キヤノン(株)(東京都大田区)の半導体露光装置事業が好調だ。主力のi線ステッパーは前年を大きく上回る販売台数を見込んでおり、過去最高の更新を見込む。また、長年開発に取り組んできたナノインプリントリソグラフィー(NIL)装置も本格離陸のときを迎えている。インダストリアルグループを統括する武石洋明専務取締役に足元の状況ならびに2025年の展望を聞いた。
―― まずは直近の販売動向から教えて下さい。
武石 第3四半期(1~9月)決算発表時点での、24年度(24年12月期)の半導体露光装置の販売台数見通しは239台(前年度実績187台)を見込んでおり、大きく伸びる見込みだ。内訳はi線が185台(同131台)、KrFが54台(同56台)となっており、i線が大きく伸長する。
―― i線好調の背景は。
武石 これまで好調であった車載やパワー半導体向けは減速感が出ているが、DRAMを中心とするメモリー向け、それと中国向けが足元で出荷・販売を牽引している。イメージセンサー向けは例年並みといった状況だ。加えて、今期のi線拡大は先端パッケージ向けによるところも大きい。先端パッケージ向けに関しては当社が現在は高いシェアを獲得できていると見ており、昨今のAI関連投資の拡大も追い風になっている。
―― NILは。
武石 長年事業化に向けて取り組んできたが、ここ最近は大きな環境の変化を感じ取っている。半導体製造分野を筆頭に様々な領域で検討が進んでおり、デモや評価の引き合いが上市以降増えている。24年9月には、米テキサス州にある半導体コンソーシアム「Texas Institute for Electronics」にNIL装置を出荷したことをアナウンスした。半導体製造分野に関しては従来、3D-NANDが有力アプリケーションだと考えていたが、現在はこれに加え、DRAMや先端ロジック分野での本格採用も十分期待できる状況にある。
―― NILの採用機運が高まっている背景は。
武石 装置のイニシャルコスト・ランニングコストの低減に向けた動きが大きく関係している。EUVのコストが非常に重く、顧客である半導体メーカーの負担を大きくさせている。
―― 25年の見通しは。
武石 現在の受注・引き合い・出荷状況から、販売台数は引き続きプラス成長を見込む。25年以降の需要増に向け宇都宮事業所に新工場の建設を進めており、25年6月の稼働開始を予定している。新工場稼働により生産能力は21年比で約2倍に引き上がる見通しだ。
―― 新工場での増産品目は。
武石 主力のi線はもとより、KrFも25年は増える見通しで、これに備えた生産体制を構築していく。NILも新工場で生産する予定だ。
また、新工場の建設と並行してリードタイム(LT)の短縮を進めており、既存工場もあわせた物流面のてこ入れや、ガラス研磨を含む内製部材の生産LT短縮など、細かな部分を積み上げながら、事業全体にかかわるオペレーションの最適化に取り組んでいる。
(聞き手・編集長 稲葉雅巳)
本紙2024年11月28日号10面 掲載