電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第606回

インテルの切り札なるか、「18A」


新型トランジスタと裏面給電技術で差別化

2025/6/13

 今年3月にインテルの新CEOに就任したリップブー・タン氏は4月開催の「Intel Vision 2025」において、業績不振に喘ぐ同社の起死回生の切り札として次世代AI対応CPU「Panther Lake」(開発コード)とともに、同CPUなどを製造する先端プロセス技術「Intel 18A」(1.8nmノード)を挙げた。

 18Aの最大の特徴が新型トランジスタ「RibbonFET」と裏面給電技術「PowerVia」の採用だ。従来技術よりも電力効率を大幅に高めることができ、性能向上などに寄与するという。同社はまた、18Aの次世代技術として、さらにブラッシュアップした「14A」(1.4nm)を27年から導入する計画で、業界での巻き返しを図っていく考えだ。

前CEO肝入りの「5N4Y」

 かつて10nm導入で競合他社より大幅に遅れた同社だが、その挽回策として前CEOのパット・ゲルシンガー氏が行ったのが4年間で5つのノードを導入する「Five Nodes in Four Year」(5N4Y)だ。具体的には、「同7」(7nm)、「同4」(4nm)、「同3」(3nm)、「20A」(2nm)、18Aで、18Aは5N4Yの最後の技術となる。

 18Aは4月からリスク生産を開始しており、下期より量産フェーズに移行する計画。製造拠点はオレゴン工場(D1)やアリゾナ工場(ファブ52)だ。

 最初の製品はAI対応CPUブランド「Core Ultra」の最新開発コードとなるPanther Lake。Panther Lakeは23年末リリースの「Meteor Lake」、(Series1、ノートPC向け)、24年9月の「Lunar Lake」(Series2、ノートPC向け)および同年10月の「Arrow Lake」(Series2、ノート・デスクトップPC、ワークステーション)に続く、第3世代(Series3、ノートPC向け)という位置づけ。AI演算能力、電力効率、CPU性能、GPU性能において大幅なスペック向上が図られている。また、Panther Lakeの後には26年リリースの「Nova Lake」が控えている。

 一方で、26年にはサーバー向けとなる次世代CPU「Xeon」の「Clearwater Forest」(開発コード)にも18Aを適用する見込みだ。Clearwater Forestは、「Xeon 6」の「Granite Rapids」(同)の後継モデルで、3次元パッケージング「Direct 3DFoveros」を含む、高度なチップレット技術が採用される。なお、18Aには派生プロセスとして性能重視の「18A-P」と、性能および電力効率を重視した「18A-PT」が用意されており、前者は4月からリスク生産に入っている。

画期的な裏面給電技術

 同社によると、18Aは「3」と比較してワットあたり性能で最大15%、チップ密度で同30%それぞれ向上するとしており、これを実現するカギとなるのがRibbonFETとPowerViaだという。

 前者はチャネルをゲートで取り囲んだ、GAA(Gate-All-Around)構造を採用したFET。チャネル内の電流を厳密に制御することで、チップ密度が増すにつれて重大な懸念となるリーク電流を低減し、かつチップの小型化を可能とする。同社によると、最小電圧動作を実現し、ワットあたり性能を大幅に引き上げるとしている。

 後者は信号と電源ラインのルーティング混在による信号遅延、電力損失、配線間ノイズといった課題に対応した技術。従来の前工程プロセスは下からトランジスタ層(ローカル配線)を形成してから配線層(グローバル配線)を作り込むが、配線層には信号と電源ラインが混在している。

 これに対し、PowerViaはトランジスタ層の下に金属配線を形成し、ナノスケールのシリコン貫通ビアを埋め込むことで電力を裏面から供給する技術。これにより配線層は信号ルーティング専用となり、配線層の混雑緩和による、上述の課題が払拭されるという。また、チップ面積と消費電力を節約し、かつ電圧低下の低減により性能も向上するとしている。なお、裏面給電技術は一般的には「Backside Power Delivery」と呼ばれており、サムスン電子やimecらも開発している。

後継の「14A」も続く

左が従来の表面給電、右がPowerViaによる裏面給電
左が従来の表面給電、右がPowerViaによる裏面給電
 一方、18Aの後継プロセスとなる「14A」(1.4nm)は27年よりリスク生産に入る計画。14AはPowerViaを再構築した「PowerDirect」と、同社初となるHigh-NA(高開口数)EUV(極端紫外線)リソグラフィー技術の採用の2点が大きな特徴。同社によると、電力効率がさらに3割程度改善し、ワットあたり性能を18Aより15~20%高めるとともに、トランジスタ密度を1.3倍程度向上するという。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東 哲也

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