電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第608回

電動車・SDV時代へコネクターが進化


ティア1では各ユニット単体販売という新スタイルも

2025/6/27

 今年も5月下旬に「人とくるまのテクノロジー展 YOKOHAMA」(自動車技術会主催)に足を運んだ。まず初日に強烈なメッセージ性を実感したのは、トヨタ自動車ブースに車両や車体部品など「モノ」らしき展示物が一切なかったことだ。そこに展示されていたのは、トヨタが考えるサーキュラーエコノミーの説明パネルや社会課題解決などに向けた協業サービスの紹介など。佐藤恒治社長が発する「モビリティカンパニーへの変革」「パートナーとの共創を通じて、トヨタらしいSDV(Software Defined Vehicle)の基盤整備を加速する」という大きな変革への覚悟が展示コンセプトから伝わってきた。

 さて、このSDV時代に向け、半導体を取り巻く世界では統合ECUに向けた新製品、新提案が相次ぎ、同時にその周辺の電子部品でも技術革新が繰り広げられている。同展示会でも関連展示が多数、披露されていた。これらの主要どころはすでに電子デバイス産業新聞向けに執筆・報道済みのものも多いことから、書き切れていなかった車載向けコネクターを中心に、全体から感じたトレンドをレビューする。

■「大電流・高電圧」という新ニーズ

 少し話は飛躍するが6月上旬、古河電気工業(古河電工)がオンライン形式で開催した「自動車部品事業説明会」で、成長する電動車(xEV)市場に向けて、高電圧・大電流コネクター市場に参入する方向性を示唆した。すでに搭載も決まっている段階のもようで、2030年度には自動車部品製品事業売上高に占める高電圧製品比率を10%以上へ高めていく目標の一端を担うものとなりそうだ。内燃機関車(ICE)には存在せず、充電してバッテリーへ、バッテリーからモーター駆動へという高電圧・大電流を要するxEV車だからこそ必要とされる車載向けコネクターの新需要なのである。

 「人とくるまのテクノロジー展YOKOHAMA」でも、日系コネクター大手の日本航空電子工業(JAE)が、26~27年上市予定の車種向けに採用が決まっているというモーター駆動向けMW03シリーズ、急速充電向けMW05シリーズを展示していた。340A、440Aの大電流、動作電圧1000V、動作温度マイナス40℃~+150℃対応を満たすという肝入りの車載向けコネクターだ。

 この高電圧・大電流コネクターでは、EVで先行する中国や欧州向けで豊富な実績を誇るTE Connectivityやアンフェノールなど海外大手コネクターメーカーが先行しており、今回の展示ブースでもアンフェノールはこの高電圧・大電流コネクターを中心とする「電動化ソリューション」を紹介していた。TE Connectivityの日本法人担当者は、海外ですでに搭載実績のある製品をベースに日本向けに適する製品にカスタマイズして提供できる利点があると語る。

 JAEや古河電工など日系勢の本格展開により、日系OEMの高電圧・大電流コネクターの選択肢が広がり、xEV化のさらなる進展に寄与することが期待できそうだ。
 
■「高速伝送・大容量」へ開発・新製品が盛況

モレックスの「ゾーナルアーキテクチャー」製品群
モレックスの「ゾーナルアーキテクチャー」製品群
 一方、車載向けコネクターを展開する各社では、「統合ECU」を意識した展示も目立った。ここでのキーワードは高速伝送・大容量・高周波だ。外資勢ではモレックスが「ゾーナルアーキテクチャー」をテーマに、軽量化、小型化、ハーネス経路の簡素化、コスト低減などコネクター統合メリットとともに展示披露していた。なかにはカートリッジタイプを組み合わせることで電線対電線、電線対基板などで端子サイズや極数を自由に選択可能とする製品事例もあった。TE Connectivityもすでに中国や欧州のEV向けに「MATE-AXシリーズ」を展開するなど先行しているもよう。

 一方、日系勢も各社が精力的に新製品を開発・展開中だ。イリソ電子工業は車載インターフェースコネクターの複数機能を統合し、空間効率向上を実現する「車載高速伝送用Scalable(スケーラブル)コネクター」を紹介し、コネクターインターフェースの全長約20%削減が可能になるなどの特徴を説明。用途別のウエハーを組み合わせ、統合ECUとセンシングデバイスなどのコンポーネントを最適に接続できるという。具体的製品として、0.5mmピッチ、32Gbps対応で±0.1mmの可動域を持つ基板対基板コネクター「10163シリーズ」なども展示紹介していた。次世代統合ECUなど大容量データ機器の接続に対応し、電極16極、信号301極まで可能にするという。

