電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第524回

医療DX推進で健康増進と業務効率化達成へ


電子処方箋・電子カルテなどの普及促進が課題

2023/10/20

 日本では、国民の健康寿命の延伸を図りながら、社会保障制度を将来にわたって持続可能なものとする「医療DX」を推進するため、2022年10月、政府に首相を本部長とし関係閣僚により構成される「医療DX推進本部」が設置された。23年6月2日、第2回医療DX推進本部が開催され、「医療DXの推進に関する工程表」が取りまとめられた。

(出典:内閣官房)
(出典:内閣官房)
 医療DXに関する施策を推進することにより、(1)国民のさらなる健康増進、(2)切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供、(3)医療機関等の業務効率化、(4)人材の有効活用、(5)医療情報の二次利用の環境整備につながると期待されている。

 医療DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)とは、保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書などの作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えることと定義されている。

オンライン資格確認は順調に拡大

 プロジェクトの「マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速」において、医療機関および薬局に求められている保健医療機関などのオンライン資格確認の原則義務化については、オンライン資格確認に必要とされる顔認証付きカードリーダーの導入が大幅に伸び、23年9月24日現在、申し込み施設数21万1832(92.3%)、準備完了施設数20万8154(90.7%)、運用開始施設数19万8182(86.3%)に達している。

 医療情報化支援基金(オンライン資格確認の導入)1269億9000万円の執行(支出)状況は、19年度2400万円、20年度44億3100万円、21年度223億9400万円、22年度359億6500万円、23年度56億2000万円の計684億3400万円で、基金残高585億5600万円を24年度までに順次執行する。

スマホのマイナ保険証機能実装へ

 マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」については、受診した際の窓口負担の誤表示、利用率の低迷、別人情報のひも付け、機械の不具合で読み取りできない、情報漏洩の不安などから2024年秋の健康保険証の廃止に反対や疑問視する声があるが、国ではメリットが大きいとして、引き続き廃止に向け推進する。

 23年8月8日の「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」では、23年1月に運用開始した電子処方箋について、オンライン資格確認を導入したおおむね全ての医療機関・薬局に対して25年3月までに導入することを目指し、支援を充実すること、マイナンバーカード機能のスマホ搭載の普及を広めるとともに、スマホにおけるマイナ保険証機能の実装を目指すことなどが示された。
 スマホ搭載は、すでに23年5月にAndroid端末への搭載を開始しており、iOS端末についても実現に向けた検討を進める。

遅い電子処方箋の普及率

 2023年4月28日の第2回電子処方箋推進協議会において、電子処方箋の導入状況・普及拡大に向けた対応が報告された。23年4月23日時点で、電子処方箋は全国で3352施設(病院9、医科診療所250、歯科診療11、薬局3082)で運用が開始され、事前の利用申請をした施設数は5万412施設(病院1194、医科診療所1万9216、歯科診療所1万1084、薬局1万8918)となっており、病院に限っても7000施設以上あることから、普及は遅れている。

 公的病院からは費用負担が大きく予算確保ができていない、電子処方箋の機能拡充は良いが、大きく変わる場合はその度に費用や導入の続き、現場の運用停止や医師への説明が必要、大病院では医師・薬剤師の人数も多く、HPKIカードの申請作業や取得状況把握が煩雑、ベンダの対応が間に合っていないなどの意見が寄せられている。厚生労働省では導入を促すため、当初、23年度の電子処方箋管理サービス導入費用の補助率を22年度に比べ引き下げたが、その後、22年度と同率の補助率に引き上げた。大規模病院(病床数200床以上)162.2万円を上限、病院(大規模病院以外)108.6万円を上限、診療所19.4万円を上限、大型チェーン薬局9.7万円を上限、大型チェーン薬局以外38.7万円を上限となっている。

 補助の原資となる医療情報化支援基金(電子処方箋管理サービスの導入)383億2700万円の執行(支出)状況は、1億4200万円を執行し、2022年度第4四半期末における基金残高381億8500万円となっており、2023年度に順次執行する。

 現在、オンプレ型(利用者が管理する施設内に機器を設置)中心の医療機関・薬局システム(拠点システム)について、中長期的に、電子処方箋関連機能を含めてクラウド(データやソフトウェアをネットワーク経由で利用者に提供する)ベースのシステム構成(SaaS型想定)への移行により、負担軽減に繋がるとして、議論を継続する。

24年度から電子カルテ情報の共有開始

 電子カルテ情報に関しては、情報の標準規格化を進めるとともに、23年度から24年度にかけて(仮称)電子カルテ情報共有サービスの整備を進め、24年度から電子カルテ情報の標準化を実現した医療機関などから順次運用を開始する。

 また、24年度には、蘇生処置の関連情報や歯科・看護の領域における関連情報に対象を拡大する。救急時に、医療機関において患者の必要な医療情報が速やかに閲覧できる仕組みを整備することで、迅速な処置を可能とする。さらに、薬局との情報共有を可能にするための標準規格化(HL7 FHIRへの対応)も進める。

普及促進目指し標準型電子カルテ開発へ

 電子カルテを導入していない医療機関が少なくないため、普及促進のため標準型電子カルテを開発する。23年度に必要な要件定義等に関する調査研究を行い、24年度中に開発に着手する。導入する機関の経費負担軽減のためクラウドベースの標準型電子カルテ(HL7FHIR準拠)とし、遅くとも30年には概ねすべての医療機関において、必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す。

 ちなみに、電子カルテの普及状況は、厚生労働省の医療施設調査(2020年調査)によると、一般病院全体で57.2%(400床以上91.2%、200~399床74.8%、200床未満48.8%)。一方で、電子化する予定なしが1830、一般病院7179施設の25.5%にのぼる。一般診療所の電子カルテ普及率は49.9%で、電子化する予定なしが4万6965、一般診療所総数の45.8%にのぼる。

医療情報化支援基金・電カルは146億円

 電子カルテの導入に活用できる「IT導入補助金」では、「通常枠」で、いずれも補助率は費用の1/2、A類型は5万円以上150万円未満、B類型は150万円以上、最大で450万円の補助がある。

 一方、19年に設立された医療医療情報化支援基金(電子カルテ標準化分)は、21年度に2.4億円ほど、22年度に3億円ほど事務費として支出されており、残高は146億円ほど。両年度とも、医療機関における電子カルテ標準化の整備に係る補助金の交付業務を行うための準備業務に支出した。

 今後、開発される標準型電子カルテの新規導入、既存電子カルテの更新や改修など、基金による補助額、補助率などの詳細が注目される。

電子デバイス産業新聞 編集委員 倉知良次

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