電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第483回

好不調が混在する電子部品


スマホ不振とEV化加速で悲喜こもごも

2022/12/16

 3月期決算企業の2022年度上期の決算が出揃った。電子部品業界では好調と不調が二分され、通期業績予想の上方修正、下方修正が混在する異例の展開になっている。不調の主要因は中国スマートフォン市場の不振で、長引くゼロコロナ政策や市況の減退により不調を脱する見通しは立っていない。一方で自動車市場における電動化の加速は関連する部品の比率が高い企業の業績を牽引しており、2桁成長実現の原動力になっている。

大手5社は3社が上方、2社が下方修正

 表は日本の電子部品メーカー大手6社の上期までの売上高および通期計画をまとめたものだ。TDK、アルプスアルパイン、京セラの3社が通期計画を上方修正している一方で、村田製作所と太陽誘電は下方修正を余儀なくされた。急激な円安シフトが各社業績にプラス効果をもたらしたことを加味すると、それでも不調に陥っている2社の苦境は明らかだ。



 2社の不調の最大の要因は、中国スマホ市場の低迷。もともと21年から不調が続いていて、22年春過ぎの回復が見込まれていた。ところが春の上海ロックダウンにより完全にその期待は外れ、22年度いっぱいの回復は期待できない状態となっている。これがスマホ用部品の比率が高い村田製作所や太陽誘電の業績を圧迫した。また、中国を除く世界経済が「ポスト・コロナ」を志向し始めたことで、21年度までリモート需要としてIT市場を支えてきたPCやタブレットの需要もトーンダウンしており、中国スマホほどではないにせよマイナスインパクトが出ている。

 一方で上方修正した3社は、自動車市場と産業機器市場拡大の恩恵を受けている。自動車市場は大手メーカーが生産台数の削減に悩んでいるものの総じて回復トレンドで推移し、産業機器市場は半導体や電池、電動車関連の設備投資拡大の恩恵を受けている。自動車市場は半導体不足などの問題が解消されたわけではないが20年を底に回復基調が続いており、その頃に大底だったアルプスアルパインの業績はV字回復で推移している。なお、日本電産は自動車の電動化を成長エンジンとしているが、原材料価格の高騰が要因で落ち込んだ収益性の立て直しに注力していることに加え、電動車の中核部品であるeAxle事業への投資に注力していることもあり、通期業績予想は据え置いている。

スマホ市況はiPhone向け一強

 なお、上方修正した3社もスマホ用部品は手がけており、中国スマホ減退の影響も受けている。そんななかでも好調を持続できたのは供給先の違いにある。例えば、水晶デバイス専業メーカーの大手である日本電波工業と大真空は、前者が前年度比で2桁の増収増益を見込むのに対して、後者は減収減益に落ち込む見通しである。これはスマホ向けのうち中国スマホとハイエンドスマホ、つまりiPhone向けの比率の違いによるものと考えられる。

スマホ部品はiPhoneが下支え(写真はiPhone14 Plus)
スマホ部品はiPhoneが下支え
(写真はiPhone14 Plus)
 中国スマホの回復期が見通せないことに加え、韓国サムスンのスマホ、Galaxy向けも需要期である23年1~3月期の伸びは期待できないと予想されている。そんななかで唯一好調なのはアップルのiPnone向けで、秋に発売したiPnone14シリーズ向けは中国スマホの不調に苦しむ村田製作所や太陽誘電にとっても好調分野として特筆される存在となった。TDKの2次電池やアルプスアルパインのコンポーネント部品もiPhone向けが好調だったことが示唆されている。コネクター大手の日本航空電子工業は、携帯機器向けコネクターで中国スマホ向けが落ち込んだ一方、iPhone14向けの需要期である7~9月に業績が伸長したという。

世界的なEV化トレンドは車載部品を牽引

 一方で、世界的なEVシフトの加速は車載部品の需要を押し上げている。電動化トレンドは以前から続く流れで、自動運転技術の向上もあって関連部品は伸長を続けていた。しかし、21年以降に世界の大手自動車メーカーが具体的な目標を打ち出して化石燃料車からEVへのシフトを次々と打ち出したことにより、車載電動部品が一気に拡大トレンドに入った感がある。

