「シリコン列島ニッポン」という言葉を用いてきたが、これは「半導体による国づくり」のことを意味するのだ。九州シリコンアイランドは、日本の半導体生産の50%以上を占有する一大集積エリアであるが、この勢いが東北から北海道にも延びてきている。
北海道においては、ラピダスが世界最先端の2nmプロセスの巨大工場立ち上げに成功したが、これに乗じていくつかの半導体企業が新増設の動きに出ている。それらはミネベアミツミ、北海道オリジン、デンソー北海道、アムコー・テクノロジー・ジャパン、デクセリアルズフォトニクスソリューションズなどであるが、とりわけ注目されるのがミネベアミツミである。
ミネベアミツミの千歳工場(ミツミ電機の千歳事業所)は、パワーデバイスを得意とする。この工場は、ルネサスグループの北日本セミコンダクタ千歳工場を譲り受けたものだ。生産能力は6インチウエハー月産3万5000枚であったが、2018年度にパワーデバイスのIGBT向けの増強を行い、月産4万枚に増強した。ファンドリービジネスは100%このミネベアミツミ千歳で行うのである。
さて、東北エリアにおける半導体の集積であるが、一番北の青森県においては、富士電機津軽セミコンダクタの設備拡張が注目されるのだ。この工場もルネサス北日本セミコンダクタから取得したものであり、富士電機においては松本工場に次ぐ国内2カ所目の前工程拠点となっている。6インチウエハー月産3万枚の能力を持つが、マイコンより工程数が少ないパワー半導体であれば5万枚程度の生産ができる。とりわけ、SiCパワー半導体に注力すべく、生産拡張を続けている。
宮城県においては、ソニー半導体の拠点が白石にあるが、ここは同社が得意とするCMOSイメージセンサーは作っておらず、半導体レーザー、レーザーカプラの一貫工程を担当し、住友電工との共同開発による出力100mWの緑色レーザーダイオードの拡大を図っている。ローム系のラピスセミコンダクタも宮城に拠点を構えている。
そしてまた、大変残念であったことは台湾PSMCがSBIホールディングスと共同で、仙台エリアに進出し1兆円近い大型設備投資で日本における新工場建設を計画したが、さまざまな理由により白紙撤回となったのだ。しかしながら、宮城県庁においてはこの進出用地に他の台湾企業などを誘致する用意があるという。
岩手県下においては、何と言っても世界的なNANDフラッシュメモリーの専業カンパニーであるキオクシアが注目される。岩手北上の第2棟の立ち上げが早まるとの情報も出始めており、かなりの大型投資になりそうなのである。
筆者が名付けた東北シリコンロードの勢いは明らかに出てきたのだ。全国的な「シリコン列島ニッポン」のウエーブは東北から北海道へと広がっており、こうした動きにはもっと注意を払う必要があるだろう。
■
泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。