世界最高レベルの純度を誇る水晶結晶作りからフォトリソ加工まで一貫の水晶デバイス製品群を武器とする日本電波工業(株)(東京都渋谷区)。車載、移動体通信をキャッシュカウとして2025年3月期に530億円の売上高を計上し、世界リーディングカンパニーに位置づけられる。同社取締役 常務執行役員兼管理本部長の竹内謙氏に、最新の取り組み、差別化点、開発や生産体制の方向性などをお聞きした。
―― 業績は総じて堅調に推移しています。
竹内 過去にコモディティー化の波に飲まれて業績不振に陥った反省を活かし、高付加価値、ニッチ、高収益なアイテムを柱としておける規模感にし、景況感や技術的コモディティー化の波に飲まれないよう、安定的・持続的成長を重視した戦略に舵を切っている。特に産業機器、宇宙防衛、光学系を伸ばすとともに、新事業も創出していく。社内的に新たなアイデアも出てきており、良い手応えがある。ただ、新中期経営計画(25~27年度)の後半に花開く可能性が高く、先行投資の側面が強い。新中計後半で必ず刈り取っていく。
―― 伸長を見込む産業機器、宇宙防衛の取り組みは。
竹内 AI・光トランシーバー向け高周波化に対応する水晶デバイス開発に挑んでいる。最高純度の水晶特性と高度なフォトリソ加工技術を活かし、MEMSデバイスと比べて位相ノイズやジッターの面で優れた性能を実現している。これにより、AIデータセンターの処理能力向上に伴って高まる「高周波・低雑音」へのニーズに対応すべく、現在は625MHzまでの高周波製品の開発に取り組んでいる。こうした技術的な強みは、高精度な同期が求められるAI演算環境において、システム全体のパフォーマンス向上に貢献している。AI時代の到来を追い風と捉え、さらなる技術革新に挑戦していく。一方、宇宙防衛向けでは、ビジネス拡大に向けて国内開発拠点2カ所を新設して事業強化していく予定である。
―― 半導体製造装置向けへの展開について。
竹内 半導体製造装置ではレーザーの高出力化が進んでいるが、従来使用されている石英ガラスは高出力レーザーで劣化する課題がある。そこで当社のホームページ上で高純度水晶原石の仕様を公開したところ、海外の半導体製造装置メーカーから早速反応があった。既存の石英ガラスから当社の高純度人工水晶を活かした波長板に置き換えればレーザーの高出力化に耐え得るという期待が高まっている。当社の水晶素材そのものが評価された好例である。
―― 英国に開発拠点を設置しました。
竹内 通信業界では通信の高速化・高周波化が進んでおり、当社が優位性を持つフォトリソ加工技術の開発強化に加え、IC開発力も必要な状況になってきた。そこで、水晶発振器向けの高精度IC開発に長けた英国のエンジニアリングチームを即戦力として採用した。彼らとはこれまで協業を検討していた背景もあった。これにより、従来は外部から調達していた水晶発振器向けICの内製化を図る。
―― 生産効率向上にも布石を打つ。
竹内 工場のスマートファクトリー化に56億円を投じ、自動化、高速化、データドリブンにし、工場生産性を23年度比3倍に高めて、30年度売上高1000億円達成を目指していく。リアルタイムに多数のデータパラメーターを収集し、かつAIの駆使により歩留まりの向上や不良品の未然予知にも挑戦していきたいと考えている。現在、函館エヌ・デー・ケー(北海道函館市)にモデルラインを構築してPoC(概念実証)を進めており、6月にキックオフも行った。構想レベルから実行レベルに移っている。
―― 大がかりな取り組みですね。
竹内 スピード感を持って進められていると感じている。これまでも現場や生産技術が各自各様に、例えば自動搬送機の導入や、製造ラインからのデータ取得などに取り組んでいたこともあり、それらを全体構想に取り込み、ロードマップを作製できた。やるべきことが明確になり、スマートファクトリー化の取り組みが着実に進むようになった。
―― 高付加価値、高精度を主軸に今後も伸長が期待できそうですね。
竹内 スマートフォン向けも含め、当社はフォトリソ加工技術を用いた水晶デバイスで高周波化、小型化において先行している。今後伸長が見込まれる52MHz以上の高周波対応品で高シェアを獲得し、存在感を高めていく。各種施策を遂行し、27年度売上高700億円以上、営業利益率10%以上、そして30年度には売上高1000億円、営業利益率20%達成を目指していく。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2025年8月21日号5面 掲載