 TDKは数年前からコンデンサー事業で民生から車載へのシフトを打ち出しており、スマホ向け低調の影響をほとんど受けなかった。また、もともと車載事業の比率が高いアルプスアルパインは米中対立やコロナ禍の影響を大きく受けた18~20年度まで業績不振が続いたが、EV化や自動運転にフォーカスした新製品の投入で21年度以降は急回復を遂げている。アルミ電解コンデンサーを主力とするニチコンや日本ケミコンも、電動化にフォーカスした導電性高分子コンデンサーなどの新製品が全社の業績を牽引する。また、電動化に伴って需要が増大するフィルムコンデンサーへの投資も拡大している。

TDKの車載用磁気センサー
TDKの車載用磁気センサー
 加えて、自動車の安全に関わる部品の需要も伸長している。日本では幼稚園の送迎バスでの子供の置き去りによる死亡事故が社会問題となったが、世界的にも子供の置き去り防止や運転手の健康状態をチェックするためのセンシング機能の搭載はトレンドだ。本格的に部品メーカーの業績を支えるには時間を要しそうだが、村田製作所やTDKはセンサーの投入を活発化させている。

iPnone下ぶれリスクが懸念材料

 先述のとおり、すでにスマホ向け部品は低調に推移しているが、下期にかけて懸念されるのは業績を支えていたiPnoneの下ぶれだ。上期の決算発表時点では村田製作所をはじめスマホ部品メーカー各社はiPnone向けが底堅く推移するとし、大幅な崩れは想定していなかった。しかし中国の鄭州にある鴻海精密工業のiPnone生産拠点で新型コロナの感染抑止を巡って混乱が続いており、生産台数の下方修正が懸念されている。同工場はiPnone14シリーズの8割強の生産を担っていたとされ、他拠点での代替生産を図ったとしても影響は避けられない。

 一方で自動車は生産制約の継続により、期初想定より生産台数は下回る見通しであるものの、前年度比ではプラスが見込まれる。また、電動車の生産は大幅伸長が見込まれているため、関連部品の需要は好調が続きそうだ。生産の制約もワールドワイドで見れば新型コロナによる行動の制約は大きく緩和され、部材調達環境も改善が続いている。最終需要は根強いと自動車メーカーや部品メーカーはアナウンスしているため、ここから大きく崩れる可能性は少ないと考えられる。

23年は世界的な景況悪化に懸念、中長期の成長は変わらず

 現時点で23年の市況は見通しが困難だが、世界的な景気後退への警戒が強まりつつあるのは懸念材料だ。スマホの低調が23年春以降も続くようであれば、村田製作所や太陽誘電らの不振が年度をまたぐことになる。

 また、自動車の需要が継続するか否かも注目される。コロナ禍以降の自動車市場はユーザーからの引き合いは強いものの、サプライチェーンの混乱で生産することができず、需要に十分に対応できない状態が続いている。最終需要が健全であれば部材調達や生産の制約さえ緩和されれば販売は伸長する。しかし、景気悪化でその需要が消失すれば23年度はスマホ・自動車両方の市場が不振に陥ることになり、業界全体が落ち込むリスクがある。ただし、電動化や安全性向上に向けたトレンドは景況感に左右されにくく、これらに関する部品の需要は堅調が続くだろう。

 また、目前の市況悪化懸念が強まるなかにあっても、各社ともに中長期的な成長に向けた取り組みを緩める気配がないことは述べておきたい。日本電産は収益の悪化を受けたトップ交代で話題になったものの、将来の主力に位置づけるeAxleの生産拡大に向けた投資は継続しており、中国、欧州に続いて北米でも拠点整備を計画していると報じられている。

 また、村田製作所やTDK、太陽誘電はセラミックコンデンサーやフィルムコンデンサー、アルミ電解コンデンサーの増強に余念がない。村田製作所は11月末に中期方針の取り組みに関する説明会を実施し、中島規巨社長は目先の景気減速に右往左往することなく、中長期的な視野で成長戦略を実施していく方針を強調した。このほか、コネクターやインダクター、水晶デバイスなども増産計画が浮上している部品であり、中長期的にみれば各社ともに需要の伸長を見込んで供給体制の強化を図っているものと判断できる。

電子デバイス産業新聞 副編集長 中村 剛

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