電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第458回

クルマの電動化、キャッチアップ急ぐ日系勢


充電インフラ整備も普及のカギ

2022/6/24

 2020年10月、当時の菅首相が、「50年に脱炭素社会の実現を目指す」と宣言し、日本でもカーボンニュートラルへの取り組みがクローズアップされることとなった。

 これにより、自動車産業を取り巻く事業環境も大きく変化し、主要地域・国では電動化に向けた目標を新たに掲げた。欧州は35年にHEV(ハイブリッド車)を含めた、ガソリン車などの内燃機関車の新車販売を禁止。米国では30年に新車販売の半分をBEV(バッテリーEV)、FCV(燃料電池車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)にする方針。日本では35年に新車販売を電動車100%とする方針だが、ここでの電動車にはBEV、FCVに加えてHEVを含んだ目標となる。

 一方で、21年のEV・PHEVの世界販売台数(兵庫三菱自動車販売グループ調べ)は、新車販売台数全体(英国LMC Automotive調べ)が前年比5%増の8100万台と緩やかな伸びにとどまるなか、同107.8%増の649.5万台と倍増以上にまで拡大した。

テスラ「Model3」
テスラ「Model3」
 EV・PHEVの車種別ランキングでは、テスラの「Model3」が前年に引き続きトップを堅持し、販売台数は約50万台。2位には42.4万台を販売した中国・上汽通用五菱汽車の「宏光ミニEV」、3位には約41万台を販売したテスラの「ModelY」がランクインを果たしている。日系OEMでは、日産「リーフ」が販売台数6.4万台で13位としているのが最高で、上位勢からは大きく水をあけられているのが実情だ。

相次ぎ電動化戦略を加速

 これまで、HVを中心に電動化を進めてきた国内の主要OEMだが、世界情勢の急激な変化を受け、目標実現に向けてBEV・PHEVのラインアップ強化を図る動きが加速している。

 トヨタは、21年12月、30年までに30車種のBEVをラインアップし、350万台(30年時点)のBEVを販売する計画を明らかにした。同社が発表していた従来の電動車戦略では、30年においてBEVとFCVの合計で200万台を目標としていたが、今回の新たな戦略ではこれを大幅に上方修正したものとなる。「この350万台という販売台数は、ダイムラーやスズキが、ラインアップをすべてBEVにして新たに立ち上げる規模に匹敵する。そこは十分にご理解いただきたい」と豊田章男社長は語った。

トヨタでは30年までに30車種のBEVを投入
トヨタでは30年までに30車種のBEVを投入
 なお、この目標を実現するにあたり、同社は投資戦略を見直している。これまでBEVのバッテリーに関連する研究開発・設備投資として、22~30年(9年間)に1.5兆円の投資を計画していたが、これを5000億円上積みし、2兆円を充てるとともに、車両の製造に関連する設備投資も2兆円を計画。BEVで計4兆円を投資する。そのほか、HEV・PHEV・FCVにも4兆円を投資するとしており、電動車関連で今後9兆円もの投資を行っていくこととなる。

 ホンダは、四輪車の電動化戦略として先進国全体でのBEV・FCVの販売比率を40年にはグローバルで100%まで高めていく。日本では、30年の新車販売はHEVを含めて100%電動車。途中のステップとして、24年には軽自動車のEVを投入する。

 電動化のカギとなるバッテリーの調達戦略としては、液体LiBの外部パートナーシップ強化により、地域ごとでの安定調達を進めていく考えで、北米ではGMから「アルティウム」を調達するとともに、GM以外とも生産を行う合弁会社の設立を検討中。中国ではCATLとの連携をさらに強化し、日本では軽EV向けにエンビジョンAESCから調達する。

EVのハードとソフトの各プラットフォームを組み合わせた「Honda e:アーキテクチャー」(四輪電動ビジネスの取り組み説明会資料より)
EVのハードとソフトの各プラットフォームを組み合わせた「Honda e:アーキテクチャー」
(四輪電動ビジネスの取り組み説明会資料より)

 なお、現在開発中の全固体電池については、実証ラインの24年春をめどに立ち上げ、約430億円を投資する。なお、22年4月には、GMと「アルティウム」バッテリーを搭載した新たなグローバルアーキテクチャーをベースとする量産価格帯のEVを共同開発すると発表。27年以降、北米を皮切りに順次市場投入していく。

 日産は長期ビジョンにおいて、電動化を戦略の中核に据え、今後5年間で2兆円の投資を行い、電動化と技術革新をさらに加速し、30年度までに15車種のBEVを含む23車種の電動車を市場投入する。この目標の達成に向けて、26年度までにBEVとe-POWER搭載車を合わせて20車種を市場導入し、各主要市場における電動車の販売比率を欧州で75%以上、日本で55%以上、中国で40%以上、米国では30年度までに40%以上(BEVのみ)まで向上させていく。

