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第491回

経済産業省 商務情報政策局 情報産業課長 金指壽氏


次世代半導体技術確立へ日米連携
日本版NSTCを年内に具体化

2022/9/9

経済産業省 商務情報政策局 情報産業課長 金指壽氏
 日本政府がかつてない支援策を講じて推進中の「半導体・デジタル産業戦略」が、いよいよ第2ステップに突入しようとしている。TSMC前工程工場の誘致成功などに続き、今後どのような政策を打ち出していく方向にあるのか。戦略をさらに強力に推進しつつある経済産業省 商務情報政策局 情報産業課長の金指壽氏に現在の取り組みや今後の展望を聞いた。


―― ここ1年で半導体が身近な話題としてニュースに取り上げられる機会が増えました。
TSMC熊本新工場の建設も急ピッチで進む(22年8月撮影)
TSMC熊本新工場の建設も急ピッチで進む
(22年8月撮影)
 金指 政府では、半導体は生活に関わる重要物資であり、次世代サービス基盤の構築に不可欠であることなどを国民に懸命に訴えてきたが、コロナ禍に伴うサプライチェーンの混乱や半導体不足も相まって、重要産業であることがコンセンサスとして浸透してきたと感じている。
 この間、2021年11月に基本戦略を策定し、ステップ1として「生産ポートフォリオの緊急強化」、ステップ2として「日米連携の強化」、ステップ3として「グローバル連携」に取り組むことを決め、30年に向けた全体像をお示しした。補正予算による措置や5G促進法の改正にも取り組んだことで、半導体の重要性をより広く理解いただけたのではないかと思っている。
 TSMCとソニー、デンソーの共同プロジェクトが象徴的に語られ、これにより日本のミッシングピースであった40nm以降の先端プロセスを日本国内で製造できるようになったが、これに限らず、先ごろキオクシアとウエスタンデジタルのメモリー共同事業にも助成金の拠出を決定した。加えて、マイコンやアナログ、パワーといった今後伸びが見込まれるレガシー領域に必要な生産能力を確保するための補助金も措置している。こうした動きは全体として今後も継続していきたい。

―― ステップ2の日米連携も進み始めました。
 金指 ステップ1として始めた国内の生産基盤強化を進めつつ、ステップ2では日米連携プロジェクトとして次世代半導体技術、いわゆる「Beyond 2nm」の基盤の確立を目指したい。
 このプロジェクトの皮切りとなったのが、5月の萩生田経済産業大臣(当時)とレモンド米国商務長官の直接会談だ。両国が半導体協力基本原則に合意し、日米および同志国・地域でサプライチェーンの強靱性を強化するという目的を共有した。
 さらに、バイデン大統領の訪日に伴う5月23日の日米首脳会談では、合意した基本原則に基づく「次世代半導体開発の共同タスクフォースの設置」が決まった。また、7月の経済版2+2の初会合に合わせるかたちで、日米間での共同研究の実施を見据え、次世代半導体研究における国内外の英知を結集するための新しい研究組織、日本版NSTC(National Semiconductor Technology Center=国立半導体技術センター)の立ち上げも発表した。秋口にも概要を具体化させていきたい。

―― 先ごろ米国でもようやくCHIPS法が制定され、誘致活動や投資が今後活発化しそうです。
 金指 どの国、地域であっても、一国、一地域で、半導体のサプライチェーンを完全に自前で整えていくのは不可能である。日米で合意した基本原則にも「双方に認め合い、補完し合うかたちで行う」と記載されており、そうした意識の下でWin-Winの関係を作っていくための日米連携の在り方を具体化していきたいと考えている。

―― 「2020年代後半には国内でも次世代半導体の量産体制を整える」と報じられていますが、その主体はどうなりますか。
 金指 本年6月に、いわゆる骨太の方針と新たな資本主義実行計画の中で、政府の方針として「2020年代後半に次世代半導体の設計・製造基盤を確立する」と閣議決定している。次世代半導体に係る日米連携を皮切りに、日本版NSTCを中心に据え、この政府方針の実現に向けた取り組みを具体化していきたい。そうしたなかで、将来の量産を見据えた体制も検討していくことが必要になってくる。
 その際、30年前後に日本の産業がどうなっていて、そこにどんな半導体チップが必要とされるのかを想定しながら取り組みを進めていくことが重要だ。自動車やロボット、バイオ、素材といった日本が強みを持つ分野でも、今後は高機能化やカスタマイズがさらに進む。エッジの性能がさらに上がり、スパコンや量子技術、AIを活用したシミュレーション技術が競争力の源泉になっていく。基盤技術である次世代半導体をもとに、量子コンピューターを含めてコンピューティングに必要なハードや、多様化・分散化していくハードを効率的に制御するソフトウエアを一体的に整備していくことが必要である。
 難しい課題で、継続性が求められる取り組みだが、「文化祭の実行委員(短期集中的に取り組んでいく人)にはならない」ことを肝に銘じていきたい。

―― 今後は国民に半導体の重要性をどのように訴求していきますか。
 金指 経済安全保障に加えて、グリーンとデジタルの親和性の高さを訴えていきたい。半導体は低炭素、脱炭素、省エネを実現するためのキーコンポーネントであり、これらの解決にはパワー半導体の進化に加え、微細化やチップレットに伴う省配線化による低消費電力化といった技術進化の貢献度が大きい。
 例えば、自動車の電動化や完全自動運転に向けた取り組みで、25年ごろから自動車の世界でも通信技術が盛んに活用されていくとみられるが、クルマのインテリジェント化が進めば進むほど電力が必要になる。一方で、蓄電池の容量には限界もあり、パワー半導体の進化や微細化技術、3D実装技術が欠かせなくなっていく。デジタル技術はグリーン化の実現にも最大限貢献していくものだ、ということを広く訴えかけていきたい。

―― 最後にステップ3に向けては。
 金指 「グローバルな連携強化による量子や光電融合技術など将来技術の実現」がテーマだ。長期的な視点で研究開発をしっかりと支援し、社会実装も見据えていくことで日本発の技術で世界に仕掛けていくことを目指したい。
 国民生活と産業におけるニーズをベースに、半導体を起点にしたデジタルインフラとソフトウエア・クラウド基盤を一体的に整備していくことを強く意識しつつ政策を進め、並行して、これを支える人材育成にも力を注いでいきたい。

(聞き手・特別編集委員 津村明宏)
本紙2022年9月8日号1面 掲載

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