(株)浜野製作所(東京都墨田区八広4-39-7、Tel.03-5631-9111)は、近代軽工業発祥の地と呼ばれる東京都墨田区で創業。各種装置・機械の設計開発などを中心に手がけており、開発系や設計系の仕事が現状8割程度を占めている。半導体製造装置関連、医療機器関連部品、自動車関連部品、電子部品、情報通信機関連部品など幅広い業界に対し、新規製品の提案、新規製品の共同開発や新規開発製品の試作など、細かい仕様・ニーズに応える、多品種少量生産から量産までの一貫した受注生産体制を整えている。
同社の従業員は60人。本社板金工場および「ガレージスミダ」が入居する建物の周辺に5つの工場を有しており、さらにJTの倉庫内に研究所、2022年1月には墨田区の建物を改装したベンチャーラボを開設し、7拠点でモノづくりに携わっている。
経営理念として「“おもてなしの心”を常に持ってお客様・スタッフ・地域に感謝・還元し、夢(自己実現)と希望と誇りを持った活力ある企業をめざそう」を掲げており、「この理念にそぐわない仕事はやらない」(代表取締役会長CEOの浜野慶一氏)方針だ。
同社は浜野会長の父親である浜野嘉彦氏が借工場で金型の製作からスタート。その後プレス加工も手がけるようになり、1978年には(株)浜野製作所として設立した。93年に創業者である父親が他界したため、慶一氏が社長に就任。その後、母親も他界し、雇用していた職人もリタイヤしたため1人で仕事を回す日々が続く。金型プレスは海外に移るが、精密板金は国内に残るという父親のアドバイスから、慶一氏は板橋区にある工場に勤務して技術を習得した時期があり、その時の職人が従業員として入社し2人で工場を回していたが、2000年6月に近隣の火災によるもらい火により工場が全焼する。
すぐに近くの不動産屋に行き、貸工場を借り、中古の機械屋をめぐり「蹴とばし」と呼ばれるフットプレス加工機を2台購入。焼け跡から金型を探して見つけると、分解、洗浄、組立を行い、加工作業するという日々が続いた。
火災の原因は火元となる解体現場での作業ミスによるものだったため、解体工事の元請けである住宅メーカーから賠償の提案を受ける。慶一氏は賠償額には不満があったものの、当座の資金に充当するため、申し入れを受けることにした。しかし、賠償金を受け取る予定の前日にその住宅メーカーは倒産してしまい、受け取れるはずだった賠償金については話が流れてしまった。
当時、同社の顧客は4社で、そのうち3社は従業員5~6人の企業。資金を何とかするためには新たに顧客を開拓しないといけないが、当時どこにも相談できなかった。慶一氏は大手メーカーに就職した先輩に相談し、4社を紹介してもらった。そのうちの1社に足しげく通ったところ、短納期一品物の仕事を発注された。慶一氏は指示された納期の半分の日程で納入することを繰り返し、ようやく本格的な受注を得ることができた。1年後には、4社からそれぞれ月約250万円、4社で月1000万円の仕事を受注することとなり、受けていた融資の返済のめどが立った。
同社が開発系の仕事を手がけるようになったきっかけに、交通事故により車いすの生活を余儀なくされていた少女の父親からの依頼がある。リハビリなどにより少女は再び歩けるようになる可能性を示唆されていたのだが、そのために必要なベッドに取り付ける介護部品を少女の5歳の誕生日プレゼントにしようというものだった。父親はベッドのメーカーにその部品の製作を依頼していたのだが、誕生日の直前に断られたという。慶一氏は急遽この依頼に対応し、誕生日に介護部品を間に合わせることができた。この時父親から多くの感謝の言葉を贈られたことから、同社は「ありがとう」と言われるモノづくりを目指すことになる。
同社の工場は東京都内なので土地代や最低賃金が高く、騒音の問題などから稼働できる時間も短い。同社の工場は近隣の5つの建物に分散しているが、本来だったら大きな工場1つの方が効率はいい。しかし、そのようなデメリットを覆し、東京からのメリットを発信する目的と、モノづくりの情報の上流からコミットメントしようという考えから、ものづくり実験施設「ガレージスミダ」を14年4月に開設した。
同社では現状、開発系、設計系の仕事が8割を占めるが、手がけた当初は加工の職人はいるが、エンジニアはいなかった。外部の人材を入れるのも給与面などから難しいので、自分たちで勉強するしかなかった。産学連携による、電気自動車開発プロジェクト「HOKUSAI」や深海探査船「江戸っ子1号」の設計・製作にも携わることで開発や人材育成・教育を進めた。さらに、都市型のモノづくりを進めるため、スタートアップの支援にも注力している。都市に立地している利点を最大に生かした創造的なモノづくりの開発拠点とする方針で、スタートアップの支援では、資金調達から手伝いを行う案件もある。
また、多くの大学や高専などからのインターンシップを受け入れており、さらにはトヨタ自動車、コニカミノルタ、日置電機などの大手企業からの出向者も受け入れている。これにより、ハードウエアおよびソフトウエアの人材を育てていく方針。「今までは下請けだったが、今では浜野製作所が中心となって取りまわしているプロジェクトもある」(浜野会長)。
(編集長 植田浩司、協力・MCネットワーク)