電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第46回

「半導体産業の発展!」の旗を振る中国政府


2兆円の政府系巨額ファンドが流れ込む

2014/5/23

 昔話から始めて恐縮だが、中国の半導体産業が世界的に注目を集めたのは、これまで3回あったと思う。1度目は、1999年にHH-NEC(華虹NEC)の200mmDRAM工場が稼働した時。2度目は半導体産業の育成を明記した中央政府の18号文書をきっかけに、SMICやGSMCなどのファンドリーの投資計画が続出した2000年代の初頭。そして、3度目は2000年代後半から最近にかけて、ハイニックスやサムスンが巨大メモリー工場を中国で稼働させた時期だ。

SMICの上海ファブ、北京や天津、深センにも工場展開中
SMICの上海ファブ、北京や天津、
深センにも工場展開中
 1度目の華虹NECの時は、日本からの技術導入が中国の半導体業界が成長を始めるスタートラインとなった。2度目のSMICやGSMCの時は、米国帰りの台湾人らがチャイナドリームを夢見てファンドリービジネスを拡大した。3度目のハイニックスとサムスンの時は、韓国企業が本気モードでやって来て、自国と同水準の先端技術を中国にコピーして持ち込んだ。こうして見ると、過去には日台韓が何らかのかたちで中国の半導体産業の発展に強い影響を与えていたということが、改めてよく分かる。

技術力の差、いまだ埋まらず

 中国が「世界の工場」と呼ばれるようになって十数年がたった。中国は十数億台の携帯電話を生産し、テレビは4億台近く、パソコンは1億数千万台を生産している。スマートフォン(スマホ)は昨年(2013年)に10億台のビッグビジネスに成長したが、中国が8億台を生産し、世界中へ供給している。これらのデジタル機器に使われる半導体はいったん中国に集まり、スマホなどの完成品となって、また世界中にバラ撒かれているのだ。つまり、中国は世界最大の半導体の消費国なのである。しかし、半導体の国産化という点では中国は出遅れている。

スマホが半導体市場を牽引している
スマホが半導体市場を牽引している
 中国の半導体製造の立ち位置はどのあたりなのかというと、微細化などの技術的な視点に立ってみると、世界のフロントランナーのインテルやサムスン、TSMCと比べて周回遅れの状況にある。2000年以降に中国で半導体工場の投資が増え、政府の支援でこの業界もかなり成長した。しかし、世界のトップ企業の大胆な設備投資としのぎを削る技術開発力には適わず、この10年で両者の間の差は目に見えて縮まることはなかった。

 今もっとも半導体業界を牽引しているICといえば、スマホに使われるアプリケーションプロセッサー(AP)だろう。これはTSMCやサムスンが28nmでの攻防から20nmに移行するステージにある。しかし、中国メーカーで最先端プロセスを有するSMICは、まだ28nmの量産ラインを持てていない。SMICは2014年中期にパイロットラインを導入し、上海と北京で競争しながら、2014年末までにサンプル出荷・小規模生産をしようといった状況だ。それに対して、TSMCはすでにアップルのiPhone6向けに開発している「A8」(AP20nmプロセスを採用)を、ファブ14(台中)とファブ12(新竹)でパイロット生産し始めているという。

巨額補助金拠出の背景

 中国のIC輸入額は2013年に2322億ドルに達し、初めて2000億ドルの大台を突破した。2011~12年は、欧米経済の停滞やパソコン市場の成熟などでセット機器の輸出が伸び悩み、中国のIC消費量も大きくは伸びなかった。しかし、2013年はスマホやタブレット端末などの市場が世界的に拡大し、その供給基地である中国でICの需要が一気に増加した。

上海は東京よりも高層ビルが立ち並ぶ
上海は東京よりも高層ビルが立ち並ぶ
 中国のIC消費の増加に伴い、「もっと中国のIC国産化に取り組む必要がある」という政府高官の発言がよくメディアで取り上げられるようになった。中国は電力消費量も上昇中で、石油の輸入量が増え続けている。2013年の石油の輸入額は2196億ドルで過去最高となった。しかし、ICの輸入額が初めて石油の輸入額を追い抜いてしまったため、中国政府は本気でハイエンド半導体の国産化に力を入れるスタンスに転じた。

 中国政府は2014年、1200億元(約2兆円)の半導体補助金を計画しているという。数カ月前には1000億元(約1.7兆円)とみられていたが、最近は1200億元に増額したようだ。半導体業界を育成するために、中国政府と一部の地方政府が合計2兆円規模の政府系巨額ファンドを設立して、半導体企業に資金提供しようというスキーム作りが進められている。

中国の半導体業界を代表するセミコン・チャイナ展示会
中国の半導体業界を代表する
セミコン・チャイナ展示会
 このファンドに資金提供する側の候補として語られているのは、政府資金のほかにたばこや通信キャリアなどの国有資本の企業集団だ。日本でいえば、JTやNTTドコモが半導体メーカーに資金を融通しようという図式になる。日本では考えられないことだが、中国では政府≒国有企業という間柄なので、こうした思い切った措置がとられることがある。そして、このファンドの資金は半導体の設計、チップ製造、組立・検査などの業界に提供される。これにより今後、中国の半導体工場の設備投資や技術開発が加速する可能性が高い。実際に一部の半導体関連企業の株価が上昇し始めているし、補助金支援を見越した買収劇も始まっている。

300mmに手厚い支援

半導体産業新聞では、中国半導体工場MAPをセミコンチャイナ2014で配布
半導体産業新聞では、中国半導体工場MAPを
セミコンチャイナ2014で配布
 中国政府は2兆円もの巨額の資金をもとに、半導体産業発展の旗を振り、ハイテク技術産業へのシフトを加速していく。半導体産業ファンドは、北京、上海、深セン、武漢、瀋陽などで設立されるようだ。瀋陽は半導体の製造装置産業が育ち始めているので、ここに成長促進剤を打ち込んで装置の国産化を進めようという狙いがある。その他の都市(北京、上海、深セン、武漢)には、実は共通点がある。それは、SMICの工場がある場所だという点だ。あと、上海にはHLMC(ホワリー、華力微電子)がいる。今後、中国政府は300mm工場には手厚い支援を続けていくことになるだろう。

 2020年に向けた中国の半導体産業の育成ロードマップは2016年(第13次五カ年計画の開始年)に発表される。それまでの3年間は、中国の半導体産業が大きな変貌を始める孵化の時代なのかもしれない。

半導体産業新聞 上海支局長 黒政典善

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