電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第534回

韓国とオランダの半導体同盟


次世代EUV開発などでMOU締結

2024/1/5

 米中の半導体覇権戦争が先鋭化するなか、韓国とオランダは「半導体同盟」を公式に明文化した。この半導体同盟は、軍事安保分野の同盟関係と同程度に格上げするもので、半導体サプライチェーンをめぐり緊密に協力するほか、供給網が乱れた際には両国が共同して対応することを意味する。

ASMLを訪問した尹錫悦大統領(写真提供:韓国大統領室)
ASMLを訪問した尹錫悦大統領
(写真提供:韓国大統領室)
 オランダを国賓訪問した尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領は2023年12月13日(現地時間)、オランダの首都アムステルダムにおいてマルク・ルッテ総理と首脳会談に臨み、こうした内容を骨子とする共同声明を発表した。韓国とオランダは、「経済安保」「半導体」「供給網」に対するダイアログ(対話チャンネル)を新設。両国首脳は、半導体メーカーのサムスン電子やSKハイニックス、ASMLなどが参画する枠組みとして、韓国にEUV露光装置の共同研究所の設立と水素を用いたエコプロセス(環境にやさしい工程)の共同開発に合意した。

 具体的には、「企業や政府、大学を網羅する半導体人材育成プログラムの開設」「コア装置・材料のサプライチェーン回復力アップのための政府間の知識および情報交流」などの内容が盛り込まれた。国家間や首脳同士の声明に「半導体同盟(Semiconductor Alliance)」を明示したのは、両国ともに今回が初めてである。両国の半導体同盟は、半導体サプライチェーンにおける協力関係を現状より高いレベルに引き上げ、供給網をめぐる地政学的なリスクに双方が緊密に対応するという意志を反映したと、韓国大統領室は明かしている。したがって、同盟にふさわしい制度的な枠組みを作ることにした。外交当局間の定例ミーティングを新設し、関連産業当局間の半導体政策調整のための「半導体ダイアログ」の新設、サプライチェーン協力のMOU(覚書)をベースにした「供給網の協議体」の構築を進める。



サムスンとSKトップもASMLを訪問

 尹大統領は、ビルラム・アレクサンドル国王とASML本社(オランダ南部フェルドホーフェン)を訪問し、3件のMOUを締結した。ASML訪問には李在鎔(イ・ジェヨン)サムスングループ会長と崔泰源(チェ・テウォン)SKグループ会長も同行した。サムスン電子はASMLと「次世代半導体製造技術のR&Dセンター設立」に関するMOUを締結。両社は次世代メモリー向け露光装置の開発に向けた「EUV共同研究所」を韓国首都圏(ソウル周辺)エリアに設立し、1兆ウォン(約7億ユーロ)を共同で投資し次世代露光装置の「High Na EUV」の開発を進める。サムスン電子は共同研究所を設けて、7nm以下プロセスに必要なEUV露光装置向け半導体専門エンジニアの育成にも生かしたいとしている。

 また、SKハイニックスはASMLと「EUV向け水素ガスの再活用技術の共同開発」に対するMOUを結んだ。EUV露光装置内部における光源吸収防止用の水素ガスを焼却せずリサイクルすることにより、半導体製造プロセスのエネルギー低減効果が期待されている。さらに、韓国産業通商資源省とオランダ外務省は「韓国・オランダの先端半導体アカデミー新設」のMOUを締結。アカデミーはアイントホーフェン工科大学と韓国半導体特性化大学院(KAIST、成均館大学など)の修士・博士課程および両国の半導体メーカー関係者が対象となる。24年2月に第1次アカデミーの開催をスタートし、28年までの5年間で約500人の半導体専門人材を育成する計画だ。

 ASMLは、グローバル半導体装置市場における確固たる技術的優位を誇っている。同社は7nm以下の超微細プロセスに欠かせないEUV露光装置を業界で唯一手がける半導体装置専業メーカーだ。EUV露光装置は1台あたり2000億~3000億ウォン(約222億~333億円)に達する高価なものだが、生産可能な台数は年間わずか42台に過ぎない。このため、サムスン電子やSKハイニックス、TSMCなどが先を争って同装置の購買に躍起になっている。ちなみに中国にはEUV露光装置は1台も導入されていないのが現状で、アメリカ主導で中国への輸出を禁じている。

 韓国は、今回の半導体同盟を契機として韓国メーカーが次世代EUV露光装置を円滑に導入する場合、25年から本格化するであろう2nm世代の競争にも有利になる見通しだ。

電子デバイス産業新聞 ソウル支局長・嚴在漢

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