電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第607回

「中国製造2025」の第1ステップを検証!


半導体と装置・材料サプライチェーンの国産化はどこまで?

2025/6/20

 米中貿易戦争の背景には中国のハイテク技術の台頭があり、両国の技術覇権争いは長期に及ぶものと考えられている。中国は2015年にハイテク技術戦略をまとめた「中国製造2025」を発表し、「世界の(下請け)工場」から脱却して、世界水準の製品とサービスを生み出す「製造強国」への転換を目指す国家戦略を打ち出した。

 「中国製造2025」では、世界の頂点に立つべく重点的に成長させる10大分野が指定された。半導体や5G通信が含まれる情報・通信技術はその筆頭に挙げられ、中国はこの計画の発表後に先端半導体の国産化の歩みを加速した。この成長には当然として中国企業自身の努力もあったが、中国政府の優遇政策や補助金などに支えられていた側面も大きかった。

 それが18~19年に米中貿易戦争という形に発展し、「中国製造2025」は再び世界の注目を集めるようになった。中国はその後、米国との摩擦を肥大化させないよう「中国製造2025」というフレーズを露骨にアピールしなくなったように見える。

 文書のタイトルには「2025」とあるが、実際は中華人民共和国の建国から100年後にあたる2049年までのロードマップが示されている。25年までの第1ステップで生産性とイノベーション力を十分に向上させ、35年までの第2ステップで重点分野において技術ブレークスルーを果たし、第3ステップの50年ごろまでに世界トップに立つという長期目標が設定されている。わかりやすくいえば、第1ステップで世界の「上の下」、第2ステップで「上の中」、第3ステップで「上の上」にランクアップしていくというイメージだ。

半導体産業の展示館に掲げられていた習近平主席のメッセージは、コア技術の国産化の重要性を説いている
半導体産業の展示館に掲げられていた習近平主席のメッセージは、コア技術の国産化の重要性を説いている
 今年(25年)はその第1目標の最終実施年にあたる。「中国製造2025」で設定された当初の目標に対して、25年までの10年間にどれだけの目標が達成できたのかを今回は検証してみようと思う。

15年の中国半導体は、製造よりも市場の側面が強かった

 15年1~4月のIC生産量(パッケージ個数)は約320億個だった。それから10年が経った25年1~4月は、なんと1600億個(15年比で5倍!)も生産されるようになった。IC産業(設計から組立・検査まで)の売上高は15年の約3600億元が20年に8850億元、23年に1.25兆元となり、25年は1.3兆元弱(15年比で約3.6倍)に達するものと予測される。この数字だけみても、中国の半導体製造が25年までの10年間に急拡大したことがわかる。

 それでは、15年ごろには中国の半導体業界はどのような状況だったのだろうか? 10年前を振り返ってみると、SMICは28nm製造でHKMG(High-k / Metal Gate)の開発に難航し、HLPの量産開始ですら遅れ続きという状況だった。28nm HLPは上海工場で歩留まりが30~50%、北京工場で30%以下しかなかった。

 紫光集団(現在は新紫光集団)は15年に米マイクロンに230億ドル(約2.8兆円)の買収提案を提示し、業界内に驚きを与えた。また、当時の米国政府は中国のスーパーコンピューター(スパコン)開発を警戒するようになった。というのも、15年の世界スパコン処理能力ランキングで中国の「天河2号」は5連覇していたからだ。米国は15年2月から中国のスパコン企業向けにインテルのCPUとNvidiaのGPUの輸出を禁止した。中国は必要な半導体を国産化するのではなく、輸入に依存している状況だった。

YMTCは20年4月に128層QLCの3D-NANDを発表した(同社リリースより)
YMTCは20年4月に128層QLCの3D-NANDを発表した(同社リリースより)
 中国政府はこの対抗策として、中国の政府機関がWindows 8を使用するのを禁止し、国有銀行に国産サーバーの使用義務を通達、また米クアルコムに独禁法違反により1200億円の罰金命令を出すなどして米中対立が色濃くなり始めていた。しかし、米国はまだ中国向けに半導体製造装置の輸出を禁ずるような段階ではなかった。中国はまだYMTCやCXMTのような国産メモリー企業が誕生すらしておらず、中国の半導体製造はまだ質と量ともに警戒レベルに至っていなかったのだ。つまり、中国は半導体の消費偏重国であり、製造力は未発達の状況にあった。