 JAEもECU搭載コネクターとして、カメラ系高周波同軸対応の±0.8mm可動の基板対基板高速フローティング「MA02シリーズ」、±0.5mm可動の「MA01シリーズ」などを紹介。このMA02シリーズは16Gbpsの高速伝送対応、125℃車載対応、接続信頼性を確保する2点接点構造、電源端子付き電源複合、低挿抜力により多極での作業性を向上するロール面接触などを特徴とすることがパネルで紹介されていた。このほか、ネットワーク系・ディスプレー系高周波差動タイプ(MA30シリーズ)、HDMI対応品(MX50シリーズ)なども一堂に披露し、幅広いニーズに対応した製品群を取り揃えていることがうかがえた。

 ちなみにJAEは、将来の高速伝送を見据えたAOC(Active Optical Cable)ソリューションの開発にも早くから着手していることで知られる。今回の展示会ではケルもAOCを開発中であることをパネルで紹介。極細同軸ケーブル用コネクター技術を応用し、128Gbps(32Gbps/1ch×4ch)で最大30m伝送の実現を目指して開発を進めているようだ。

 このほか、ミネベアミツミ(旧本多通信工業含む)も、48極、耐電圧AC1000V、定格電圧DC50V、定格電流最大4A(電源部)、最大1A(信号部)の多極防水コネクター「KC01シリーズ」を自動車向け各種ECUや電動オイルポンプ用に適するコネクターとして紹介していた。防水性能を向上させるサンドイッチ構造で挟み込むように配置されたワイヤーシールによる個室防水構造のハウジングが特徴だという。

 ちなみに、EV化、SDVで先行する海外を筆頭に、車室内向けでUSB Type-C対応コネクターニーズも高まっていることから、各社が新製品を競っており、たとえばSMKは車載用USB Type-C対応ロック付きコネクターを披露するなど、複数社で関連展示がみられた。また、ヒロセ電機(HRS)は「人とくるまのテクノロジー展YOKOHAMA」で、EVを製造する顧客目線に立つことを体験してみよう!と、HRS製車載向けコネクターを使用したEV「HRSカー」(1900×1220×850mm)をデモ展示していた。車体・制御部をゼロから設計してみたという。

デモ展示されていたヒロセ電機の「HRSカー」
デモ展示されていたヒロセ電機の「HRSカー」
 ちなみに、このHRSカーには、ZE05シリーズ(高耐熱・高耐振性0.5型端子、2mmピッチ車載インターフェースコネクター)、GT50シリーズ(1mmピッチ/1列/小型、耐熱/耐振、内部接続向け基板対電線コネクター)、GT25シリーズ(0.64型、2.2mmピッチ基板対電線コネクター)、ZE064シリーズ(小型防水車載インターフェース用コネクター)、HVH-280シリーズ(車載対応高電圧コネクター)が搭載されていた。

■顧客ニーズから各ユニット単体販売の動きも

 一方、今回の「人とくるまのテクノロジー展YOKOHAMA」で注目されたのは、大手ティア1による各ユニット(モジュール)単体販売の流れだ。たとえばこれまでインバーター、モーター、減速機(ギア)などを機電一体化する方向性で技術革新が繰り広げられてきたeAxleを手がけるティア1各社であるが、顧客がパワーユニット部分を単体ブロックで購入して、顧客自身が自社設計のインバーターに組み込むなどの機運が高まってきたことから、シェフラーは各ブロック単体での提供から、顧客が必要とする各機能ブロックを複数組み合わせて1つの箱に入れた状態で提供したりと、柔軟な対応が可能なX-in-1ソリューションを新コンセプトとして披露していた。ボルグワーナーも従来の統合ドライブモジュール「iDMシリーズ」で提供していた方向性から、顧客ニーズに柔軟に対応する戦略に転換したことがうかがわれた。

 また、ヴァレオは、SDV時代を迎え、ソフトウエアが自動車販売後もOTA(over the air)でアップデートされ続ける状況に対し、ハードウエアはどうあるべきかに着眼した新たな提案を打ち出していた。ベースのECU上にSoC1のカートリッジ、SoC2のカートリッジ、メモリーカートリッジを搭載する「モジュラーセントラルコンピュートユニット」により、ハードウエア自体もアップデートできるという新たなコンセプトである。

 このように、自動車の電動化で内燃機関車からモーター駆動へ、という新潮流に対応すべく機電一体「eAxle」が開発・展開された初期のステージから、モーター駆動部分にも各自動車メーカーが車両全体、部材調達の総合的観点から判断してxEVを最適設計していく新たなステージに移りつつあるとみる。また、SDV時代を迎え、統合ECU化が進む中、SoCやMCUなどの半導体の進化に合わせ、コネクターなど周辺部品も急速に技術進化していることが今回改めて実感された。今後、ソフトウエアが存在感を高めながらSDV、自動運転の進化が加速していくが、これらを支え続けていくのは半導体であり、電子部品であることを再認識した。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美

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