電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第463回

実用化迫る次世代の有機EL青色発光材料


24年量産化へ開発加速

2022/7/29

 次世代の有機EL青色発光材料の開発競争が熱を帯びてきた。主要材料メーカーが実用化の時期を2024~25年とコメントし始めており、このとおりに実現すれば、広色域化や発光効率の向上(低消費電力化)、寿命の延長といったパネルの性能アップにつながると期待される。

Kyuluxの青色HF材料(パネル右側)はより明るく発光する(2020年撮影)
Kyuluxの青色HF材料(パネル右側)は
より明るく発光する(2020年撮影)
 現在量産されている有機ELパネルは、赤色と緑色の発光材料に第2世代の燐光材料、青色に関しては第1世代の蛍光材料が採用されているが、果たして次世代材料を採用することができるのか。主要材料メーカーの動向をまとめた。

UDCは24年に青色燐光を市場投入

 燐光発光材料の世界最大手である米UDC(Universal Display Corporation)は、21年の通期決算カンファレンスで青色の燐光発光材料の開発状況に言及し、22年末までに暫定目標仕様を達成して、24年に市場投入する見通しであることを明らかにした。このとおりに進めば、RGBすべてを燐光材料のスタックで構成できるようになるため、より高いエネルギー効率と高い性能のパネルを実現できるようになる。「基本的には、現在量産に採用されている青色の蛍光材料を、青色の燐光材料に置き換えることになる」と述べているが、開発中の青色発光材料のスペックなどについては一切公表していない。

 UDCは、材料開発と並行し、100%子会社を通じて発光材料の新たな成膜技術「OVJP(Organic Vapor Jet Printing)」の開発・実用化も進めている。現在量産に採用されているファインメタルマスク(FMM)を使った真空蒸着技術と異なり、OVJPはガスを用いたインクジェットで低分子材料を成膜するダイレクトドライ印刷技術であり、Side by Side(RGB塗り分け)の有機ELパネル成膜技術として商用化する考えだ。

 開発中の青色燐光発光材料については、既存の真空蒸着技術向けなのか、OVJPでの実用化を念頭にしたものか、明らかにはしていない。

Kyuluxが青色HFを24年末に商品化へ

 第4世代の発光技術といわれるHyperfluorescence(HF=超蛍光)技術の実用化を目指している九州大学発ベンチャー、Kyuluxは青色HF発光材料を24年末までに量産化する予定だ。5月に開催されたディスプレーの国際学会SIDで最新の開発データを公開し、実用化レベルにかなり近づいていることを明らかにした。

 HFは、第3世代と呼ばれるTADF(熱活性化遅延蛍光)材料をドーパントとして組み合わせ、これにより内部量子効率100%を実現する発光技術。高価なレアメタルを使用せずに高効率、高発色、高純度すべてを可能にする革新的なメカニズムであり、Kyuluxは発光に不可欠な一部のホスト材料やドーパントも開発している。

 SIDで公表した成果によると、青色HF発光材料は、CIEyがトップエミッション構造で0.09、寿命はボトムエミッション構造で従来の280時間から450時間に延ばすことに成功した。半値幅は16nmで、足元では約480時間まで伸びているという。既存の青色蛍光発光材料が寿命750時間でパネルの量産に採用されていることを考えれば、性能要求にあと少しで手が届くところにまで来たといえる。

 現在は、BT.2020規格を満たすためにCIEyを0.046まで下げ、ピーク波長を470nmから5nm下げる開発に取り組んでいる。CIEyはピーク波長だけでなく半値幅にも効いてくるため、より純度の高い青色発光を実現できるようになり、電流効率も現状の225cd/Aから400cd/A以上に向上できることが理論的に分かっているという。22年内に750時間以上の寿命を達成することを目標に掲げている。

サムスンに買収されたサイノラ

 こうした一方、TADF材料の開発で注目を集めてきた独Cynora(サイノラ)が、先ごろSamsung Display(SDC)に買収されたことが明らかになった。取得額は約3億ドルといわれており、SDCは技術と知的財産のみを取得し、サイノラは清算されるもようだ。

 サイノラは03年に独アーヘン工科大学からのスピンアウトで設立され、なかでもTADF材料の開発をメーンに事業を展開してきた。17年には「同年末までに高効率青色発光材料を商業化する。18年までに緑色発光材料、19年までに赤色発光材料を実現し、青色発光材料の後に続ける」と表明し、サムスンベンチャーズとLGディスプレー(LGD)からシリーズBとして総額2500万ユーロを調達したが、結局は実現できなかった。

 20年には従来品に比べて15%以上の高い効率を実現した青色蛍光発光材料を商用化すると発表し、21年にはTADFベースのディープグリーン発光材料のデバイステストキットの提供を開始するなどしたが、結果として商用化や実用化には至らず、直近では開発資金難に直面しているとの話も出ていた。

出光+東レやポーランド新興企業も開発中

 このほかに、青色蛍光発光材料で世界トップの出光興産がTADF材料を東レと共同開発しているほか、ポーランドのNoctilucaがLGDと物質移動合意書(MTA)を結び、有機EL発光材料を共同開発することを明らかにし、テスト期間を経てパネルに採用される見通しだと述べている。Noctilucaは詳細を明らかにしてないが、TADFおよびHFの発光材料を開発中。すでに緑色TADF材料およびホスト材料を開発済みで、ドイツの顧客と協力関係を構築し、インクジェットで製造される有機ELパネルに採用される見通しであるほか、TADF青色発光材料のプロトタイプも準備中だと述べている。

 パネル業界では、スマートフォン向け(トップエミッション構造)にRGB塗り分け真空蒸着方式で収益を上げているSDCよりも、オープンマスクの縦積み発光層でテレビ用のWOLED(ボトムエミッション構造)を量産しているLGDのほうが、新規発光材料の量産採用に意欲的だと言われている。新たな青色発光材料をいち早く実用化し、パネルメーカーの採用を勝ち取るのはどの材料メーカーになるのか。その答えは2年以内に出るのかもしれない。

電子デバイス産業新聞 特別編集委員 津村明宏

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