電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第625回

元気のよい韓国基板産業


パッケージ基板など成長分野に照準

2025/10/24

 韓国の基板業界が活況だ。2025年の生産額は前年比で3割ほど成長し、14兆1200億ウォンまで拡大する見通しだ。この成長を支えているのはICパッケージ基板で、1年前よりもほぼ倍増して、8兆ウォンを突破する勢いだ。KPCA Show 2025を見ても次世代のガラス基板の開発意欲が旺盛で、新技術の発信力などが目立つ。

 足元の個別メーカーの業績も好調に推移している。サムスン電機(SEMCO)のパッケージ基板事業の25年4~6月売上高は、前年同期比13%増の5646億ウォンだった。サーバー向けFCBGAおよびArmプロセッサー向けBGAなど高付加価値パッケージ基板の販売が拡大したことに加え、4~6月期から本格供給を開始したAI半導体向けFCBGAも業績に寄与したことが大きい。25年7~9月期のパッケージ基板事業は、サーバーおよびAI半導体向けFCBGAの需要が継続する見込みだ。

SEMCOはFCBGA基板事業が急回復
SEMCOはFCBGA基板事業が急回復
 特にAI半導体向けに関しては、10~12月期においても需要が堅調に推移する見通しで、大面積・高多層といった高付加価値製品の販売が拡大することで、25年におけるFCBGAの売上高は前年比で2倍以上を計画する。また、新型スマートフォンの発売でメモリー向けのパッケージ基板やSiPなどの需要も増加する見込み。さらに、サーバー向けFCBGAの新規需要も迅速に対応する方針だ。

LGイノテックもパッケージ基板事業を強化
LGイノテックもパッケージ基板事業を強化
 LGイノテックもパッケージ基板ビジネスが好調だ。4~6月期のサブストレート&マテリアル事業の売上高は同10%増の4162億ウォンだった。RF-SiPを中心としたモバイル向けパッケージ基板の安定的な需要が増収につながった。同事業の売上高のうち、パッケージ基板製品は62%を占めている。25年下期は、主要顧客の新モデルの量産が本格化し、カメラモジュールをはじめ、RF-SiPなどのパッケージ基板の需要が増加すると予想する。

 シムテックは、メモリー分野では世界トップを走る。モバイル向けDRAM、NANDフラッシュ、GDDRなどスペシャリティーメモリー向けのMSAP基板部門でもリーディング企業だ。最近はAIやHPC向けで需要が増加しており、販売の拡大が加速している。また、FCCSP部門で安定的な売上成長を持続しており、RF-SiPやBT基板のS-FCBGAなどの開発および量産に力を入れている。

 同社は日本にも拠点(長野県茅野市)を持ち、グローバル展開を加速している。GDDR向け生産を中心に、モバイルDRAMおよびNAND向けなどスペシャリティーメモリー向けMSAP基板を主に量産している。最近はSoC向け高付加価値製品の量産準備をするなど技術難易度が高い製品を担当しており、グループ全体の技術強化の主要拠点となる。現在稼働率が急激に上昇しており、25年末にはフルキャパシティーに到達すると予想する。中長期的には日本国内の車載半導体向け高付加価値基板の需要へ積極的に対応し、売り上げの拡大を推進していく。

 すでにSoC向け大面積パッケージ基板の開発および量産に成功しており、専用の量産設備に対する投資も完了した。今後もこのような技術力と量産経験を背景に、チップレットなど大面積・高密度パッケージ基板の需要に柔軟に対応していく。

 25年下期は、スペシャリティーメモリー半導体の需要回復によって関連製品の売り上げの成長およびSoC向け高付加価値製品の売り上げが本格拡大し、業績が改善すると予想する。中長期的には、SoC向けSAP基板の技術開発および売上拡大を継続し、高付加価値のパッケージ基板で全社売上高の40%の水準まで拡大させる計画だ。