 BEV車両の生産・調達では現地化を推進。英国で発表した日産独自のEV生産ハブ「EV36Zero」を日本、中国、米国を含む主要地域へ拡大していくことで、生産とサービスを統合したエコシステムにより、カーボンニュートラルの実現を図る。そのほか、全固体電池の開発・製品化では、パイロットライン(横浜工場内)を22年内に着工し、24年に稼働を開始。28年に量産を開始する計画だ。

 SUBARUは、電動化に向けたロードマップの加速に向けて、国内生産体制を再編。25年ごろをめどにBEVの自社生産に着手し、徐々に車種や台数を増やしていき、27年以降にはBEVの専用ラインの追加も含めて検討を進めている。

 具体的には、パワーユニット工場の再編として、次世代e-BOXERの生産ラインを北本工場に整備し、大泉工場でのBEV専用ラインの追加(27年以降を予定)へ備えていく。その後、25年ごろを予定しているBEVの自社生産は矢島工場の混流生産での立ち上げを軸に準備を進めていく。

国内生産体制の戦略的再編計画(SUBARUの決算説明会資料より)
国内生産体制の戦略的再編計画(SUBARUの決算説明会資料より)

 BEVの生産規模については、「小さく生んで大きく育てていく考え。BEVの生産については、従来の知見にはない新たな見方や合理化が日々進むような流れになっていくと思う。それらをまずはしっかりと日本側で吸収し、海外生産拠点へ展開していくことで、ある程度の事業性を出せると見通している。その他商品、技術、調達面における計画は、適時適切なタイミングで皆様にお伝えしていく」と中村社長は述べた。

EV普及拡大のカギとなる充電インフラ

 一方で、これらOEMの販売目標達成、電動車の普及拡大に不可欠なのが、充電インフラのさらなる拡充・整備となる。政府は30年をめどにEV向け急速充電器を3万基設置する目標を掲げているが、これまで補助金での設置・維持が行われてきた充電器では、補助金切れのタイミングで充電器を撤去する事業者もあり、設置台数が伸び悩んでいるのが実情だ。

 また現在、日本のBEV・PHEVの保有台数はわずか30万台程度。充電サービス事業者の試算によると、インフラ事業としてビジネスを成り立たせるための損益分岐点としては現在の5倍(150万台)のBEV・PHEVが必要としている。国内でそのレベルの普及台数に達するには、あと5~6年を要するとの予測もあり、事業者としてはその期間をいかに乗り切っていくのか、クリアすべきハードルは高い。

 富士経済によると、21年における公共用充電器の累計設置数は、コネクター数ベースで普通充電器が前年比6.6%増の2万9685個、急速充電器が同3.4%増の8105個の計3万7790個となっており、普通充電器が市場の約8割を占めている。

 新型コロナの感染拡大が始まった20年は、設備投資の抑制などにより市場成長は鈍化したが、21年からは新型PHEVの市場投入などによりカーディーラーなどで増設が進んだ。また、国内におけるCPO(Charge Point Operator:充電器の管理運営)ビジネスでは、これまでOEM主導の旧・日本充電サービスが担ってきたが、21年4月より、電力会社主導の㈱eMobiloty Powerが同ビジネスを継承するとともに、急速充電器を中心とした充電ネットワークの拡充に本腰を入れはじめたことから、国内の充電器市場はにわかに活況を呈しつつある。

 なお、充電器の耐用年数は7~10年であり、EVが本格的に発売された10年ごろに設置された充電器の更新需要が今後本格化するとみられる。なお、先述のとおり、国内では「2030年までに公共用急速充電器の設置台数3万基」という政府目標が21年に掲げられたものの、具体的なロードマップがまだ確定しておらず、達成に向けては導入コストへの助成など、対策の拡充が必要となる。

 富士経済の推計によると、急速充電器がコネクター数ベースで25年に9840個、30年に1万3850個、35年に2万4060個。普通充電器が25年に4万1635個、30年に6万10基、35年に7万6770個と見通している。今後、xEVの保有台数の増加に伴い、ユーザーの利便性向上や充電渋滞の解消に向けてコンビニやカーディーラー、ガソリンスタンド、商業施設などでどれほど設置が進むのかがカギとなる。加えて、設置の拡大に向けたもう1つの課題として、高いイニシャルコストが挙げられる。急速充電器の設置には、本体だけで100万~300万円、これに同額程度の設置工事費も必要になる。補助金を受けたとしても数百万円は必要で、このイニシャルコスト低減も設置台数拡大のポイントとなる。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 清水 聡

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