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第530回

トレックス・セミコンダクター(株) 代表取締役社長 芝宮孝司氏


23年度はパワー半導体元年
高耐圧SiC SBD上市へ

2023/6/23

トレックス・セミコンダクター(株) 代表取締役社長 芝宮孝司氏
 アナログ半導体メーカーとして躍進中のトレックス・セミコンダクター(株)(東京都中央区)は、2022年度(23年3月期)に売上高319.5億円、営業利益39.7億円と上場来、過去最高を記録した。国内ファブレス半導体ベンチャーの代表格だった同社は、19年2月からフェニテックセミコンダクターを完全子会社化し、得意のアナログ半導体に加え、パワー半導体でもシナジー効果が光る。代表取締役社長の芝宮孝司氏に、現況、新たな取り組み、今後の展望などについて幅広く聞いた。

―― 業績および市況感は。
 芝宮 22年度の上期は円安効果もあり好調だったが、22年11月あたりから民生品市場での在庫調整が顕著となり、23年度上期も減速感を引きずっている。そのため、23年度の売上高は前年度比9.3%減の290億円、営業利益は同62.3%減の15億円と慎重に見通している。ただし、逆境を逆手に取り、22年度上期までは目先の安定供給が最優先となり後回しとなっていた中長期に向けた各種施策を23年度は着実に進める好機と捉えている。なお、電源ICや子会社のフェニテックが得意とするパワー半導体需要は引き続き堅調である。

―― 各種施策について。
 芝宮 フェニテックセミコンダクター岡山第2工場は老朽化が進んだ建屋を使用し、5インチラインでディスクリートや小信号系の製品を生産していたため、岡山第1工場へ生産移管を進めていたが、コロナ禍の巣ごもり需要などからフル稼働が続き、キャパを温存する状況となっていた。今回、足元の需要減速を受けて当初予定どおりディスクリートの生産を移管し、酸化ガリウムなど化合物用半導体向け生産ラインは試作用などに一部残すかたちとした。

―― 一方で、大型投資にも打って出ています。
 芝宮 ご指摘のとおり、従来は多くても年間20億円程度の投資にとどめていたが、21~23年度の3年間で126億円を投じ、売り上げ1.5倍以上の生産キャパを確保した。さらなる増強投資も計画している。巣ごもり需要やサプライチェーンリスクなどから半導体不足に見舞われた折、生産委託先での当社製品用の生産ライン確保に苦戦する事態となった。当社も生産委託先と投資負担を対等にシェアし、生産キャパを確実に確保する方針に転じた。

―― 今後の増産投資とは。
 芝宮 海外ファンドリー1社に約18億円を投資して8インチ生産ラインを確保する。10年間にわたる長期生産委託契約を締結し、中高耐圧を含む高機能・高性能な新製品展開向けに優先生産が確約される体制を構築した。24年度に量産稼働が計画されており、27年度には当社向け生産量が22年度比6倍に引き上がる予定である。

―― 鹿児島工場でも同様のスキームを展開されます。
 芝宮 フェニテックの鹿児島工場を今後、当社の基幹工場にすることを見据え、トレックスもフェニテックと対等に半々を投じていく方針であり、44億円を投じる。既存ラインへ投資し、トレックス向け生産ラインを拡大するほか、5号館3階の遊休スペース1500m²をCMOS IC生産用とSiC関連製品生産用に活用すべく、クリーンルーム化が進んでいる。このうち一部の生産ラインをトレックス向け優先生産分として確保し、25年度には同工場でのトレックス向け製品の生産量を3倍にする体制を整える。また、フェニテック自身でも岡山・鹿児島工場でその他の増産設備投資約20億円を実行していく。

―― 新展開があると聞いています。
 芝宮 トレックスでは主力の電源ICに加え、パワー半導体製品を強化していく。その一環として、SiCのショットキーバリアダイオード(SBD)850V/10A品のサンプル提供を5月に開始し、23年内に量産化を予定する。順次、650~1200V品も拡充していく。また、23年度内にSiC MOSFET上市も検討中である。まずは産業機器向けに提供していく予定だ。また、シリコン(Si)MOSFETでは低耐圧品、60~100Vの中耐圧・大電流製品を取り揃えていく。23年度はパワー半導体元年と位置づけて積極展開していく。

―― SiCでの強みを。
 芝宮 フェニテックの鹿児島工場を活用中のサイコックスが手がける独自のSiC基板を使用できることは大きい。土台に多結晶ウエハーを用い、その上に単結晶ウエハーを貼り合わせ、熱剥離することにより多結晶基板上に薄い単結晶層を形成する方法でウエハーを製造する。Si用製造装置をSiCで共用できる利点もある。トレックス独自のパッケージ技術を活かした差別化も図れるとみている。

―― 今後の展望をお聞かせ下さい。
 芝宮 トレックスグループでは、蓄えた資産を将来の投資に回し、拡大中期業績目標である25年度連結売上高370億円、28年度同450億円、営業利益も25年度55億円、28年度80億円達成を目指していく。主力のアナログ製品でも、コイル一体型XCLシリーズでノイズ除去に秀でたポケットタイプ、放熱性能に優れたクールポストタイプなど新製品投入も積極的に進めている。23年度も新製品上市を積極化し、攻めの姿勢で挑んでいく。

(聞き手・高澤里美記者)
本紙2023年6月22日号3面 掲載

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