 25年に創立60周年を迎えた大徳電子もパッケージ基板事業に軸足を移す。同社は、幅広い基板製品群を以前は展開したが、現在は半導体パッケージとMLB(高多層高密度配線板)の2事業に注力する。パッケージ基板事業の売上比率は、メモリーが75%、非メモリーが25%。直近は非メモリーの比率が増加しており、特にAIサーバー向けでFCBGAの需要が急増している。

 これに加え、これまでモバイルとサーバー向け中心であったFCBGA事業を車載向けにも拡大している。EV(電気自動車)や自動運転関連の需要が増加していることから、車載向け基板の需要が好調に推移している。また、MLBでは新事業として、UBBやOAMを含めたAIアクセラレーター向けを強化しており、今後の事業拡大を加速する。

 売上比率をみると、パッケージ基板事業が約9割で、MLB事業が約1割。25年4~6月期の業績は、売上高が前年同期比3%増の2459億ウォン、営業利益も19億ウォンを確保した。24年10~12月期から2四半期連続で損失を計上していたが、黒字転換を達成した。足元では急速に回復基調となっており、25年通年では前年比17%の増収を計画する。

 生産体制は、韓国国内に安山工場と始興工場を有し、安山工場では主にMLBとFCBGA、始興工場ではFCCSPなどメモリー向け基板を生産している。21年にはパッケージ関連工場に5000億ウォンを投じると発表しており、現段階で3000億ウォンを投資。残りの2000億ウォンは今後の需要環境に応じて進める計画だ。

 中長期的には、非メモリーの売上成長とともに生産能力を増強する戦略だ。MLB事業では宇宙航空産業向けなど新たな事業領域の拡大に取り組み、28~29年には全社で2兆ウォンの売上高を目指す。

次世代ガラスコア基板の開発も急ピッチ

 韓国ではサムスン電子やSKハイニックスの存在があるため、HBMなどの高速信号処理に対応した次世代メモリー向けのハイエンドパッケージの開発をリードしている。HBMを組み込んだAIチップ向けの大型基板の開発も急ピッチで進むが、低反り性や電気特性の向上を狙ってガラスコア基板の開発意欲も旺盛だ。

 サムスン電機やLGイノテックなどの大手企業による開発も活発化する。ガラス基板市場への参入を発表したサムスン電機は、世宗工場で試作ラインの稼働を開始した。LGイノテックも同分野への参入計画を持っており、亀尾工場にパイロットラインを建設し、25年末までに試作生産を開始する予定だ。

 もともと韓国系企業ではアブソリックス(Absolics)が有名だ。韓国大手財閥SKグループの化学素材メーカーのSKC傘下の企業で、いち早くガラスコア基板の生産拠点を米国ジョージア州に建設、注目されている。米国政府からも最大7500万ドルの補助金を受け取ることができ、着々と量産に向けた動きを加速させている。

 韓国基板業界は次世代ガラス基板のみならず、開発で肝になる製造プロセス・装置市場でも主導権を握ろうと一気に攻勢をかける。

 なかでも新興勢として急浮上してきたのが先端ガラス材料などを手がけるJNTC(韓国・華城市)だ。同社は今夏から韓国内(京畿道華城馬島工業団地内)において月産1万枚で生産を開始、ガラス貫通ビア(TGV)基板の本格生産に乗り出している。25年10~12月期にはベトナムでも大規模な製造拠点を立ち上げる。

 韓国の大手基板および半導体パッケージ基板を主要顧客に持つウエットプロセス装置メーカーのテソン(Taesung)は、TGVアルカリエッチング装置を25年8月に出荷した。独自の精密ウエットエッチング技術を搭載、高密度・高アスペクト比設計に不可欠な最小限のテーパー角や側壁面の低粗度化、高い寸法精度を備えた超微細TGV加工を可能にした。

 新興企業のフィルオプティクス(Philoptics)は、TGV加工用途でビア形成向けのレーザー改質装置などを提案中だ。検査工程までの一連の工程をカバーする検査機もラインアップしたほか、先端DI機などリソグラフィー工程まで視野に入れ、存在感を高めようとしている。


電子デバイス産業新聞 特別編集委員 野村和広

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