスン、台湾TSMCの2強で世界全部の設備投資の3分の1くらいを占めていることである。2021年になれば、サムスンとTSMCで世界の投資の5割を占有してしまうとも予想されてきており、このことに危機感を持つ国家は数多くなってきた。すなわち、最先端メモリーと最先端ロジックのプロセス/製造をこの2社が独占するのであれば、世界のサプライチェーンに多くのゆがみが生じてしまう恐れがあるからだ。


 電子デバイス産業新聞は2021年の半導体設備投資も拡大基調にあり、2月時点では前年比約8%増の1110億ドルになると予想した。しかして、その後TSMCとインテルの投資増額、サムスンのロジック投資増額(2030年まで)などが相次いで発表されたことを受け、最近の様々な調査機関、アナリストたちの予想についてもかなりの上方修正がなされ、前年比30%増の15兆円超(1400億ドル)になるとも言われ始めた。

 いやはや、何ともサプライズであるが、半導体の安定成長を考えた場合、半導体設備投資の水準は半導体生産額の20%以内という指標があり、「投資過剰」の懸念もないとは言えないのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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