電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第60回

発売目前の新型iPhone、「5S」との変更点は?


APやカメラなどデバイスレベルから進化を探る

2014/8/29

9月に4.7インチ、11月に5.5インチモデルが発売される見通し
9月に4.7インチ、11月に5.5インチモデルが
発売される見通し
 米アップルの新型iPhone「iPhone6」の発売が目前に迫っている。新機能に関する様々な観測が飛び交っており、どうやら今回はモバイル決済システムが搭載されそうだ。半導体産業新聞の本紙8月27日号1面でも新型iPhoneに関する記事を掲載しているが、紙面では新機能や具体的な生産台数を記載しており、搭載部品など現行の「5S」との変更点に関し、スペースの関係上、触れることができなかった。本稿では、「番外編」としてデバイスレベルの変更点を紹介していきたい。

韓国産から台湾産へ

 まずは端末の頭脳部となるアプリケーションプロセッサー(AP)は、今回の「6」から「韓国産」から「台湾産」に切り替わる。周知のとおり、アップルはAPを自社設計し、ファンドリーに生産を委託しており、その規模はiPadなども含めれば、ピーク時には月産5万枚規模にも上る。最先端プロセスを用いたデバイスが月産5万枚規模で動くため、ファンドリー業界、ひいては半導体業界にとって、このAP受託生産がどこで行われるかは非常に大きな関心事となっていた。

 これまでは韓国サムスン電子がこのAPを生産していたが、「6」からは台湾TSMCが独占受注に成功、最先端の20nm世代での生産をすでに開始している。TSMCはこのアップルからの受注のため、13年に97億ドル、14年に100億ドルの設備投資を実施しており、台南にあるFab14に20nm世代用の生産ラインを導入してきた。

 なお、15年以降のAP生産に関しては、今のところ不透明のところも多いが、TSMCの独占体制は崩れる公算が大きい。サムスンは失ったアップルビジネスを取り返すべく、次世代の14nm世代の開発に数年前から力を入れているほか、ファンドリー大手の米グローバルファウンドリーズ(GF)と提携し、別の会社でありながら、同一プロセスを流すことのできる「仮想的マルチファブ」の体制を構築した。
 こうした取り組みもあり、ボリュームは定かではないが、サムスン・GF連合に15年以降のAP生産の一部を発注する見通しだ。

DRAM/NANDは明暗分かれる

 メモリーに関しては、供給メーカーにとってDRAMとNANDフラッシュで明暗が分かれることになりそうだ。DRAMは「5」で1GBを搭載しており、「6」では2GBの搭載も期待されていたが、結局のところは1GBでとどまる見通しだ。他社スマートフォンの多くが2GB以上にシフトするなか、アップルは一貫して1GBにとどまっている。これはiOSなどの自社OSと、自社APという最適な組み合わせが大きく関係していると見られており、様々なモバイルSoCに対応することが必要なAndroid勢と決定的に異なる。DRAMメーカーにとっては大容量化してほしいに違いないが、アップルにしてみれば、必要な分さえあればいいというのが本音であるはずだ。なお、今回の「6」に関しては、25nm世代を用いたLPDDR3(4Gb)品が2枚搭載される見通しだ。

 一方、NANDフラッシュに関しては、今回から16GBモデルがなくなり、32/64GBの2種類になる見通しだ。これにより、平均搭載容量の上昇が期待でき、NANDフラッシュメーカーにとっては、出荷ビット増加のプラス材料となる。

 しかし、一部情報によれば、NANDメーカーに対し、これまでのコントローラーICを組み合わせたパッケージ品の供給から、ウエハー供給を求めているもようだ。アップルは12年にイスラエルのコントローラーICメーカーであるAnobit社を買収、自社製コントローラーの開発に力を入れていた。NANDビジネスにとって、コントローラーICは付加価値の源泉といわれる部分であり、ウエハー供給を強いられることになれば、収益低下が大きく懸念される。

カメラは高画素化を追わず

 消費者目線で見た場合、カメラの性能もスマートフォン購入における大きなファクターだ。ハイエンドスマートフォンでは現在、1300万画素以上を搭載するケースが増えており、韓国サムスンのフラッグシップモデル「Galaxy S5」では1600万画素を搭載している。しかし、アップルはむやみやたらに高画素化を追求していない。今回の「6」に関しても、4.7インチモデルは従来と同じ800万画素、5.5インチモデルは1050万画素を搭載すると見られている。

 他社に比べ画素数が低く、性能が劣ると見られているが、そうではない。実際にiPhoneを使うと良く分かるのだが、画素数が高い他社製に比べても、撮影したものを比較するとまったく遜色なく、むしろ綺麗に見えることが間々ある。同じ光学サイズのなかにより多くの画素数を詰め込もうとすると、画素セルサイズを小さくする必要があり、たとえ高感度化に優れたBSI(裏面照射型)センサーでも受光量の低下を招いてしまう。

 アップルはこうしたなかで、画素セルサイズを大きくするという、時代の流れとは逆行する取り組みを見せており、「5S」の800万画素のCMOSセンサーの画素セルサイズは1.5μm世代と「5」の1.4μmよりも大きくさせている。これにより、多少ダイサイズは大きくなってしまうが、より多くの光を取り込むことができ、綺麗な絵づくりを行うことができると見られている。

 「6」でもこうした考えを継続させており、他社製のように1300万/1600万画素にシフトさせていない。アップルのカメラに対するこだわりが垣間見える部分の1つといえる。

半導体産業新聞 編集部 記者 稲葉雅巳

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