電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第472回

半導体産業を持たないロシアのウクライナ侵攻は暴挙であり的外れ


日米欧も敵に回ればサプライチェーンが崩壊し、超強烈な経済制裁が来る

2022/3/4

 それはかなり昔のことであった。太平洋戦争が終結する頃になって、ソビエト連邦はとんでもない暴挙を企て、実行した。日ソ不可侵条約が締結された状況下にあって、我が国ニッポンが太平洋戦争の終結宣言をする前に、いきなり軍隊を出して北方領土と言われる4つの島々を力で奪い取ってしまった。そして北海道にも手を伸ばそうという恐ろしい認識もそこにはあったのだ。

 それは1945年(昭和20年)のことであったが、2022年2月になってからのロシアの動きは、かつての北方領土をかすめ取った動きとどうしてもクロスオーバーしてしまう、と考えるのは筆者だけであろうか。

 もちろん、世界ナンバー1の国である米国は怒りを禁じ得ないという態度であるが、バイデン政権は決してバカではない。もし米国の軍事力をウクライナにつぎ込んだとしたら、それこそ第3次世界大戦の引き金をひいてしまうことになる。それゆえに、ひたすら経済制裁ということをぶち上げている。ドイツもイギリスもさすがに頭がぶちぎれているが、こちらもまた、ひたすら経済制裁を言っている。人類の未来を考えた場合に、核戦争にまで発展する武力衝突は、何としても避けなければならないと思っているからだ。

 それにしても、北京オリンピックの開会式においては、かのロシアのトップであるプーチン氏は、居眠りをしていたのだ。新型コロナ禍の中で開かれるこのオリンピックに対しては、皆敬意を払っており、各アスリートたちに熱い拍手をおくらなければいけない時間の中で、あろうことか居眠りをしていたその人は、なんとオリンピック終了後、直ちにウクライナに対する軍事的な行動を開始したのである。

 まさに暴挙であるが、世界の安全保障やサプライチェーンはそうした軍事力という暴力によって支配されているのではない。いまや半導体産業というイノベーションを持っているかどうかにかかっている。ロシアという国は、こと半導体に関しては最劣等国なのである。

 それにも関わらず、ひと時代前のアナログな考えしか持てないロシアは、戦車と軍隊でわがまま放題の侵略は許される、と考えている。見当違いであり、的外れも甚だしいとしか言いようがない。

 我が国のトップである岸田首相が、ロシアの暴挙に対しては「半導体による制裁」を考えている、と言ってのけたのは当を得たことであろう。もちろん米国は、得意とするロジックICをほぼ独占しており、CPU、GPU、システムLSIの供給をすべて止めるだろう。メモリー王国の韓国がどう出るかはわからないが、一応は西側諸国の一角にいるからして、最先端メモリーをロシアに供給することはためらうだろう。そして我が国ニッポンは、車載向けマイコン、CMOSイメージセンサー、LED、パワーデバイス、NANDフラッシュメモリーなどの分野で世界的地位を築いているが、これらをロシアに供給しないということが制裁の決め手になるのである。

 当たり前のことであるが、こうした半導体が手に入らないのであれば、最先端のミサイルも軍艦も戦闘機も造れないことになる。つまりは、ロシアは半導体のサプライチェーンを止められることによって、窮地に追いつめられるわけである。ましてや、日本が得意とする半導体製造装置、半導体材料なども止められてしまうだろう。

ロシアのウクライナ侵攻という暴挙に対し半導体を強化する中国はどう出るのか
ロシアのウクライナ侵攻という暴挙に対し半導体を強化する中国はどう出るのか
 ここで重要なことは、一途に半導体の国産化を加速している中国の出方なのである。国連理事会が開かれた折に、中国代表は「いかなる理由があろうとも、軍事力を駆使することには同調できない」と発言し、暗黙裡にロシアのやり方を批判しているのだ。これはかなり重みのあることだ。すなわち日米欧、そして韓国、台湾、シンガポールなどから半導体の供給を止められても、中国政府がロシアに同情し、量産する半導体をロシアに回していけば、とりあえずは何とかなるわけであるが、軍事的な侵攻を否定する中国が、ことウクライナ問題に限っては厳しくクールな対応に出ることが予想される。(しかしてその後、中国はロシアのウクライナ侵攻を糾弾する国連理事の決定には棄権しており、一応はロシア寄りの姿勢は見せている)

 半導体を国家プロジェクトとして認定する中国は、今後の国力の図り方を先端技術に強いかどうかで考えている。どれだけの軍隊を動かせる力があるか、ではないのだ。それだけ中国という国は、中長期的な展望に立って国際関係を考えている。そうした中にあって、プーチン氏はああした行動に出たのである。はてさて、いかがなものか、と考える向きは多い。半導体を持たないロシアが、どうやって世界と戦うというのであろうか。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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