韓国大手リチウムイオン2次電池(LiB)メーカーは最近、大型供給取引に成功し中国勢と熾烈なシェア争奪戦を展開。また、LiB関連の材料メーカーも韓国国内における本格的な生産体制を整えている。これにより、EV需要鈍化に伴うLiB業界の不振から復活の兆しを見せている。
LGエナジーソリューション(LGES、ソウル市永登浦区)は2025年9月3日、メルセデスベンツと大規模な電気自動車(EV)向けLiB供給契約を結んだ。100GWhを超える供給契約で、金額は15兆ウォン(約1.6兆円)と推定される。
同社の契約は特に、価格競争力の優位を武器としていた中国メーカーとの熾烈な競争で収めた成果であるため、LGESの46シリーズ(46mmの円筒型LiB)が技術的に先行したことを立証したといえる。同社はこの日の公示を通じて、ベンツと米国で75GWh規模のEV向けLiB供給を29年7月~37年12月まで、ヨーロッパには32GWh規模のEV向けLiB供給を28年8月~35年12月まで担う、計2件の契約を締結したと説明した。
ソウル証券街筋では、これら2件の供給品目は、次世代円筒型LiBの46シリーズと推測している。これはEV約150万台が作れる物量で、LGESは24年に続いて25年も46シリーズをベースにベンツと大規模供給契約を結んだことになり、ベンツの大口取引先としての位置づけを固めている。実際、同社は24年10月に北米地域で50.5GWh規模のEV向けLiB供給契約を結んでいる。これも46シリーズと推測されており、LGESは46シリーズだけでベンツと総量150GWh強の契約を締結したことになる。
また、SKオン(ソウル市鍾路区)は大規模なESS(エネルギー貯蔵装置)のプロジェクトを受注し、北米で生産するLFP(リン酸鉄)バッテリーで同市場への本格参入を進める。米コロラド州に本社を置く再エネ企業のフラットアイアンエネルギー開発と、1GWh規模のESS供給契約を締結したと9月3日に公表した。この契約でSKオンは、フラットアイアン社が進めるマサチューセッツ州プロジェクトに、LFPバッテリーを搭載したコンテナ型ESS製品を26年に供給する。さらに、フラットアイアン社には30年まで、マサチューセッツ州を含め米国で推進する6.2GWh規模の優先協商権を確保し、26年から向こう4年間で最大7.2GWh規模のESS製品を納入する。
ソウル証券街筋では、今回の受注額は2兆ウォン(約2150億円)強と推算している。ESSの1GWhあたり受注額を3000億ウォンとし、SKオンが計画どおりに7.2GWhのESS製品を供給することが前提だ。同社は26年下期(7~12月)からESS専用LFPバッテリーの量産を始める。米ジョージア州のSKバッテリー・アメリカ工場のEV向けLiBラインの一部をESSラインに転換し、現地生産体制を構築して需要にタイムリーに対応する計画だ。
25年上期(1~6月)業績として、LGESは売上高が前年同期比3.7%減の11兆8304億ウォンとなったが、営業利益は同145.8%増の8668億ウォンだった。一方、SKオンは売上高が3兆7563億ウォンだが、営業損失が4741億ウォンと依然赤字が続いており、25年通期業績で長らく続く赤字経営からの脱出が求められている。
LSグループはLiB材料の実用化に取り組む
他方、LSグループは最近、系列会社の総力を結集し、LiB材料の実用化に取り組んでいる。LSグループは、旧ラッキー金星からLGグループと分かれた韓国大手企業の1つ。LiB市場は現在、需要低迷と供給過剰で苦戦を強いられているが、トランプ政権の中国デリスキング(リスク解消)政策に伴う利益が期待されているため、LiB材料をLSグループの長期的な新成長動力に定めている。
プリカーサー工場完成を際して訪れたLSグループの具会長(写真左側、9月30日) 写真提供:LSグループ
25年9月30日にLS・LNFバッテリー・ソリューション(LLBS、全羅北道群山市)は、セマングム(全羅北道海岸地域の埋め立て地)に新規の前駆体(プリカーサー)工場を完成させた。LLBSは、非鉄金属素材分野で競争力を有するLSグループと、ハイニッケル正極材専業メーカーのエルエヌエフ(大邱広域市達西区)が23年に共同設立したLSグループの子会社だ。LLBSの工場建設には総額1兆ウォン(約1075億円)が投じられ、年間4万t規模のプリカーサーを生産する計画だ。
韓国は需要の90%強のプリカーサーを中国から輸入しており、サプライチェーン内で国産化が求められていた。また、LSグループの非鉄金属製錬系列会社であるLS MnM(蔚山広域市蔚州郡)は、26年上期に大規模な硫黄ニッケル生産拠点のEVBM(EV向けLiB材料)工場(蔚山広域市温山邑)を完成させる計画だ。現状で温山製錬所の敷地内に6700億ウォンを投じて建設しており、年間キャパシティーは2万tとなる。
硫黄ニッケルはプリカーサーのコア材料。LS MnMがLLBSに硫黄ニッケルを供給し、LLBSはプリカーサーを製造してパートナーのエルエヌエフに納品する構造だ。これを通してLSグループは、原料から完成品まで垂直系列化したLiB材料バリューチェーンを構築し、韓国内外のLiBメーカーに納入することになる。
こうしてLSグループが積極投資に踏み切る背景には、米国による「脱中国・デリスキング」政策がある。米国は22年からインフレ抑制法(IRA)に基づいて中国産のLiB材料規制を強化してきた。また最近、トランプ政権が通過させたOBBBA(大規模な減税法案)は、こうした基調をさらに鮮明化している。OBBBAにより、26年からは中国をはじめとする禁止外国機関(PFE)生産の資材割合が60%を超えるLiBは、先端製造税額控除(AMPC)から除外される。そうなると、LiB材料の脱中国化は加速する見通しだ。
グローバルに中国以外のLiB向け正極材を大量生産する国は韓国が唯一だ。したがって、26年から韓国産のLiB材料に対する米国向け需要は大きく増える可能性が高い。LSグループは安定的な原料確保のため、ニッケルの最多保有国であるインドネシアにおけるニッケル製錬所と鉱山との幅広い協力を進めている。インドネシアはトランプ関税の影響が比較的少ない国家といわれているためだ。
一方、具滋殷(グ・ジャウン)LSグループ会長が強力に推進している電気・電力・素材産業の高度化とともに、炭素の排出がない電力(CO2フリー電力・CFE)をはじめ、バッテリーやEV、半導体関連ビジネスの拡大がある。主軸会社の(株)LS(ソウル市龍山区)は最近数年間、継続的に成長しており、24年通期連結売上高は27兆5447億ウォン、営業利益は1兆729億ウォンで、前年比それぞれ13%増、19%増の増収増益を果たしている。こうした積極的な事業戦略を通して具会長は、きたる30年に資産50兆ウォン(約5.37兆円)企業に飛躍したいとしている。
電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴 在漢