商業施設新聞
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No.425

美山の「かやぶきの里」


今村 香里

2013/9/10

 昨年結婚した友人が、生まれたばかりの娘を連れて里帰りすると聞き、休日を利用して顔を見に行った。彼女の故郷は、美しい田園風景が残る京都の“美山”(現在は南丹市の一部)という町だ。毎年、友人グループで夏にはバーベキューをしに訪れていたが、彼女の結婚をきっかけに足が遠のいてしまっていた。

 当日は、早朝にJR大阪駅を出発し、京都駅で丹波線に乗り換えた。京都駅から美山にかろうじて近い園部駅までは、普通電車で約1時間かかる。電車を利用して行くことは初めてだったので、車内でうたたねをしながらも停車する駅ごとに、駅を間違っていないか確認した。園部駅に到着。園部駅からは近くに住む友人の車で向かう。美山へは園部駅から車でも約1時間かかる。大阪から出発した私にとっては少々長旅だ。

茅葺集落を散策中
茅葺集落を散策中
 美山の友人宅へ行くにはまだ時間があるため、ちょうどお昼に「かやぶきの里」へ寄った。美山町の東に位置する知井地区は、中央を横断する由良川水系美山川に豊かな自然と古き良き農村風景を残す地域として、国の重要伝統的建造物郡保存地区に指定されており、38棟の茅葺集落が現存している。ここは、美山を代表する観光スポットだ。秋になると防災訓練として、茅葺に一斉放水が行われるそうだ(そういえばJR大阪駅に電子広告が掲載してあった)。

 この日は、雨上がりで屋根に靄がかかっており、一段と幻想的な風景が広がっていた。京都市内から車で1~2時間離れただけで、こんなにも涼しいとは……。まだまだ夏真っ盛りにもかかわらず、車を止めた駐車場には、トンボが大群で飛んでいて度肝を抜かれた。

靄がかかる「かやぶきの里」
靄がかかる「かやぶきの里」
 茅葺屋根は、近くで見るほど昔の人の知恵が詰まっていると感じた。茅が何重にもなって屋根となり、雨風をしのげるように作られている。聞くと、数十年に1回はすべての茅を葺き替えるそうだ。こうした伝統を今の時代に現存するには相当な労力が必要だろう。茅葺屋根の上の三角部分に家紋が描かれているのを、面白いと感じた。人々はこうして家系や伝統を意識しながら、この屋根を守ってきたのだろう。

 昼食には、茅葺屋根の集落のふもとにある「お食事処きむら」へ行き、手打ちそばを堪能した。美山産のそば粉で打ったそばは、繊細な味がして、とにかくめちゃくちゃ美味しかった。

 茅葺集落には、特産品売り場や交流館、カフェや民宿などもあり、茅葺を中心に、わずかながら商業地が形成されている。今や商業集積地といえば主流はショッピングモールだが、古い時代の集落では、個々に八百屋や米屋、タバコ屋などがあった。

 また、日本の建物の構造もこうした茅葺屋根から瓦屋根、そしてコンクリートなど時代とともに移りかわっている。コンクリートの空間を観察する日々の中で、たまには、こうした茅葺屋根などを眺めるひとときも必要だと感じた貴重な時間であった。

 「かやぶきの里」を散策し、友人宅へ向かうと生後2ヶ月の女の子が出迎えてくれた。この子が大人になっても、美山の美しい里山が残っていることを願いたい。
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