商業施設新聞
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第413回

東神開発(株) 常務取締役 事業創造本部長 北田拓治氏


ベトナムで大型案件が複数進行
新たな進出国を検討へ

2024/1/9

東神開発(株) 常務取締役 事業創造本部長 北田拓治氏
 高島屋グループで、商業施設開発や街づくりを担当する東神開発(株)は、ASEANを中心とした海外市場での不動産開発に注力する方針を掲げている。中でもベトナムへ集中的に経営資源を投下しており、さらに新たな進出国の検討も始めるという。常務取締役事業創造本部長の北田拓治氏に海外事業戦略を聞いた。

―― ベトナムでの展開は。
 北田 ホーチミン市中心部の大型プロジェクト「サイゴンセンター」の1期施設における資本参画を経て、2期の開発にも参画した。2期は2016年に開業し、日系百貨店として初めてベトナム進出を果たした高島屋が出店している。サイゴンセンターは高島屋を核とした商業施設、オフィス、ホテル、賃貸住宅からなる複合施設で、規模は42階建て延べ約20万m²におよぶ。
 商業面積は約5万5000m²で、そのうち約1万5000m²を高島屋が専有する。サイゴンセンターが現地で強く支持されたことにより、ベトナムにおける高島屋グループのプレゼンスが向上すると共に、東神開発としても新たなビジネスチャンスにつながっている。

―― 3期計画が控えています。開業時期や規模は。
 北田 3期は、事業パートナーのケッペルランドが行政との認可取得交渉を行っている状況で、並行して当社の事業参画も検討中だ。当初計画では商業だけで10万m²を超え、高層階にはオフィスやホテルを導入する予定だが、こちらも行政との調整が必要となる。認可取得が順調に進めば、27年ごろには開業するだろう。

―― 3期以降は。
 北田 サイゴンセンターは3期をもって完了するが、近隣に所有済みのオフィスビル「A&Bタワー」のように条件の良い物件があれば、ホーチミン市での面的拡大についても引き続き検討していく。

―― ハノイでも大型の開発を進めています。
 北田 19年にハノイに進出以降、すでに3つのエリアで展開している。1つ目はカウジャイ区にある商業・オフィスの複合施設「インドチャイナプラザ」で、これを清水建設と共同取得した。コロナ禍による一部テナントの退去を機に商業施設を大幅に刷新し、今夏リニューアル開業した。
 2つ目は、将来ハノイの副都心となる不動産開発事業「スターレイク・プロジェクト」に参画している。この事業はタイ湖西側地区、面積186haの大規模タウンシップ開発で、当社は計画地内の2区画を取得済み。
 1つは現地エデュフィット社とのアライアンスによるもので、当社が開発した教育施設にエデュフィット社が運営するバイリンガルスクールが21年2月に開校した。同社とはアライアンスを強化し、複数の教育施設を事業化する計画だ。
 もう1つの区画では商業、オフィスなどからなる大規模複合施設を当社主導で開発する。街の成熟度合いに合わせ段階的に開発する計画で、第1期の商業部分は25年以降の開業を目指す。「高島屋の入居するサイゴンセンターをハノイに呼びたい」いう韓国系デベロッパーからの強い要請が、ここで事業を始めるきっかけとなった。

―― 3つ目は。
 北田 「ランカスター・ルミネール プロジェクト」に参画している。現地のTTG社との共同出資事業となる。住宅・オフィス・商業からなる複合開発で、延べ面積は7万7000m²。今年から来年にかけて順次開業する。

―― ハノイとホーチミンのどちらに軸足を。
 北田 ハノイに重点投資をするというよりも、インフラ整備が活発で案件数が多いのがハノイ。発展はホーチミンが早かったが、ハノイがキャッチアップしている。中心部に集中しているホーチミンに対し、ハノイは旧市街があり、歴史的建物を保全するため、おのずと新しい開発エリアが周辺に散る格好だ。多くの遊休地があり、現地企業から事業参画を要請されるが、案件の立地だけではなく、パートナーとしての信頼性、許認可取得の難易度などの見極めが重要だ。

―― シンガポールの状況は。
 北田 「シンガポール高島屋S.C.」を1993年に同国最大の繁華街オーチャードロードに開業した。「シンガポール高島屋」と約130の専門店で構成されており、今年30周年を迎えた。同国において極めて高い評価をいただいている。地元からは「TAKA」の愛称で親しまれ、近隣諸国から王族が来館されるなど、大きな売り上げにつながっている。ただシンガポールは不動産価格が高く、建設費、人件費が高い。また、強い地場デベロッパーが多く、新たな不動産開発は難易度が高い。先日、当社が運営する専門店部分の長期リース契約の延長交渉が決着したこともあり、拡大を志向するよりも現施設に磨きをかけ、収益性を高めることに注力する。

―― 第3国の検討は。
 北田 ハノイでの開発が進行中でもあり、引き続きベトナムに経営資源を投下していく方針に変わりはない。一方、ベトナム進出から十数年が経ち、今後の成長を担う国の検討を開始するタイミングだとは思う。来年明けから候補地を視察したいと考える。新たな国での事業展開には、現地で優良なパートナーを見出すことが極めて重要だが、その際、シンガポール高島屋の知名度を活かしたい。それがアライアンスを組む上での一番大きな交渉材料だ。この高島屋グループとしての有力なカードをいかにうまく使うかが、新たな国へ進出する際のポイントになる。

(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2526号(2023年12月19日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり 海外編 

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