「中国製造2025」の25年目標の実施レベルをチェック

 「中国製造2025」の発表後に別途発表された産業発展ガイドラインをもとに、世界の半導体市場における中国市場の規模や半導体製造に関する数値目標を推定すると次のようになる。15年までの世界市場が2920億~3280億ドルなのに対し、中国市場は840億~1180億ドル(世界における中国シェアは28~36%)。16~20年は世界市場の3280億~4000億ドルに対して中国市場は1180億~1734億ドル(同36~43%)。25~30年は世界市場の4000億~5375億ドルに対し、中国は1734億~2445億ドル(同43~46%)となっていた。

 WSTSの最近の発表では25年の世界市場は約6970億ドルとなっており、ここで推測された4000億ドルと大きな隔たりがある。中国の半導体市場以上に、世界の半導体市場が想像以上の拡大をしたことがわかる。とくにAIサーバーなど米国を中心に高額の半導体が大量消費されるようになったことが大きな理由だろう。そのため、たしかに中国の半導体市場は予想以上の大きさになったが、中国以外の市場拡大も顕著だったために、ここで予測していたほど中国の半導体市場シェアは大きくなっていない。

 15年末の中国の300mm工場の月産能力は20万枚だった。それが20年末には70万枚(5年間で50万枚の増加)、25年末は100万枚(同30万枚の増加)、30年末は150万枚(同50万枚の増加)に拡大すると予測していた。これによると、16~20年の5年間は年平均10万枚、21~25年は同6万枚、26~30年は同10万枚の成長ということになる。

 しかし、実際はこれを遥かに上回る生産能力が増強された。21年は単年で40万枚の月産能力が積み増された。21~25年の5年間では約130万枚も増加(単純計算で100万枚も多い)するだろう。まさにこの5年間の中国の半導体「爆」投資は、「中国製造2025」でもまったく予測されていなかったということだ。米国が対中半導体規制を行ったことが中国の投資意欲を掻き立ててしまったと言って構わないだろう。

 微細化技術については、15年までに65~40nmの製造技術の開発、20年までに28nm、25年までに20~14nmの製造技術の開発となっていた。実際のところ、中国ではArF液浸露光装置を使ったマルチパターニングによる5nmプラス級のIC製造を行えるようになっているので、この技術開発ロードマップに書かれている内容は今では陳腐なものに見える。

 装置については、25年までに20~14nmプロセス対応装置の開発となっており、NAURAやAMECなど複数社がこの目標を達成している。国産装置比率は30%となっているが、これは台数ベースなのか金額ベースなのかの定義が不明のため現実との比較ができない。しかし、中国の半導体装置市場における国産装置販売は金額ベースでは24年に14%を達成している。15年には1%程度であっただろうから、これも急成長したと言って問題ないだろう。NAURA(合併前の北方微電子装備とセブンスターの合計)の売上高は14年に約5億元しかなかったが、10年後の24年には300億元弱(約60倍)に拡大している。

 材料については、20年までに65~32nm対応品、25年までに22~14nm対応品を開発するとなっている。半導体や装置の国産化に比べて国産材料の開発は総じて遅れているが、一部の材料はこの目標に近づいている。

26年から計画は第2ステップへ

 とにかく中国はこの10年間にDRAMやNANDの商業生産を始め、さらに装置や材料の国産サプライチェーンを深耕した。半導体工場のキャパは異例の増加を果たし、24年には世界需要の半分の装置を買い込んだ。まさに「中国製造2025」でも予測しきれていなかったことが現実のものとなった。

「中国製造2025」での半導体産業の発展ガイドライン
「中国製造2025」での半導体産業の発展ガイドライン

 今年、「中国製造2025」の第1ステップ(25年までの最初の10年間)が完了する。中国はこれから第2ステップの「35年までの10年目標」と新たな5カ年計画(26~30年の第15次五カ年計画)で、半導体産業の発展方針をバージョンアップするだろう。

 来年(26年)から新たな5~10年にかけて実施される中期的な取り組みが始まる。前回の30年時点の目標には「国際水準に近づく」という曖昧な説明が目立ったが、今度はより具体的な内容が示されるはずだ。しかし、その文書が一般公開されることはないのかもしれない。「能ある鷹は爪隠す」のことわざの通り、いちいち自慢して回るようなことは不要だ。場合によっては、今度も「国際水準に近づく」という表現でとどめるのかもしれない。

電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

サイト内検索