電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第525回

世界で関心高まるXRデバイス


SDCが注力、日本企業も関連投資が相次ぐ

2023/10/27

メタが4年ぶりの後継機を発表

 6月5日の世界開発者会議(WWDC)で、アップルはMR(複合現実)ヘッドセットの「Apple Vision Pro」を2024年初頭に米で発売し、同年末から他国でも展開すると発表した。今年も年末に近づき、いよいよその時期が迫る中、他社のヘッドセットの発表も相次いでいる。

 10月には、米メタ・プラットフォームズ(メタ)がMRヘッドセットの「Meta Quest 3」を発表し、販売を開始している。19年に発売したMeta Quest 2の後継機で、128GBモデルで7万4800円(税込み)、512GBモデルは9万6800円(同)だ。

 同ヘッドセットの側面をダブルタップすれば、完全に没入したVR(仮想現実)体験と、物理的な世界に仮想的な要素を重ね融合された環境(MR)との間をシームレスに行き来できるという。グラフィック処理能力はQuest 2の2倍で、解像度を約30%近く向上させた4Kを超えるディスプレーも、片目あたりの解像度は2064×2208(光学スタックと組み合わせて)、1度あたり25ピクセル、1型あたり1218ピクセルと、Questシリーズ全体で最高の解像度を実現した、「映像リッチな」製品となった。

4年ぶりの後継機「Meta Quest 3」
4年ぶりの後継機「Meta Quest 3」
 ゲームとの親和性も高く、ソフトにも恵まれた前機種Quest 2は、世界で最も売れたヘッドセットとなったが、128GBモデルが4万円弱、256GBモデルが5万円弱の価格で販売されこともその一因となっており、Quest 3が高スペック高価格帯であることが、吉と出るか凶と出るかは今後の進展を注視する必要があるだろう。

XrealもARグラスの新製品発表

 世界で最も売れているARグラスの「XREAL Air」を展開する中国Xreal(旧Nreal)も、XREAL Air2を10月に発表した。販売価格は5万4980円(税込み)、また、上位モデルのAir 2 Pro(6万1980円)も展開する。Air 2は、前機種よりも10%軽量化して72g(ノーズパット部除く)に、厚みも10%薄型化して19mmになったという。

サングラスに近い見た目のXreal製品
サングラスに近い見た目のXreal製品
 ディスプレーは前機種に引き続きソニーの0.55型のマイクロ有機ELディスプレー(OLEDoS)を搭載し、輝度は最大で500nit、PPI=4032、FOV=46度、PPD=49、リフレッシュレート=120Hzというスペックだ。また、Proバージョンはグラス部分を調光することでサングラスのように暗くしたり、眼鏡のように透明にしたりすることができる3段階エレクトロクロミック調光技術が搭載されているという。ちなみに、前機種XREAL Airの価格は4万円弱だった。

アップルはまずはプロ向けでお試しか

 価格にフォーカスすればVision Proは3499ドル(約49万円)とのことで、圧倒的な高価格帯製品となる。「Pro」の名が付くように、まずは一般消費者よりも専門家で反応を試そうというつもりなのだろう。早くもProがとれたバージョン(つまりコンシューマー向け)がどうなるかに関心が寄せられているが、Vision Proは「空間コンピューティング」デバイスとの位置づけで、ヘッドセット型のPCに近い製品となるらしい。

 同製品もソニー製とされる2つのOLEDoSを搭載し、左右2つ合わせて2300万ピクセルもある超高解像度ディスプレー画面を実現している。これは、4KTVよりも多くの画素数が左右の目一つひとつに与えられることになるという。このOLEDoSと反射屈折レンズの組み合わせにより、鮮明な画像と、幅30mにも感じられるスクリーンを眼前に実現し、新開発したR1チップにより、ほとんど遅れの無いリアルタイムな体験の提供ができるとしている。

 さらに、新しいR1チップにより、12のカメラ、5つのセンサー、6つのマイクロフォンからの入力が処理されて、コンテンツがユーザーの目の前に現れるような感覚を生み出し、瞬きの8倍の高速速度である12mm秒で、新しいイメージをディスプレーにデータストリームとして伝送できるという。今後これを、一般消費者が日常的に使用し、そして買いたいと思える価格にまで、機能やスペックをどう落とし込んでいくのか、もしくはいかないのか、同社の動向と市場評価に関心が寄せられている。

サムスンはXR関連事業に本腰

 さて、このアップルのVision Proの動向を注視しているのがサムスンだと言われている。Vision Proへの市場反応を見て、我も参入すべしとなれば、24年中にもGalaxyシリーズなどのサムスンブランドから、ヘッドセットデバイスの製品化を発表するのではないかとみられている。すでに、サムスングループでディスプレー事業を担うサムスンディスプレイ(SDC)では、WOLED(ホワイトオーレッド)タイプのOLEDoSの生産に着手している。同社では、XR(VR、AR、MRの総称)事業を強化する方針で、既存工場のA1、A2ラインを活用して、本格的にOLEDoSに取り組む姿勢を明らかにしている。

 ソニーも手がけるOLEDoSとは、スマートフォン(スマホ)やTVのディスプレーのようにガラス基板上に有機ELディスプレー(OLED)を作り込むのではなく、シリコン基板上に高精細なOLEDを形成するもの。白色発光するOLEDにカラーフィルター(CF)を搭載することでRGB(赤緑青)3色を表示しており、ヘッドセットに搭載されるような小型OLEDでは、すべてがこのWOLEDタイプとなっている。

 またSDCでは、将来的には複数の企業が手がけるWOLEDではなく、RGB3色を塗り分けるタイプのOLEDoSを開発する計画だ。さらに、現在はグループ会社のサムスン電子が担うバックプレーン(回路基板)やCFの製造工程も、自社内で一貫生産化する計画も持つ。また、アメリカのマイクロディスプレーの開発と製造を手がけるeMagin社を買収し、同社独自の輝度向上技術を取り込むなど、かなりの本気度がうかがえる。

日本企業もXR関連に着目

 日本でも、XRデバイスに対する取り組みが増えてきている。自社ブランドのヘッドセット「MOVERIO」を手がけるエプソン、OLEDoSだけでなくさまざまなヘッドセットも手がけるソニーに加え、TDKではレーザー光源を用いた網膜投影型AR/VRグラスを発表している。QDレーザーが光学モジュールを、TDKがレーザー光源モジュールを手がけており、24年度にサンプル出荷、25年の量産開始を目指している。

 大日本印刷はSCIVAXと、ナノインプリント製品の量産を行うファンドリー事業について協業し、ARグラスの導光板向け回折格子に注力するとしている。コニカミノルタでは、AR/VRディスプレーを成長市場と見定め、AR/VRヘッドセット用レンズ向けイメージング輝度計などを展開していくほか、レンズにおいても基礎的な開発に着手したという。このほかAIメカテックがオプトランと、ARグラス用オプティカルウエーブガイド、メタバース機器関連のキーデバイス、OLEDなどをメーンターゲットに用途展開を目指す、ナノインプリントリソグラフィー事業会社を立ち上げている。

 XRヘッドセットに搭載されるディスプレーの面積は小さく、さまざまな材料の使用も少量であるものの、スマホのように日常的に一般消費者が使うものになれば、膨大な量となる。また、そういった世界を目指して米プラットフォーマーが注力していることもあり、今後のXRデバイスはこれまでにないスピードで進化していきそうだ。

電子デバイス産業新聞 記者 澤登美英子
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