商業施設新聞
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No.924

復活、そして変化するニッポンの観光産業


岡田光

2023/9/26

 2022年10月の新型コロナの水際対策緩和と、23年5月の新型コロナの5類感染症の移行により、国内旅行客はもちろんのこと、海外旅行客も徐々に増え始め、直近では中国からの団体客も受け入れをスタートした。これに伴い、旅行客の足となる鉄道やバスなどのインフラ業界、旅行を斡旋するエージェント業界、旅行客を受け入れるホテル業界の業績は回復基調にある。特に、コロナ禍で存続の危機に立たされたホテル業界は、日増しに増える観光客の需要拡大を見越して、客室単価の引き上げを進めている。稼働率も3~4月は平均40~50%程度であったが、6月以降は80%以上の高水準が続いている。

「グランドプリンスホテル大阪ベイ」の客室風景
「グランドプリンスホテル大阪ベイ」の客室風景
 ホテル業界はコロナ禍を経て大きく様変わりした。その1つの潮流が、土地・建物を持たないアセットライトな運営特化のホテルオペレーターが増えたことだ。代表的なのが星野リゾートや西武・プリンスホテルズワールドワイドだ。星野リゾートは以前から運営に特化した会社として知られ、最近ではOMO業態を中心に地方への出店を積極的に進めており、先ごろ、重要文化財の旧奈良監獄にラグジュアリーホテル「星のや奈良監獄」を26年春に開業することを発表。客室48室を備え、レストランやミュージアムを設ける同ホテルも、法務省が土地・建物を所有し、運営権をSPCの旧奈良監獄保存活用が取得、同社が星野リゾートに運営を委託するアセットライトなホテル運営を実現している。西武・プリンスホテルズワールドワイドも、星野リゾート・リート投資法人から運営を受託し、7月にフルサービス型ホテル「グランドプリンスホテル大阪ベイ」を開業。8月は国内旅行客を中心に予約件数が増えるなど、滑り出しは上々だ。

 もう1つの潮流として生まれたのがレジャー客の取り込みを目指すホテルだ。これまではビジネスホテルとしてチェーン展開してきたチョイスホテルズジャパンが、コンフォートホテルの派生ブランドとして新ブランド「コンフォートホテルERA」を創設、9月に既存の2ホテルを「コンフォートホテルERA京都東寺」、「コンフォートホテルERA神戸三宮」としてリブランドオープンした。23年に入って新型コロナのインパクトは落ち着いたものの、コロナ禍で定着したリモートワークや、ズームおよびマイクロソフトチームスといったWebシステムの浸透は、企業の出張需要を減らすとともに、コスト削減へとつながった。この動きはこの先も続くと思われ、ビジネス需要に期待していたホテルチェーンは、先細りの不安を抱えることになった。その不安を払拭するため、レジャー客を取り込むホテルが増えつつある。部屋と部屋をつなぐコネクティングルームはもちろんのこと、1部屋あたりの面積を増やし、子どもの添い寝も実現。今後、レジャーを前面に打ち出すホテルは増えていくことが予想される。

 変化を商機と捉え、再び成長の道を歩み始めたホテル業界であるが、その先頭を突き進む星野リゾート代表の星野佳路氏は、「今後、ホテル業界にはステークホルダーツーリズムが大切になる」と説く。ステークホルダーツーリズムは観光産業だけでなく、旅行者、地域コミュニティを含め、それぞれがフェアなリターンを得られるような観光のあり方を構築するものだ。好景気に目を奪われがちなホテル業界だが、観光産業だけが潤ってもその地域の成長にはつながらないケースもある。星野氏が提唱するこのステークホルダーツーリズムがどこまでホテル業界に浸透するのか。ホテル業界が井の中の蛙とならないように、私もその行く末を見守りたい。
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