JR広島駅では、JR西日本グループが主体となり、広島市や広島電鉄と連携して駅ビルの建て替えを進めており、工事が終盤を迎えている。新駅ビルの名称は「ミナモア」に、開業日は2025年3月24日に決まった。新駅ビルは2階に路面電車が乗り入れ、JR線と乗り換えやすくなるなど、駅ソトにも賑わいが波及することが期待されている。広島駅でデベロッパー事業を担う中国SC開発(株)の代表取締役社長 竹中靖氏に話を聞いた。
―― 新駅ビルの概要から。
竹中 S造り地下1階地上20階建て延べ約11万1000m²の規模で、7階のシネマコンプレックス「MOVIX広島駅」、屋上広場を含めた商業施設の「ミナモア」、西側の7~20階の「ホテルグランヴィア広島サウスゲート」で構成する。例えば大阪駅では駅ビルと商業施設は別会社が管理・運営を担っているが、広島駅では一体で当社が管理・運営を行っていく。
―― ミナモアについて。
竹中 商業施設の店舗面積は2万5000m²で、従前の「アッセ」と比較し倍程度になる。店舗数は約200店を集積し、広島に住んでいる方に喜んでもらえるよう、中四国初や広島初などのテナントを多く誘致した。加えて〝全館カフェ〟を掲げ、各フロアに滞留時間を促す多彩なカフェを展開する。
中でも2階の路面電車の乗降フロアは施設の象徴となる空間を創造し、大窓から水面のようにキラキラと光が差し込むアトリウムで、外のテラスのような雰囲気を味わえ、そこにカフェを展開する。ヨーロッパの街のようなカフェエリアとして、コーヒーやお茶、食事を楽しみながら思い思いの時間を過ごせる空間となるだろう。
―― ミナモアのターゲット層は。
竹中 全方位で幅広い層を想定しているが、子育て世代など特定の層にも響く施設づくりを考えている。新駅ビルには7階と9階に総面積6000m²の屋上広場を整備するため、これを活かしたイベントを積極的に行い、地域の人に来てほしい。また近年、広島駅周辺にはマンションなどの住宅が増え、都心のようなライフスタイルの提供が必要と考えていた。全方位の中でも、生活にこだわりのある方や消費に意欲的な女性にも満足いただけるラインアップとしている。
―― アピールしたい店は。
竹中 「miobyDoTS(ミオバイドッツ)」は、広島の魅力発信拠点として、レストラン・カフェとインキュベーション施設で成る。インキュベーション施設は、地域創生をカギとし、地元の生産者やデザイナーなど様々な分野のビジネスマッチングができるBtoBの場。ここで産み出された地域産品や特産品、名の知れた生産者の食材を使用したメニューなどを提供し、広島を盛り上げたい。物販や飲食は一般の方ももちろん利用できる。
―― このような店舗を誘致した狙いは何でしょうか。
竹中 広島市の課題は、政令指定都市の中でも人口流出が上位で、産業の拠点性が弱い点で、働く場所や新しいビジネスを創造しなければならない。そこに駅ビルという交通の利便性に優れた立地を兼ね備え、インキュベーション機能を加えると相乗効果があると考えた。地域の企業の方にも賛同していただいた。
―― 現在の駅商業施設「エキエ」との差別化は。
竹中 新駅ビルとエキエをつなぐゾーンを24年秋に増床し、高感度な女性に訴求できるようシャネルのコスメ業態や成城石井を誘致し、ミナモア開業後はミナモアに取り込む。一方で、改札に近い施設は、土産店や飲食店が多くの観光客で賑わい、売り上げも好調だ。23年度の売上高は約200億円で、インバウンドも戻ってきた。おおまかにミナモアは地域住民、エキエは観光客と差別化する方向だ。
―― 新駅ビルは広島の街づくりに大きく影響しそうです。
竹中 路面電車が直結し、広島駅から紙屋町・八丁堀の市中との行き来は約10分に短縮する。短縮した時間はミナモアでくつろいでいただけるし、広島市全体の回遊性も向上するだろう。さらに南側は河川敷まで、東側は球場手前まで、西側はオフィスビルまでデッキとつながる予定。行きは街歩きをしながら、帰りは路面電車を利用するのも良い。市中の再開発事業も活況であるため、広島駅を拠点に、将来の街の活性化につながるはずだ。
加えて、地域の人にとって広島駅は市中になく、わざわざ訪れる立地。買い物以外で、地域の拠点となるような公的機能をしっかり合わせもつことが実現できれば、都心的な側面と地域に密着したバランスのとれた施設となり、人口の少ないエリアにある駅にも展開できるプロトタイプになるだろう。当面はミナモアの開業に向けて力を注ぐが、当社が管轄する呉駅や山口県の各拠点駅などの施設にも賑わいを波及させていきたい。
(聞き手・今村香里記者)
商業施設新聞2571号(2024年11月12日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.452