電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第627回

EVの覇権は中国のBYDが握り始め、25年目標は何と550万台


この状況下で広島のベンチャー企業が開発したEV「mibot」に注目!!

2025/6/6

 EVの世界チャンピオンとも言われたテスラの2025年1~3月期の販売台数は前年同期比13%減の33万6681万台である。創業以来、最大の落ち込みとなるものであり、大金持ちのイーロン・マスク最高経営責任者の責任が大きく問われる出来事なのである。

 一方で、イーロン・マスク氏はトランプ政権に与していたが、あろうことか政府を批判して閣僚から降りてしまった。これまた、無責任ではないかとの声が満ち満ちている。個人的感想を言えば、イーロン・マスク氏が英雄になるようでは、アメリカの将来は暗いと思っていただけに至極当然のことだと判断できるのだ。

 それはともかく、中国におけるEVの期待の星であるBYDは、5月だけの販売台数で38万2476万台を記録し、今年最高のレベルとなった。1~3月期のテスラの販売台数はBYDの1カ月分の販売台数にも満たない。なんという情けないテスラの有り様かとも言えるのである。それにしても、BYDの絶好調には目を見張るばかりである。同社の年間目標販売台数は550万台となっており、数だけで言えばEVにおけるBYDの世界チャンピオン獲得は間違いのないところだ。

 ところがである。BYDはEVで儲かっているのかと言えば、全然これがダメなのである。何と、EV1台あたり90万円の赤字を出している。さらに最大34%の値下げを断行するということであり、同業他社も追随することからBYDを含むEVメーカーの株価は一気に急落している。それでも、世界シェアを伸ばすためには何でもやる!というのがBYDの考え方であり、これぞ中国共産党のやり方なのであろう。

KGモーターズのmibot
KGモーターズのmibot
 さてこうした状況下で、日本企業においても様々な動きが出てきている。東広島のKGモーターズというベンチャー企業は、一人乗りのEV(製品名はmibot)を開発し、これがとんでもなく受注を伸ばしているのだ。全長はたったの2.5m、幅は1.1m、重量は430kgと小ぶりながら家庭用コンセントを使って5時間で充電が完了する。これで100km走行できるという優れものだ。

 今や老人天国となってしまったニッポンの高齢化社会において、このmibotは日常の足として広く受け入れられるだろう。値段もかなり安くて110万円。27年6月までに納品を予定している3300台のうち、すでに2200台を超える注文を受けた。これは、トヨタが昨年に日本で販売したEV販売台数2000台を上回るという快挙なのである。

 世界的にはEVの不人気は問題になっている。グリーンイノベーションの先頭を走ると言われたEVは値段の高さ、充電の困難さ、そして何よりもハイブリッド車の魅力に勝てないという理由から予想を下回る出荷台数しか出ていない。筆者は持論として、EVよりは燃料電池車、または水素エネルギーエンジン車が未来のエコカーとして絶対に素晴らしいと思っており、そうなれば開発で先行する日本勢が天下を取るとまで思っている。

 しかして、この広島のスタートアップ企業のEVの登場で「ああ、やはり日本人はこうしたところに気が回る神経の細かさを持っているのだ」との気づきがあり、とても何だか嬉しくなってきたのである。

 ニッポンの生き残る道は、メジャーを制覇することではない。世界中のお年寄りを救うこの一人乗りEVの開発に見られるように、小さくても大切な市場を作っていくことだと思えてならない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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